第2話 パフェと越野家①
「ただいまー」
「ママーおかえりなさーい」
玄関へ入るやいなや小走りで近寄ってきたと思ったら、先生の足へ笑顔で抱き着いたこの子は?ママ?
先生の子供?結婚してたのか、知らなかったぜ。それにしてもこの子、笑顔がかわいいじゃねーか。
「
くるみ、昨日練習した自己紹介できるかな?」
「こんにちは。こしのくるみです。8さいです。よろしくね」
「あ、ああ。俺は
「キョンタロウ?キョン兄ちゃん!」
「いや、キョンじゃなくて杏太郎だよ」
「キョンか、おもしろい名前じゃない。確か千葉あたりで繁殖している害獣もそんな名前だったっけ。ははっ」
いやだから、キョンじゃなくて、って急に現れやがったこいつ誰だよ。
「こら!初対面でなんてこと言うの。杏太郎君ごめんね。この子は
「あ、あんたが神か。あのケーキまじで最高だったぜ。なんつーか惚れちまったよ。あの味に」
「あら、うれしいわね。でも、アタイの名前は神じゃなくて美佳よ。よろしくね。
夕食の準備できてるから、食べましょ。キョンの出所祝いだー!」
「キョン兄ちゃんのお祝いだー。って、シュッショって何?なんかいいことあったの?」
「「「はははっ」」」
なんだか、にぎやかなところに来ちまったぜ。こういう所に慣れてないせいか、こんな時はなんて言っていいのかわからないけど。みんな笑顔でいい感じじゃん。
にしても、どれもうまそうな豪華料理が並んでるな。でも俺の目当ては、さっきたまたま冷蔵庫を開けた時にチラッと見えてしまった、あれは紛れもなく、、、
『パフェ』!
あれをデザートで出してくれるのか?くそっ。楽しみすぎてソワソワしてきちまったぜ。胃袋開けとかねーとな。
「みんな揃ったわね。では、杏太郎君、
カンパーイ!いただきまーす!」
うんま。うんま。どれもこれも少年院で食べてた飯と違いすぎるぜ。この神、じゃなかった、美佳って女はケーキ作り以外もセンスあるじゃねえか。
それに、甘いお菓子を作っている割には細身だな。自分で作ったケーキはそんなに食べねーのか?俺なら毎日食べすぎて、ぜってー体重100キロ超えちまうぜ。
「キョン!まだまだおかわりあるからたんと食べろよ!やっぱり若い男子は食いっぷりがいいねぇ!」
「キョン兄ちゃん!たべろよ!」
「は、はあ」
神とこんなかわいい子供に言われたらキョンでもキョウでも、どっちでもよくなってきちまうな。まったく。
「しかし、先生。こんな幼い子供と、俺みたいな犯罪者を一緒に住まわすなんて、親としてどうなんだよ」
「私の立場でこんなこと言ってはいけないんだけど、あなたはそんなに悪くないと思っているの。善悪の判断を教えてこなかった周りの大人が悪かったのよ。
それに、あなたのことを院で3年間見てきて、口は悪いけど信用できる人間だと私はわかってる。だから、この更生プログラムをあなたへ勧めたし、私の家にも招待したのよ。
あら、つい本音が。お酒飲みすぎちゃったかしら。うふふっ」
かいかぶりすぎだぜ。でも、ちょっと嬉しいかも。俺のことをそんな風に見てくれてたんだ。自分以外は全員敵だと思って生きてきてたけど、この人だけは信用してもいいのか?
そういえば、あれ?
「ところで先生、旦那さんは?仕事?」
「・・・」
「あれ?なんかまずいこと聞いちゃった?もしかして、愛想つかされて逃げられたとか?ぶはっ」
「違うの、杏太郎君。夫はね、去年、飛行機の事故で、亡くなったの。それと、私たちの、両親も、一緒に、、、」
え・・・死んだ?しかも自分にとって大切な人を同時に3人も?
「あの、その、ごめん。そんなつもりじゃ、」
「いいのよ。悪気がないのは分かっているから。それに、くるみがいるからいつまでも落ち込んでもいられないでしょ。だから、そろそろ前を向いて進もうとしてたところだったの」
そういえば、一年前くらいに先生が長期で休んでた時があったな。そんなことがあっても仕事へ復帰して娘を育てているんだ。
強すぎんだろ。やっぱこの人は違うわ。今まで出会って来た大人と。
「暗い話は置いといて、京太郎君。さっきから冷蔵庫の方をチラチラ見てるけど、何かいい物を見つけちゃったんじゃない?」
「そうだ、デザート作ってあったんだ。持ってくるね。
はい、特製パフェよ」
待ってました!透明なグラスに注がれた色とりどりの世界。見てるだけで幸せになれるぜ。前に食べたケーキで、この作者は神クラスだとわかっている。
つべこべ御託を並べる暇はない。いざ、実食!
モグモグ
「うますぎんよ。あんた、やっぱり神だ」
「だーかーらー。アタイは美佳だっつうの」
「「「あははは」」」
ここの姉妹は『だーかーらー』が口癖なのか?
「杏太郎君。前にケーキを食べた時は『まあまあ』なんて言ってたのに、甘いものをたくさん食べたせいか、本音を言えるようになってきたじゃない。
まだ子供なんだから、思ったことはなんでも口にしないとだめよ。
どうせ私の事も口うるさいオバサンだと思っているんだろうけど、一緒に住むことになったんだから家族同然にそういうことも言っていいのよ」
「あ、ああ」
俺は物心ついた時から自分に無関心な親と一緒に住んでたせいか、家族ってやつが何なのかわかっていない。
でも今、こうして一緒にテーブルを囲って笑いながら飯を食っているこの状況を家族というのであれば、いうのであれば、、、
これを維持していきたいかもしれない。いや、大切にしていきたい。
それに先生のことは口うるさいオバサンだなんて思っていない。俺のことを正面から見つめて、叱るし笑うし諭す。
あれ?俺、この人の事、好きなのか?
んー、嫌いじゃないことは確かだな。
このことも言った方がいいのか?
いや、今はやめておこう。言った後の空気がどうなるのかわからねーし。
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