第16話 バウムクーヘンと風船②
くるみと手をつないで歩きながら考えた。まさか一昨日会ったばかりの8歳児のおもりをすることになるとは思ってもみなかった。
もしも今、警察官に職務質問をされたどうする?妹と言ってごまかす?いや、嘘はよく無い。かといって本当のことを言うとなると、『俺は今、懲役刑の最中で血のつながりのない8歳児を連れまわして、お空に飛んで行った風船を探しています』ってことになる。
そっちの方がまずい。
今は絶対に警察官に出合ってはいけない。そう願えば願うほど、、、あってしまう。
「あら?津部さん?」
「?!ど、どうも」
荒木戸さんだ。同じ
「この前頂いた、ホワイトチョコとダブルシューがおいしすぎて、教えていただいたお店の名前から場所を調べて来ちゃいました。越野さんの妹さんのお店に」
そういうことだったか。一瞬誰だか分からなかった。いつもは警察の制服を着用して、丸眼鏡で髪を後ろで三つ編みしていた荒木戸さんが、私服でコンタクト?いつもの丸眼鏡を外している。
ピンクを基調としたフリフリの洋服に俺の目はチカチカした。
「この子は?まさか誘拐?なわけないよね。もしかして、越野さんのお子さんかな?」
「こんにちは。こしのくるみです。よろしくね」
「あら、立派にご挨拶出来て偉いわね。私は荒木戸メイです。よろしくね。こう見えてポリスメンよ。バキュン!」
「メイお姉ちゃん!バキュン!バキュン!」
やはり鋭い。普段も今もおっとりしているように見えて、とにかく勘が鋭い。いや、あらゆる情報を頭の中に記憶させているから、分析能力が高いのかもしれない。
でも、先生に子供がいるなんてどうして知っているんだ?まあいいや。
俺は店の扉を開けて、くるみと荒木戸さんを店内へエスコートした。
「美佳お姉ちゃん~」
くるみが大声で呼ぶと、美佳がキッチン工房から出てきた。ざわつく店内。どうやら、俺が店のHPに乗せた美佳のピチ服姿にファンができたようだ。
それだけじゃなく、スイーツ好きらしき若い女性も多く入店していて、にぎわっているようでなによりだ。
持ってきた弁当を渡すと、美佳が俺の横にいた荒木戸さんを気にしだした。
「さっき、ばったり店の前であったんだけど、こちら俺の職場の同じ課の荒木戸さん。美佳の作ったお菓子がおいしくて、来てくれたんだって」
「そうだったのね。アタイはてっきり、、、あいや何でもない」
「越野さんの妹さんですね。初めまして荒木戸メイです。頂いたお菓子は絶品でした。今日はいっぱい買わせてもらってもいいですか?」
「キョンの同僚さんだったら、好きなだけ持ってってよ!全部タダでいいからさ」
「い、いけません。こんなおいしいお菓子は相応の対価をお支払いさせていただきます」
二人の謎の戦いが始まったので、俺とくるみはそそくさと店を出た。
店の前にあったベンチに二人で腰を掛け、持ってきたノートパソコンを開くと、一晩中計算させていた『風船軌道推測シミュレーションソフト』の結果を見た。
風船は、それほど遠くまでは行っていないようだ。結果を元に表示された方向へと歩き出そうとすると、荒木戸さんが店から出てきた。
「おいしそうなお菓子をたくさん買わせてもらったわ。ところで、津部さんはパソコンを見て何してるの?」
「ああ、これは『風船軌道推測シミュレーションソフト』で、昨日スーパーでもらった風船をくるみが手放して飛んで行ったから、それを探しているんだ」
「なんだか、すっごく面白そうね。私もついて行っていい?」
「メイお姉ちゃんも一緒に探す~」
どうやら、くるみ様の許可が下りたようだ。ただ、面白そうだって、これ遊びじゃなくて俺への罰なんなけどな。
3人でくるみを中心に手をつないで歩き出した。
ソフトが示した目的地に着いた。計算結果によればこのあたりに風船があるはずだ。
俺は辺りを見回して木や電柱に引っ掛かってないか、割れて周りに残骸が無いかを確認したが、見つけることができなかった。
そりゃそうだ、シミュレーションの世界っていうのはそう簡単なものじゃない。
あらゆる条件を入力してパソコンに計算させることは、いわばもう一つの現実世界を作り上げることに等しい。
それゆえ、莫大な計算能力のあるパソコンが必要になる。俺は工夫をしながら、だいぶ簡略化して作り上げたが、やはり無理だったか。
あきらめて、くるみに探せなかったことを
「ちょっと私にも見せてよ。そのパソコン」
そういえば荒木戸さんは地質学や気象学のエキスパートだと言っていたような。俺の書いたプログラムを理解できるとは思わないが、一応見せてみるか。
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