第4話 ホワイトチョコとサバイブ①
「あら、
「ん、まあ、はあ」
朝のリビング。本当はよく眠れたし、びっくりするくらい気持ちよく目覚めた。先生の質問に歯切れ悪く答えたのは、自分がここに馴染んていると思われたくなかったからだ。
なぜかというと、、、
俺にもよくわからない。
食卓の上に並べられたご飯に味噌汁、ハムエッグ、納豆、卵。
あったかホームドラマに出てくるお手本のような並び。現実で見たのは初めてで少し笑った。
朝食は先生が作ったようだ。脇には積み重なった弁当箱が4つある。これも作ったのか。多分俺の分もある。
美佳はくるみの登校準備を手伝っている。
朝は皆、口数少なくそれぞれ自分の役割をこなしている。
「ぼさっとしてないで、ちゃっちゃと食べちゃって!どうしてこうも朝って時間が過ぎるのが早いのかしらね」
狭い家の中を全速力で走る先生。
洗面所で顔を洗って朝食を食べるだけの俺は、休日のようにゆったりできている。同じ空間にいるのにみんなと時間の進み方が違う気がした。
この時なぜだか、俺も同じ時計を持ちたいと思った。
俺も何か手助けをしようか?食器を洗うとか?洗濯するとか?やめておこう。逆に足手まといになるだけだ。
食事を終えると、用意してくれたシャツとスーツを着た。
ピッタリだ。
紺色の地味なネクタイも用意してあったが、結び方が分からなかったからポケットに突っ込んだ。
だが、そんなめんどくさがった俺の行動を先生に見られていた。
「ダメよ杏太郎君。初日が大切なんだからね。ほらこっち来て。ネクタイ締めてあげる」
俺のポケットから強引にネクタイを取り出した先生は、俺へ抱きつように腕を後ろに回してネクタイの両端を手前に持ってくると、それを結び始めた。
俺は息を飲みドキッとした。
ほんの一瞬の事であったが、あれだけ近くに先生の顔が来たことに、たじろいでしまった。先生が中腰になって結んでくれている間も、その結び目と、上から見た先生の顔を行ったり来たりと視線が泳いだ。
呼吸を浅くして、俺の鼻息が先生の手にかからないように細心の注意を払った。
昨日感じた家族としての感情?とはまた違ったものを感じるのが自分で分かった。
でもこれは、まだ言葉で表すほどの感情ではなくおぼろげだが、確かに何かが俺の中で芽生えた。
「これでヨシ!決まっているじゃない。いい男よ」
「キョン兄ちゃん。いいオトコ~」
登校の準備を終えたくるみが、俺を茶化してきた。いや、この年で茶化すとかありえるのか?だとしたら本気で言ってるのか?
どちらにしても、こんなにかわいい笑顔で言われたら、にやけてしまう。
「キョン!アタイからの餞別だ。カバンの中に、弁当と一緒にお菓子も入れておいたから、職場のみんなに配って回るんだぞ」
「あ、ああ」
ん?餞別って別れの時に渡すプレゼントの事だよな。まあいい、神の作る菓子は間違いないからな。これを食べられるなんて運がいいぜ、まだ見ぬ職場の人々よ。
「それじゃあ先に出るわね美佳。いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
先生とくるみと俺が家から出た。
そしてその並びで手をつなぎながら街路樹が茂る歩道を歩いた。というか、自然とくるみに俺の左手を奪われた。
つい昨日の朝までチャイムで起こされ、廊下に並んで点呼をしていたってのに、この状況をまだ飲み込めていない俺。
悪夢の続きを見ていて、これから嫌なことが起こるのではないか。
そんなことを考えながら、小さな手から伝わるぬくもりに、自分が築き上げたものではないとわかってはいたが、幸せを感じた。
そしてその手に、先生の熱も伝わってきているようで、芽生えた何かに葉を付けたのがわかった。
東京都千代田区霞が関
警察総合庁舎
くるみを小学校へ送り届けた先生と俺は、満員電車を乗り継いでここまできた。
とにかくデカい建物だ。警察の心臓部らしくセキュリティも厳重で、顔認証や荷物チェックで中に入るまで数分かかる。
ゲートをくぐると男が待ち構えていた。
「恵梨香さーん!こっちですよー!」
警察の人間らしいが先生を下の名前で呼ぶなんて、なれなれしいヤツだ。声もデカくて、いかにも体育会系って感じのガッチリした体格。俺の苦手なタイプだ。
「君が
「どうも」
俺が不愛想な返事をすると、先生が驚きと怒りと困惑を混ぜた表情で言ってきた。
「杏太郎君!『よろしくお願いします』でしょ!」
家にいた時とは違うオーラだ。なんつうか、よそ行きみたいな。こっちの先生はあまり好きじゃないが、従っておこう。
「よ、よろしくお願いしまっす」
「いやー、恵梨香さん。今日も大変お美しい。またお会いできて光栄です。この前の情報、効き目あったようですね。何よりです」
「その節はどうも。あはは」
こいつ狙ってんな。完全に先生の事を狙ってんな。それに、俺のケーキ好きを知っているのは警察関係者だけだから、こいつが情報源だな、きっとそうだ。ふざけた野郎だ。
「じゃあ早速、局長挨拶から行きましょう」
俺と先生は、ガッチリ声デカ
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