第10話 ダブルシューとライバル①
朝
「おはよう。杏太郎君。あら?ネクタイ上手に結べているじゃない」
よくぞ気づいてくれました。昨日寝る前にネクタイの結び方を猛特訓したからな。先生から子ども扱いされないためにも、何かしら少しずつでも成長していきたい。
それに今日から、一人で職場へ向かう。俺が何か悪いことをしでかさないかと、先生を心配させないためにも、俺は大丈夫だと安心させてやりたい。
今まで周りからどう思われようがお構いなしで生きてきた。でも今は違う。この気持ちをどうやって先生に伝えたらいいんだ?
、、、やっぱりはずかしいから挨拶だけにしておこう。
「ああ、おはよう」
朝食を食べ終え歯を磨き、先生から弁当を受け取り、家を出ようとすると美佳が寄ってきた。
「お、おはよう。キョン。ほれ!今日はダブルシューを持っていけ。みんなで食べるんだぞ!それから、昨日は、、、ありがとな」
「サンキュ。いってきます」
ん?美佳がなんだか少しヨソヨソしかった。それに、うっすらと化粧してた?今日は忙しくなるから、いつもより早く店に行くのか?
まあいいや。そんなことより、今日も神の
ダブルシューは大好きってわけではない。
なぜなら俺は、ホイップのシューとカスタードのシューは別々に楽しみたい派だから。おいしいものを合わせればもっとおいしくなる理論は、俺の中では成立していない。
いくら神が作ろうと、これだけは変わらないだろう。
通勤電車
昨日は先生と一緒に電車に乗っていたからあまり周りを見ていなかったが、見渡すと同世代の男女が学生服を着てワイワイとしている。
コスメの話かアニメの話なのだろう、聞いたことのない新しいワードがポンポン出てくる。少年院へ入る前から、俺はヤツらと同じルートの人生を行くことは無いとわかっていた。
絶対に交わることのない俺とヤツらの人生。だから、意識することなくすれ違っていく赤の他人だという認識でしかなかった。
だがこうして目の前にいるヤツらを意識して見ている。少し羨ましく思っているのだろうか。その証拠に、電車を降りるまで立てた聞き耳を下ろすことができずにいた。
警察総合庁舎
「おっはよう。
「おはようございます」
玄関ホールで出くわした原課長は、相変わらず声がでかい。
「あ、そうそう。昨日言いそびれたけど、ネクタイを締めなくてもいいよ。
ちょっと前までクールビズってことで夏だけノーネクタイOKだったけど、一年で暑い時期が長くなったせいで、通常勤務の時は年中『ネクタイしなくてもいいよ』ってなったんだ」
「あ、はい」
しなくてもいいという意味は、しといてもいいという意味でもある。よって俺はしておく。
騒ぎを起こさないためにも、先生から教わった『怒り制御装置』でもあるこれが、俺には欠かせないから。
デスクには
「おはようございます」
「津部さん。おはようございます」
「・・・」
ん?角嶋さんには聞こえてなかったのか?返事をせずに机のパソコンをいじっている。もう一度言っておこう。
「角嶋さん。おはようございます」
「聞こえているよ。あまり馴れ馴れしくしないでくれ。
先に言っておくが自分はお前が嫌いだ。こんな意味のないプログラムに協力する気もない。悪事を働いたヤツがどれだけ善行を重ねようと、そう簡単に無かったことにできるはずがないからな。覚えておけ」
へ?朝から機嫌悪っ。無かったことになんてしようとしてねぇし!そもそも俺がこいつに何かしたのか?うっーイライラしてきた。
偉そうにしているが、どうせ何かミスをしでかしてここ5課へ島流しにあった人材なんだろ?
まずい!こういう時はネクタイを締めて、、、
深呼吸。深呼吸。。。。5、6。
朝のミーティング
サイバー局5課、通称サバイブでは、毎朝しているという打ち合わせが始まった。
デスクに座ったまま話すから、俺はそこに参加こそしていたが、発言することもないし、望まれてもいないだろうから、自ら蚊帳の外へ出て、まだ途中だったぶ厚いマニュアルを読み進めた。
「じゃあ、角嶋巡査長から今追っている事件の進捗状況を教えてくれ」
「それが課長!大変です!
1年前から追っていた偽ブランド品のフリマサイト大量販売事件の続報です。
販売者は複数の海外サーバー経由で中々足が付かなかったのですが、時間をかけてようやくたどり着き、販売者のアジトを家宅捜索しようとしたところ、突然の火事で犯人に逃げられたところまではお話しましたよね。
その焼け跡から偽ブランド品の山と、半分焼けた病院の診察券が出てきたので、科捜研で鑑定をお願いしていたところ、犯人のものと思われる指紋と名前の一部が分かりました。
その指紋を犯罪者データベースで照合したしましたが、ヒットしませんでした。しかし、25年前に起こった未解決の強盗殺人未遂事件の被疑者のモノと一致しました。
そしてなんと、その時効が今日なんです!」
「なんだって?!」
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