第6話 ホワイトチョコとサバイブ③
「そうそう、忘れないうちにこれを君に渡しておこう」
スマートフォン?
「これは、全国の警察官や技官職員の全員に配っている警察関係者専用スマートフォンだ。どこからでも過去の事件や警察の内部情報を見ることのできる専用通信端末となっている。
といっても、
それにこの端末は顔認証も必要だから、セキュリティはバッチリなんだ。君の場合は事前にもらった写真ですでに登録済みだから、今から使えるよ」
一見便利そうなアイテムに見えるが、これに付いているGPSで俺のことを追跡できるし、おそらく盗聴もできるだろう。
使うことはないと思うが、持っておいてやろう。悪いことをせず、何かトラブルに巻き込まれたら身の潔白の証明にもなってくるれるだろうから。
「そしてここが津部君のデスクとパソコン。今は警察庁関連のホームページしか見られないようにアクセス制限をかけているけれど、その都度言ってくれれば僕が解除するから、気軽に声かけてくれ。
しばらくはこのマニュアルを読んでおいて。大変だろうが、わからない所は飛ばしちゃっていいからさ」
ぶ厚っ!これ全部?しかも紙!読んだところで、ほとんど捜査に参加させる気が無いから飛ばして読んでもいいって言っているんだろうな。
まぁ、悪さする気はないけど、今後何かの足しになるかもしれないから読んでおこう。
その後も、細かい規則や庁舎内の案内をされ、立ち入りできる場所の説明を受けた。
一見どこにでもあるようなオフィスビルのように見えるが、監視カメラが無数にあって死角が無く、エレベーターを乗るのにもIDをかざしたりと、常に監視されているようだ。
もし俺がここをハックするとしたら、、、ん?
先生が俺の後ろを歩いて一緒に説明を聞いている。俺の悪行想定を察せられたくない。今は想像するのをやめておこう。
その後、お昼休みになって休憩室へ案内された。
課長と二人の課員と俺と先生は一つのテーブルで昼食をとった。
「今日は、津部君の歓迎会だ。さぁ、ジャンジャンやってくれ。って、飲み会じゃないよね。あははっ。
僕たちは、いつも一緒に昼食をとっているんだ。『結束の為に一致団結して昼食も一緒に!』なんて言わなくても、自然とこうなったんだ。
ほら、パソコンの前でずっと仕事をしていると、何だか人が恋しくなったりしない?津部君も良かったら、明日からも一緒に食べようよ」
警察の人は皆、お堅くて冷たいお役人だと思っていたが、人間らしい一面もあるんだな。その中でも特に苦手だと思っていたガッチリ
昼食を終えて島へ戻ると、持っていたカバンの中に、小分けにされたホワイトチョコレートがあることに気が付いた。
普通のチョコも好きだが、これもいい。苦み成分を抜いてミルキーさを際立たせ、甘みを存分に楽しめる一品!
早速、神に感謝しつつ頂こうとしたが、やっぱり先に配っておこう。喜んでくれるか心配だが、重い腰を上げて、課員に配った。
「津部君!ありがとう」
「甘いの大好き。ありがとう津部さん」
「どうも」
美味しいかどうか心配する必要はない。味は間違いない。自分が作ったわけでもないが、少し誇らしげに椅子に座ると、ヤツが来た。
「おやおやおや。
ブラックハッカーさんがホワイトチョコですか?
色を間違えたんじゃないですか?くっくっくっ」
「チッ!」
思わず舌打ちが出てしまった。
面白くもないジョークをかましながら不敵な笑いを浮かべて俺に近付いてきた男。
忘れもしない。こいつは、3年前に俺を捕まえて高圧的な取り調べを何日もした挙句に、勝ち誇った態度で俺を侮辱し続けた嫌なゲス野郎。
こいつ、まだいたのか。
「久々の再会に舌打ちとは、少年院では全く反省していなかったようですね。大人と同じ刑務所に入った方がよかったかなぁ?
まぁどちらにしても、君みたいな根が腐っている子は、どこへ行っても矯正できないだろうがね。くっくっくっ。
そうそう、君の事件を解決した私の功績が認められて、今はサイバー局の捜査1課長をやらせてもらっているよ。
ただ、若干14歳のハッカーを捕まえたくらいで、私もそんな大きな顔をするつもりは無かったんだけどね。くっくっくっ。
まぁ今回は政治家の思い付きの企画に付き合わされて、法務省も警察庁も迷惑しながら君を受け入れているけれども、問題だけは起こさないように帰ってくれよ」
ふざけやがって。どっちが腐ってんだよ。こんなヤツが1課を取り仕切っているなんて日本の警察は捨てたもんだな。
それに、3年前のあの事件は俺が捕まったんじゃなくて、『捕まりに行った』が正確な表現だけど、、、これは言えねぇ。
「そうだ!いいことを思いついたぞ。君にもスマートフォンを配られただろ?そうそれ。
それをハッキングしてみせてくれよ。私が許可するから。ペネトレーションテスト、いわゆる脆弱性検査って名目でさ。
この端末を使ったシステムの構築にはね、僕も開発者の一員として絡んでいるんだ。君はブラックハッカーだから、こういうの得意なんでしょ?
君みたいなIT業界から永く離れていた浦島太郎君に突破できるとは思わないけど。あっゴメン、杏太郎くんだったね。じゃあ、精々頑張ってみてくれたまえ。くっくっくっ」
「1課長も人が悪いなぁ。津部君に与えられた権限はほとんどないし、この端末のセキュリティはガッチガチで到底突破できないことを分かってて、あんなことを言うなんて。気にしなくていいからね。昔っからああいう性格だから。」
原課長、フォローしてくれてありがたいけど、、、
ふざけんなよ!
どこまで人を侮辱すれば気が済むんだ!
それも、先生の前で!
あいつはぜってーに許さん!
わかったよ!そっちがその気なら!
これをこうして、
あれをこうして、、、
ふっ。いけちまったぜ。
影平が向けたその背中、ズタズタに切ってやるよ、お前のプライドを。
今すぐになっ!
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