第13話 ダブルシューとライバル④

 俺と角嶋は、患者データ吸出し転送アプリを作るため、一心不乱にキーボードを叩き続けた。


 カタカタカタカタカタカタカタ


「は、早い!なんてスピードだ!二つの画面がほぼ同時のタイミングで文字や数字で埋め尽くされていく!まるでピアノ連弾を見ているようだ。

 角嶋巡査長の腕は前々から見てきたから、警察庁一だとは知っていたが、津部君が彼に食らいついてる?いや、抜きつ抜かれつのほぼ互角だ!

 ん?目線を頻繁に横へずらしているぞ。もしかして、お互いのモニターを確認し合っている?自分のプログラミングだけでなく相手の進捗状況をも把握しながら組み立てているとでもいうのか?

 間違いない。これによって、変数の宣言を合わせながらやっている。信じられない、この二人、息がぴったりだ」


「原課長。心の声がダダ洩れしてますよ」

「おっと、すまなかった角嶋巡査長。って、私の雑談を聞きながらも手を動かし続けることができているのか?頭の中の構造はいったいどうなっているんだ」


「課長!集中させてください」

「すまんすまん。がんばってください!角嶋巡査長!津部君!

 僕もこうしちゃいれれない。特殊端子の通信ケーブルを集めるための作戦と、全国の警察官を動員すために局長以上の決裁を取らなくてはいけない。

 サバイブ始まって以来の大仕事だ。絶対に犯人を捕まえてみせましょう」


 モニターに向かってプログラムを打ち込んでいる指だけじゃなく、心まで弾んでいるのが分かる。角嶋の言う通り、傷ついた人がいる。だからダメなんだ、ダメなんだって俺。

 でも、でもしかし、どうしてこんなに楽しいんだ?こいつと全力で遊んでるみたいだ。


 一時間後


 あともう少しで完成する、このオブジェクトをここに入れ込んで!

 ふぅ。何とか1時間で終わらせたぜ。角嶋はどうだ?


「はぁはぁ。何とか出来上がった」


 一時間もの間、休憩をとることなく肩を並べてモニターを見続けて打鍵し続けた。

 全てを語らずとも、プログラムの書き込みを確認し合って進めていたら、相手の素質や性格など、人間の核となる部分でさえもが分かりあえた気がした。

 そして、一般人から見たら特殊ともとれるその能力を、目線を合わせることなくお互いのモニターを見て一言づつ、称えあった。


「なかなかやるじゃないか。津部杏太郎」

「あんたもな。角嶋さん」


「お待たせしましたー。病院からテスト用の電子カルテが保存されたパソコンをお借りしてきました。それから、これが特殊端子の通信ケーブルです。秋葉原のケーブル専門店を5軒回ってようやく見つけました」


 荒木戸さんが汗をかいて息切れをしながら戻ってきた。よっぽど走り回ったのだろう。この苦労を無駄にはできない。

 俺と角嶋さんは、原課長が戻る前に、早速テストを始めた。


「津部杏太郎。今から遠隔で君のスマホにアプリをインストールさせるぞ」

「いいぞ。やってくれ」


「どうだ?いったか?」

「よし!来た!インストールもエラー無くできた。次にスマホとパソコンを特殊ケーブルでつないで、吸い出しボタンを、、、押した!

 よしよし。ここまで順調だ!終わったぞ。これから転送ボタンを押して、そっちまで送るぞ、、、押した!」


「来た!データが送られてきている!さらに送られてきたデータをシルエット検索にかけることができたぞ!テスト成功だ!」


「すごいです!お二人が協力して作ったアプリが完成したんですね。後は原課長を待つだけですね」


「すまんすまん。遅くなりました。全国の警察官の手配が終わりました。これが、協力してくれることとなった地方警察官210名が持つスマホの個体リストです。

 早速インストールさせてください。

 それから特殊端子の通信ケーブルは広報室に頼んで、つぶやきSNSのシャベッターでシャベーリしていただきました」


”至急:全国の警察署では凶悪犯逮捕のため、以下の画像のような特殊端子ケーブルを探しております。お持ちの方はお近くの警察署までお届けください。このお願いは本日限りです。”


「全国で24万人のフォロワーがいる警察庁のアカウントから発信されれば、きっと特殊なケーブルでも集まってくるでしょう。信じて待ちましょう」


 確かにいい案だが、警察庁のアカウントをフォローしている人たちはITに興味ある人たちとは限らない。少し厳しいかもしれないな。


 1時間後


「ダメです原課長。ケーブルが特殊すぎるせいか、ほとんど集まってきません。210あるの病院の内、5つ分しかデータが集まっていませんし、そこからシルエット検索にヒットする容疑者は見つかっていません」

「やはり一日では無理ですか。せっかくみんなで協力してここまで来たというのに、悔しいですね」


 悔しい。確かに俺も今、そんな気持ちだ。

 一人でやって失敗しても、己の力不足を嘆くだけだが、チームが一丸となって成し遂げた事に結果が伴わないと、悔しいという感情が生まれる。

 悔しさだけじゃなく、25年前から苦しんでいる被害者の事を考えると胸が痛い。

 俺はこうなることを薄々予感していた。そして、隠していた案があったが、もう出し惜しみしている場合じゃねぇな。


「原課長。ちょっといいかな?」

「待ってました!津部君!」

「ん?」

「あいや、津部君の『ちょっといいかな』は、さっきも窮地を救われたので」


「そうか?まあいい。これは俺にもどうなるか分からんが、やってみる価値はあると思う。

 まず、俺のパソコンでシャベッターにアクセスできるようにしてくれ。それから、さっきの警察庁が発信したシャベーリを、俺の持つアカウントでリシャベーリさせてみてくれ。今よりも特殊ケーブルの集まりがよくなるかもしれない」


「いいでしょう。やれることは全てやりましょう。はい。今アクセスできるようにしましたよ」


 俺が少年院にいた3年間、使っていなかったこのアカウントを再始動させる。これにより過去の腐り縁が復活し、今まで避けてきた魑魅魍魎どもが、またゾンビのように寄ってきて何か問題になる恐れがある。だが、今はそんなことどうでもいい。


 目の前の事件を解決したい。ここサバイブの連中と!

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