第12話 ダブルシューとライバル③
20分の間、角嶋の集中は途切れることなく一定のペースで打鍵音を流し続け、漢字の部首だけで人名を検索する、シルエット検索ソフトが完成した。
「完成しました原課長!」
ジャスト20分。数回のテスト込みの時間だ。自分の能力を見極めているからこそできる時間読み。ただものじゃねぇ。
「さっすが早いですね。我が課のエース。角嶋巡査長を僕が一番指名で獲っただけのことはあります」
おいおい、サイバー人材はドラフト会議みたいに配属先を決めてるのかよ。冗談だよな?
「では早速、日本国民全員の名前を検索にかけてみましょう。果たして何件ヒットするんでしょうか。30分と言いましたね?その間に、荒木戸係長に少しお願いしてもよろしいですか?」
「はい。課長」
「ごにょごにょごにょ」
「わかりました。行ってきます」
30分後
「原課長。検索結果が出ました。ヒットした数は、、、約50万件です!」
「多いですね。ではそこから、年齢35歳以上、男性で絞り込んでみてください。25年前の事件の被疑者は男性と言われいましたからね」
「出ました!約13万件です。まだ多いですね。こうなったら病院に捜査協力をお願いしましょう」
「そうですねー、、、」
「戻りました!原課長の言われた通り、病院から捜査の協力を得られました」
原課長はこうなることを読んで荒木戸さんに依頼して先に手を回していたのか。この人もただのお飾り課長じゃねぇな。頭が切れてやがる。
「ただ、、、問題がありまして、、、」
「何ですか?」
「協力していただけることになった
病院数は210で、それら全てが検索対象になるのですが、患者のカルテは全て各病院ごとにオフラインで管理しているそうなんです」
「おそらく、病院のパソコンに部首検索なんて機能は無いでしょうから、一度ここに患者データを集めて、角嶋巡査長が作ったプログラムで検索する必要があるということですね。
全国の病院からデータを集めるとなると、病院の人に手伝ってもらってデータをここへ送ってもらわなければいけない。そこまで協力していただければいいのですが」
ややこしくなってきたな。だが、俺は知っている。さらにややこしくなる事実を。言うべきか言わざるべきか。
「やるしかありません、25年前の被害者は犯人が捕まっていない今もおびえて暮らしているのです。我々しかいないんです救えるのは。原課長!」
角嶋はクールに見えるが正義感が強い。おそらくそれが故、罪を犯した俺を受け付けないのであろう。
俺は見せかけの正義は嫌いだが、この人みたいに口だけじゃなく行動に移す人は認める。それに努力も怠らねぇで常に最新の情報を掴み続けている。
俺は最初、面白がってこの事件のことを聞いていたが、傷ついた人がいたことを忘れていた。先生に見られていたら、きっと怒られていただろう。
だから、さらにややこしくなるであろう俺の情報を提供する。きっとこの人たちと知恵を絞れば解決できるだろうから。
「ちょっといいかな?」
「どうぞ、津部君の意見も聞かせてください」
「俺は、この病院についてあれこれ調べた過去がある。理由については聞かないでくれ。その結果、ここは難攻不落のバッチリセキュリティだった。
まず、ここは大きな病院で、独自に開発した電子カルテ管理システムを使っているため、独特なプログラミング言語を使っている。
さらに、ソフトだけでなくハードにまでこだわって独自開発したため、データを吸い出す一般的な出力端子が一つも無くて、古い形状の特殊端子しかない。
よって、今すぐデータを集めるのは不可能に等しいってわけ。
この病院は30年前から知的財産や個人情報を守るために力を入れてきたから、ここまで大きなグループになったんだ」
「なるほど、津部君が調べた理由が気になりますが、今は目の前のことに集中しましょう。
我々が病院にデータをくれるよう要請して了承してもらえたところで、すぐには吸い出せないのですか。困りましたねー」
「全国の警察官が病院へ出向いて、パソコンをお借りして目視で犯人を捜すってのはどうですか?」
「荒木戸係長、病院の患者データはきっと何万件もあります。それを目視で、さんずい二つとにんべん二つが着く名前を調べるとなると一日では足りないでしょう」
「ん?それ!いい案だ!そうか、全国の警察官をデータの出し子として使えるとなると、うまくいくかもしれない!」
「どういうことですか?津部君!」
「まず、病院のパソコンからデータを吸い出してここ5課まで転送するスマホアプリを作る。
そのアプリを地方警察官のスマホにダウンロードさせる。
そして警察官が病院まで行ってそのスマホと病院のパソコンをつなげてアプリを起動させれば、ここにデータを集めて検索することができる。どうだ?」
「少し光が見えてきましたね。角嶋巡査長はこのアプリをどのくらいの時間で作れそうですか?」
「スマホから5課までの転送部分は1時間もあればできますが、こいつの言っていた独特プログラミング言語ってのが分からないので、吸い出し部分は調べて作るのに数時間はかかるでしょう」
「そうですか、角嶋巡査長にも難しいようでしたら、別の案を探して、、、」
「ちょっとまってくれ!吸い出し部分だけでよければ、俺は1時間で作れるぜ」
「本当ですか?津部君!」
「ああ。特殊と言っても昔触ったことのあるプログラミング言語だ。一度扱ったことのある言語は忘れねえからな。
俺と角嶋さんが一つのファイルに同時に書き込んでいけば、1時間でアプリは完成する」
「すごいです!そんなことができるんですね。あとはテスト環境が欲しいですね。荒木戸さん。近くの
ついでにパソコンとスマホをつなぐ特殊端子の通信ケーブルも秋葉原で買ってきてください。1時間でいけますか?」
「はい!すぐに行ってきます。でも、そんな特殊な端子のケーブルを他の地方病院でも用意できるのですか?」
「それについては僕に案がありますから大丈夫ですよ」
「それでは、サバイブのみなさん!総力を挙げていきましょー!!」
早速俺と角嶋は、席とパソコンを並べて開発環境を整えてプログラミングの準備を始めた。
「3年間もパソコンを触ってなかったお前が、自分のスピードについてこれるのか?」
「やってみればわかるよ」
たしかに得意だったものを長年触れていないと、鈍ってしまうとよく聞く。英語やゲームなんかがそうだ。
だが俺は違う。パソコンやキーボードに触れられなくたって、いつでも頭の中で起動してプログラミングが出来ていた。
少年院にいた3年間、ただの一度もその電源を落とさずに打ち続けていた。なぜなら、それしか楽しみが無かったから。
時間制限がある中、戦いは始まった。いや、これは共闘だ。
お互いに決めはしなかったが、スタートの合図は角嶋のリターンキー打鍵音とした。さぁいつでもいいぜ。俺が目を配った瞬間、
それは力強く弾かれた。
ッターン!!
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