第15話 バウムクーヘンと風船①
俺が13歳の時、父親が家を出て行った。母親からは入院したと聞かされたから、当時はまだオンラインでインターネットにつながっていた
しかし結局見つからなかった。母親が何度も浮気をして愛想をつかされ逃げられて、うしろめたさから俺に嘘をついていただけだった。
父親のお見舞いに行けば家族ってやつの絆みたいなものが生まれるのかと思ったが、幻想だった。父親は俺を置いて出て行き、母親は俺を置いたままにして、また浮気してた。
こうして俺は大人を信用しなくなり、ハッキングされたことに気づいた病院はセキュリティレベルを上げて、ああなった。
嘘をつかれていいことなんて一つもない。でも、この後聞いた嘘はそれには当たらない。例外だ。ついてもいい嘘があるってことを俺は知った。
夕食
今日の晩飯はエビフライだった。もちろん大好きだ。そしてその横にある美佳が持ってきてくれたケーキはさらにだ。そして食卓の向かいに座るいつも笑顔のくるみはさらに、、、ん?
どうした?今日は元気がなさそうだ。エビフライが嫌いなのか?
「どうした?くるみ。元気が無いようだけど」
「ああ、さっきアタイと一緒にスーパーへ行って、店の出口でもらった風船を帰り道で手放して飛んで行っちゃったんだ」
美佳が説明してくれた。
俺は、そのタダでもらった風船に一瞬で愛着を持ち、それが何処かへ飛んで行ってしまって悲しくなってしまったというエピソードでさえ、かわいく感じて笑ってしまった。
「なんだ。そんなことで悲しんでいたのか?くるみは子供だな。ふぁっ」
「ん”ん”ん”。あ”ー!あ”ー!」
泣いた?元気づけようとしただけだったが、完全に裏目に出た。調子に乗ってしまった。まずい、まずいぞ俺!
こんな時の対処法がまったくわからい。検索したら出てくるか?泣いた子供の対処法?いや違う。泣かせた子供の対処法?
「キョン!言いすぎだぞ!アタイはくぅーちゃんを泣かす奴は許さない。キョンは明日休みだったよな?罰として明日一日、くるみの風船を探して来い!」
おいおい、俺は確かに休みだが、お空に飛んで行った風船を探す?それってネットの海に漂う『本当に儲かる情報』並みに難しいぞ。
「あたちもキョン兄ちゃんと探す~」
「そうね、明日はくるみが休みだけど、私も美佳も仕事があるから杏太郎君に一日、くるみの面倒見てもらおうかしら?」
く、くるみさーん。ついさっきまで泣いてたのに、ずいぶん変わり身の早い8歳児ですこと。
それに先生は何を考えているんだ?俺なんかが子供の面倒を見られるわけがないだろ?しかも風船を探すミッションまであるなんて、どうかしてるぜ。
「見つけられなかったら、似たようなのを探して買ってあげてくれくれればいいから」
先生が小声で俺に言った。俺が引き受けるかどうかの答えを聞く前にだ。後に引けなくなった。ここで断ればまた、くるみが泣いてしまいかねない。やってみるか。
晩飯後、俺は部屋でノートパソコンを起動して、飛んで行った風船を探す方法を考えた。
地図情報と気象情報を読み込んでシミュレーションすれば、ある程度は飛んでいった方向を見つけられるかもしれない。
俺は気象庁やマップサイトから公開されている情報を入手して、『風船軌道推測シミュレーションソフト』をプログラミングしてみた。
風向、風速、湿度、気圧、地形。思いつく情報を手あたり次第入れ込んで、ソフトがある程度形になったところで、パソコンに計算をさせてみた。
遅い。
分単位のいくつものデータを重ね合わせながら計算させるのには、このノートパソコンでは非力であったが、一晩中計算させておけば何とかなるかと思い、その日はパソコンを動かしたまま眠りについた。
朝
「じゃあ、杏太郎君。先に出るから後よろしくね。それから、このお弁当は杏太郎君とくるみと美佳の分よ。出かける時、美佳のお店に届けてあげて。
あと、これはお小遣い。無駄遣いしちゃだめよ。行ってきまーす」
「ママー。いってらっさーい」
「い、行ってらっしゃい」
い、行ってしまった。風船を探すだとか、お弁当を届けるだとかはどうでもいい。とにかく今日の目標はくるみを泣かせないことだ。そこに集中していこう。
昨日のことがあるからな。まずは言動に注意しよう。
「くるみさーん。僕たちもそろそろお出かけしましょうかー?」
「いいよ!でも、パパとじいじとばあばに行ってきます言ってくる」
そうだった。1年前に飛行機事故で他界されていたんだ。でも、8歳の子供って死の概念ってあるのか?理解しているのか?
気になる、、、が、また余計なことを口走ってしまいそうだ。ここはひとまず話を合わせておこう。
俺は、越野家に来てまだ入ったことのない部屋がいくつかある。先生の部屋と美佳の部屋ともう一つ。そのもう一つの部屋に行く、くるみについて行くと仏壇があった。
おそらく先生の両親の部屋だったのだろう。仏壇に並べられた3人の写真に手を合わせたくるみの姿を見て、その後ろから俺もなんとなく手を合わせてみた。
「今日は、キョン兄ちゃんと遊んで来るよ~」
意外としっかりしている。俺の方がくるみに面倒を見てもらっているようだ。
そして、俺とくるみは弁当とノートパソコンを持って、歩いて5分の所にある美佳の洋菓子店へと向かった。
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