第5話 ホワイトチョコとサバイブ②
サイバー局長室
コンコンコン
「原5課長、他2名入ります!」
「どうぞー」
「局長!こちらが本日から始まった法務省更生プログラムの第一号に選ばれた
「あぁ、今日からだったか。よろしくね。私は定年が近いもので、くれぐれも問題だけは、ね、原君」
「はっ!心得ております。私が責任をもって彼の監督指導にあたります」
ん?このプログラムって俺の能力を警察に貸すんだよな?やっぱり、警察庁としてはお荷物を押し付けられた程度にしか思ってないのか?
それにしても、この局長ってやつの机の上には紙書類ばっかだな。役所のペーパーレスは2025年になっても無理だったか。
パソコンに張られた大量の付箋を見るに、おそらくパソコンダメダメで、たまたま開いていたポストに転がり込んだ定年間近のおじいちゃんって所か?
「原5課長、他2名帰ります!」
バタン
「津部君、気を悪くしたらごめんね。僕は個人的には君の力を頼りにしているんだけどさ、お上の建前とは違った本音っていうの?そういうのを読み取ってやっていかなきゃいけないんだ」
忖度ってやつね。へいへい。
それにしても長い廊下だな。どこまで歩いたら職場があるんだ?
「さあ着いたよ。ここがこれから君が一年間通ってもらう場所だ」
ひ、広い!
人の数も相当だ。俺が捕まった時は警察にサイバー局が出来たばかりで、それほど人員はいないとされていたけれど、ここ3年でこんなにもたくさんの警官を配置したのか。
それだけ、犯罪数も規模も大きくなってきたってことか?そういえばこの人5課って言ってたな。何をするところだ?
「ここは警察庁サイバー局で、全国のサイバー犯罪を取り締まっているところだよ。各地方にもサイバー犯罪を対応する部署はあるんだけれど、そこでは手に負えない大きな犯罪や難しい案件を取り扱っているんだ。
それから、局の中には5つの課があるんだ。
捜査1課は国や地方自治体、重要インフラに重大な支障が生じたり、海外のサイバー攻撃集団が関与した重大事案を取り扱う、いわば花形みたいなところ。
捜査2課は金融犯罪専門で、簡単に言うと君がやっちゃった時みたいなやつね。
捜査3課は法人犯罪専門で、企業データのスパイ行為なんかを取り締まっている。
捜査4課は個人犯罪専門で、SNS上のトラブルなどの事件が担当だ。
そして我々の捜査5課は、さっき紹介した課で手に負えなかった難しい案件を担当している。と、いうと耳馴染みがいいんだけれど、実態は未解決サイバー事件の墓場ってやつ。
次から次へと起こるサイバー犯罪に対処するために、今はこの体制が一番効率がいいらしいんだ。
以上でここの説明は終わり。
次に5課のメンバーを紹介するよ」
「ようこそ、ここが5課の島。
通称『サバイブ』だ。
サイバーとファイブを掛けてみたんだ。僕が勝手にそう呼んでるだけだけどね。かっこいいでしょ?」
「原課長だけですよ。それ言ってるの。そもそもサバイブって”困難な状況でも何とかやっていく”って意味なので、今にもつぶれそうな部署みたいだから、自分は反対に一票」
「おっと、手厳しいな。彼は
「どうも」
「よ、よろしくお願いします」
警察官ってもっとお堅いと思っていたけど、言いたいこと言える人もいるんだな。風通しがいいともとれるか。
挨拶を見る限り、数分前のまんま俺みたいだ。俺は不愛想なあいさつで先生に怒られたが、さすがに初対面の彼に先生が怒ったりは、、、しないよな。
いかにもITオタクって感じだけど、ここにいるみんな警察学校を卒業してきたんだよな。話には聞いたけど、つらい訓練をこなすっていうし、少しは敬意を払っておこう。
「そして彼女が、
「津部君。よろしくね。君の事件ファイル読んだけど、すっごく興味深かったわ。ちょっと引っ掛かる点があったから、後でもっと詳しく教えてね」
「よろしくお願いします」
丸眼鏡をかけていかにも科学者って感じの風貌だな。おっとりしているようでおそらく洞察力が鋭い。3年前に起こした事件、俺は全てを供述していないし、裁判でも明らかになっていない部分がある。
それに彼女は気づいたのか?うっかり話してしまわないように気を付ておこう。
「そして私が、ここを束ねる5課長の
おいおい、俺にじゃなくて先生にアピールしてねぇか?
「まだ出来たばっかりの部署でね。部員は以上だけど、量より質で行こうじゃないか。はっはっはっ!」
未解決サイバー事件の墓場か。
そりゃそうだよな、犯罪者の俺をいきなり最前線で即戦力採用なんてあるわけないか。ノルマも無さそうだし、課長はお気楽そうだし、まあ変に力まずに適当にやっていこう。
ただ、俺みたいに、今まで何も努力せずにやりたいことだけしてた人間に突き付けられた試練みたいで面白いじゃん。
サバイブか。少し、もがいてみようかな。
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