第14話 ダブルシューとライバル⑤
「今、俺のアカウントからリシャベーリした」
「おや?津部君のアカウント名は『ツブアン』と言うのですね。す、すごいです!フォロワー数が100万人?!」
「何?!『ツブアン』だと?お前がそうだったのか?」
「角嶋巡査長は知っていたのですか?」
「知ってるも何も、自分もフォロワーの一人です。
最新IT機器やオープンソースコードの評論家で、毒舌が売りで多くのフォロワーを持つアカウントです。自分はてっきり工学系の大学教授あたりが匿名でやっていたものとばかり考えていました。
そうか、どおりで3年前からつぶやきが無いと思っていたら津部杏太郎が中の人だったのか」
毒舌ってなんだよ。ただ本音をつぶやいてただけだっつうの。
まあいい。俺のアカウントはITに関心を持つヤツばかりだ。このリシャベーリによって少しくらいは特殊ケーブルの集まりがよくなればいいが。
「すごい!シャベッターのトレンド1位に『ツブアン』が入りました!ファンから歓喜の復帰祝福シャベーリが多数発信されています!
このまま、ケーブルが集まればいいのですが、、、角嶋巡査長、進捗状況はどうですか?」
「来てます来てます!ケーブルが届けられた各警察署から病院へ運ばれて、続々とデータが集まっています!今、160まで集まりました。
クソッ!それでもまだ、シルエット検索には引っ掛かりません!」
「190・・・
195・・・
200・・・
ヒット!!
氏名は沢江俊伸!さいたま市の病院患者です!」
「よし!すぐに警視庁捜査一課へ連絡だ!こちらでもその人物について調べましょう!」
「両親と弟が都内にいるようです。これも情報提供しました」
「よくやった角嶋巡査長!あとは、契約携帯電話から位置を探せないか?」
「私の方でやってみましたが、容疑者は携帯の電源を切っているようです」
「そうか。荒木戸係長は引き続き電波を追ってくれ!」
「はい!」
「容疑者はアジトが火事になって親族を頼って立ち寄るかもしれません。近くの交番勤務員と警視庁捜査一課に向かってもらいましょう」
10分後
無線:「沢江俊伸容疑者確保!容疑者確保!尚、容疑者は25年前の犯行と偽ブランド品販売を自供している模様。以上」
「「「「ヤッター!」」」」
4人でハイタッチして喜んだ。
俺は絶対にこんなことをしない人種だと思っていた。そういうことをする奴らは上辺だけのお仲間ごっこが好きな、烏合の衆だと冷めた目で見ていた。
だが、自然と体が動いた。体の中の鉄分が足りなくなると、自然とひじきを食べたくなるように、俺は共感を欲していたのか?仲間を欲していたのか?
もっと喜びを分かち合いたい。俺はカバンの中から、美佳にもらったダブルシューを取り出してみんなへ配った。
「ありがとうございます。津部君」
「ありがとう。津部さん」
「どうも。ツブアン」
それで乾杯をして、それをほおばった。
それほど好きではないと思って食べたダブルシューの味は、他のケーキと同等に最高なおいしさだった。いや、期待をしていなかった分だけ、爆発的においしく感じた。
朝の通勤時に出会う他人達のように、交わることのない平行線がある一方、大学でプログラミングを学んできた警察官と、独学でプログラミングを学んで悪さをして少年院に入った俺が、何かの拍子で出会った時、想像をはるかに超えた大きなパワーを生み出した。
そう、別々の工程を経てきたクリームがシュー生地の中で一つになるお菓子のように。
久々に食べたダブルシューをおいしいと感じたのは、今までの俺が貧しい感受性だったからという理由だけではない。
サバイブのメンバーと一つの目標を成し遂げた喜びの中、食べたからだ。
俺は今、家族という集合体を知りかけている途中だったが、その前に仲間という集合体を知った。そしてそれを大切にしていきたいと思った。
帰宅
「ただいま」
家の中に誰がいるのか分かりはしなかったが、おととい住み着いたばかりの家ではあったが、先生の真似をして言ってみた。一度言ってみたかった。
「お帰り。杏太郎君。もう少しで夕飯出来るからね」
先生がいた。
返事をしてくれた。
嬉しかった。
もっと話をしたいと思って、今日一日何があったか聞いてほしいと思って、俺は特に欲しくもなかったが、先生の近くまで行って水を飲んでもいいか聞いた。
「水を一杯飲んでもいいか?」
「・・・杏太郎君。私に断らなくても水を飲んでもいいわよ。それに、今日一日何があったのか話したければ話していいのよ。
ここはあなたの家でもあるんだから。何かあるんでしょ?」
先生にはかなわん。何でもお見通しだ。
「なぁ先生。今日さ、面白い奴と出会ったんだ。正確には会ったのは昨日なんだけどさ、そいつの面白い一面を今日、知ったんだ。
そいつがすごいことをやると俺はもっとすごいことをしたくなる。そいつが困っていると俺は助けたくなる。
嫌味を言い合うけど、それがそんなに嫌じゃなく俺も奴も成長していけるような感覚。な?面白いだろ?」
「それはライバルってやつね。出会おうと思って出会えるものじゃないわ。杏太郎君と同じことを、きっと相手も考えてると思うよ。君が面白いヤツだってね。大切にしなさい」
「大切にって、競っているのにどうやって?」
「それは自分で考えなさい。自分の周りの人をどう大切にするかで、あなたのアイデンティティが生まれるのよ」
「そっか。わかった」
「さぁ、揚げ物やるから離れてて!」
少年院に入るまでに出会ってきた大人達は、俺を利用するか騙そうとするやつしいなかった。俺も自然とその一人になっていった。でも、越野家とサバイブは違う。奴らとはちょうど真逆の位置にいる人たちだ。
俺はまだそちらの領域まで行けていない。見えてはいる。仲間に誘ってくれてもいる。
後は俺次第なのかもしれない。先生の出してくれた手を俺は見失わないようにして、いつか力強く掴みたい。そして、
彼女を守れるくらいにまで、なりたい。
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