第11話 ダブルシューとライバル②
サバイブで追っていた偽ブランド品販売事件が、25年前に起きた未解決の強盗殺人未遂事件と関係があった。しかもその時効が今日だなんて、騒がしくなりそうだ。
俺は真剣に話し合う5課のメンバーの横で、ぶ厚いマニュアル本を読んでいたが、こんな面白そうな事件の話を聞き逃すことはできなかった。
「利口な犯人は偽ブランド品を手袋を付けて触っていたせいか、そこからは何も出ませんでしたが、半分焼けた診察券から指紋が検出されました。
25年前の事件を追っていた警視庁捜査一課とも連携をとって、この情報を提供しておきました」
「さすが角嶋巡査長。仕事が早いですね。向こうの山を荒らすつもりはありませんが、私たちも犯人を追いましょう。こちらは偽ブランド品の販売犯としてですが。できれば今日中に犯人を捕まえましょう。
まずは、その隠れ家の持ち主の情報はありますか?」
「はい。焼けた家の持ち主は別荘として購入して、放っておいた30歳男性。人に貸した覚えはなく、勝手にアジトとして使われていたようです。それに25年前はまだ5歳ですし、当時の犯行は無理でしょう」
「そうですか。では、もう一つの手がかりの診察券は?」
「はい。焼け残った診察券を分析してもらった結果、指紋以外に分かったのは全国展開大手病院で、患者の名前は4文字、苗字にさんずい二つ、名前ににんべん二つ、以上です」
「部首だけで人名検索をする必要があるわけですか。聞いたことありませんが、角嶋巡査長はこの文字データを検索する場合はどうしますか?」
「そうですね、、、
まず、さんずいとにんべんの漢字を全て洗い出して、それらを使った4文字の組み合わせとなる架空の名前を全て出してから、それらを検索します。
ただ、犯罪者データベースにいないとなると、日本国民全員が検索対象となるので、プログラミングに50分と検索に2時間といったところでしょうか」
「なるほど、では、津部君はどう思いますか?」
「お、俺?」
ぶ厚いマニュアルを読んでいた俺に、原課長が話を振ってきた。
正確には読むフリをしていただけだ。大きな事件の時効がまじかに迫っているなんて話を隣でされてたら、気にするなって方が無理がある。
原課長はそれに気づいていたのか、俺の意見を求めてきた。
「そんなことやったことないからなぁ。確かに角嶋さんのやり方が一般的で確実で理にかなっている。ただ、今は一秒でも惜しい状況でってなると、、、
全て想像で言うから出来るかわかんねぇけど、シルエット検索はどうだ?」
「シルエット検索?」
「そう。まず、さんずい二つとにんべん二つのシルエットを作る。その一方で検索対象のデータベースを文字情報じゃなくて画像情報に変換して読み込ませる。
作ったシルエットに名前の画像情報を重ね合わせていき、一致する名前を検索するんだ。フォントが統一されていれば簡単な事だし、検索回数も一回で済む。
これなら、角嶋さんの検索よりも少し早くできるかもしれない」
「確かにお前の言う通りだ。それならプログラミングに20分、検索に30分もあれば出来そうだな」
「おや?角嶋巡査長は津部君の構想の方が良いと認めるのですか?」
「ま、まあそうなりますが、そもそも課長が『文字データを検索』と言ったから自分はそれに従って答えただけであって、その縛りが無ければ自分もその発想に至っていた可能性はあります」
「まぁまぁ。そう興奮しないで。確かに私の聞き方が悪かったですね。では、角嶋巡査長に今からそのシルエット検索プログラムのプログラミングをお願いできますか?」
「いいですよ。やりましょう」
今の俺の発言だけで本当に理解できたのか?それに20分で完成させる?おいおい、俺と同レベルとでも言いたいのか?正気かよ。まぁいい、答えはすぐにわかる。お手並み拝見といきますか。
角嶋が指をポキポキと鳴らしながらストレッチを始めた。臨戦態勢を整え一呼吸置いて、、、始まった!
カタカタカタカタカタカタ
早いっ!角嶋が高速でキーボードを叩き始めた。俺は自分の席を立ち、彼の背後へ回ってモニターをのぞき込んだ。
こいつ、できる!口だけじゃない!
俺みたいな我流と違って、教科書に載るお手本のように綺麗な書き方をしやがる。
組み立て方は俺と似ているが、やはり最新のプログラミング言語は簡略部分もあって、より洗練されていて正直勉強になる。
それに、俺が後ろから見ている事を知ってか、解説コメントまで書き込んでいやがる。余裕がある証拠だ。
打鍵に迷いが無く、大胆だが繊細。間違えることなく、バックスペースキーも押さない。おそらく数行先まで見えている。いや、すでに頭の中で完成形が見えている?!
本当にこいつ、5課へ島流しにあってきたのか?
俺の勘違いなのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます