第三章

認識欠落(1)

 時は進み――深山は、研究所との情報交換が終わると礼を言って出た。とりあえずは、この地域から見て近い実家に戻り――ある一人の男に連絡をした。櫻田裕、先に深山が仕事を手伝った探偵である。マザリをどうこうするにも絞って調べてもらうための内容というかテーマすら今までロクに無かったからこそ深山も具体的に調べてもらうのを先延ばしにしていたのが、今はその手がかりがここにある。ここが櫻田に依頼するタイミングだと彼は思い立った。

「――ああ、俺だ。さーちゃん、今から写真の画像データを渡す。サーチしてくれ」

「うん? なんだこの女。まさか、再婚……」

「バカ言え! 俺には純香しかいねえよ。そうじゃなくて……こいつは、俺の同類だよ」

「ああ、珍しいなあ超能力者……って同類!? 読心かよ! お前以外におったんか!」

「おったようなんだよ、ビックリだ。探せるんだったらやってくれ」

 あまり説明しすぎるのもなんだしな、と多少躊躇してごまかすように深山は櫻田をせかす。どうしても、父母の死に触れるからあまり言いたくはない。すっとぼけた声色だが櫻田もそのことは知っているはずだ。ニュースを見ていれば――の話だが。それでもあまり根掘り葉掘り触れようとはしないのは、深山の過去を知っているからであろう。

「今日び妹の方が役に立つんでないかなあ……しばらく使っとらんが」

「いーから」

「あいあい」

 さーちゃん、と呼ばれる櫻田もまた、超能力者である。写真を持ち……目を閉じて、検索を開始する。彼の能力は一種の限定的な遠隔透視だ。

 提示された写真に基づいた情報をいつでもどこでも認識することが可能なのだ。ただし、探せる物は画像データか印刷された写真、あるいはそれに付随する文字情報として存在するものでなければならない。

 あらゆる世界中にひそむ画像情報を、まるで辞典をめくるかのように感覚的に探せるのだ。アナログの画像検索である。無論量が多ければ時間はかかるし、集中力次第では見過ごしも出る。全ての画像を能力を使って頭の中で見る事ができるのだが、見ても肝心の彼自身が見過ごしては意味が無い。

 インターネットが流行り始めた頃からその存在が知れ渡って以来、櫻田当人による

「インターネットのサーチエンジンが俺をパクリよった! 俺が本家や! いやGoogleは俺の妹みたいなもんや!」

 が彼の口癖だった。無論ネット上の検索サイトが本当に櫻田の能力と存在を知っているわけがないが、ネットワークの発達により自分の能力の存在意義が揺らぎかけたことを見事に茶化してみせた、櫻田なりのジョークであった。サーチエンジン(本家)から転じて、さーちゃんというあだ名が定着したというわけだ。

「いや最近ではあのロゴも可愛く見えてきてな、知ってるか、あれ日によっては違ったりするんだぞ。やっぱ妹だな妹」

「はいはい、妹さんのことは良いから。見つかったのか?」

「おう。バッチシよ。名前は虎井シン、三十九。なんや同い年やないか。その割には若いというか、年齢のわからん……目つきのきつい画像ばかりだなこれ。生まれもたぶんお前のとこと近い――いやわからんな。ああ待て、履歴書で本籍が出た。ここ十数年で変わってないからたぶん同じとこに住んでいると見て良いだろう。えーと……」

 やはり、この家からそう遠くない場所だ。電車で二駅程度の場所。

「――ありがとう、礼は必ずする!」

 慌て気味に深山は慌しく準備をしながら言った。

「えらく張り切ってるなあ、フカ。やっぱ完全に同じ能力者ってのはアレか、会ってみたいか!」

「……まあな! 友達にでもなったら紹介してやるよ」

「おお、マジか! ええやんええやん中々べっぴんさんやし!」

 普通の友達に、なれたらの話だがな。なぜか尋常ではない印象を拭えない彼女の写真を摘みながら、心の中で深山は呟いた。


  ◆

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