第27話 ルーカス様が助けに来てくれましたが…

「離して、このバカ魔王!」


バシバシ胸を叩いて暴れるが、全く歯が立たない。そして滝まで来ると、そのまま滝に向かって飛んでいく魔王。ちょっと、何をしているの?そう思ったが、滝の中に洞窟があった様で、そのまま中へと進んでいく。


しばらく進むと、開けた場所に着いた。その場に降ろされた私は、すぐに魔王から離れ、隅に隠れた。


「ここが俺の住処だ。今日からお前も、ここで暮らす。欲しいものは何でも与えてやろう。でもその前に…」


ニヤリと笑いながら近づいてくる魔王。恐怖で足がすくむ。


「あの…魔王。どうして私をこんな場所に連れて来たの?あなたの目的はなに?」


魔王は人間が自分の領域に踏み込まない限り、自ら人間を襲う事はないと聞く。だから討伐部隊も、滝までの討伐を目的としている。滝より向こうが、魔王の領域だからだ。それなのに、なぜわざわざ私を連れ去ったの?


「いいだろう、教えてやろう。お前は俺がずっと探し求めていた魔力を持っているからだ。魔王の命は、5000年と言われている。でも、光の魔力を持つ人間と交わる事で、永遠の命を手に入れる事が出来るんだ。そう、お前がその光の魔力の持ち主だ」


「光の魔力?そんなものは持っていないわ」


「いいや、持っている。お前、小さい頃体が弱かっただろう?小さな体では、上手く魔力を抑えきれないからだ。それから、攻撃魔法が苦手なはずだ。その代わり、治癒魔法に優れている。どうだ、違うか?」


魔王が言った事は、全て当たっている。


「光の魔力を持った人間は、中々生まれてこないうえ、この森の、それも奥まで足を踏み入れないと、俺も感じる事が出来ない。だから、歴代の魔王たちは、皆光の魔力の持ち主を手に入れることなく、命を落とした。俺も後1000年もすれば、命を落とす。でもお前が現れ、俺の元にやって来た。俺はこの機会の逃すつもりはない!」


ゆっくりと私の元に近づいてくる魔王。


「ちょっと待って、さっき交わると言ったわよね。交わるとは…」


「お前は本気で聞いているのか?男女の仲になるという事だ。俺はお前を抱けば、永遠の命が手に入るんだよ。ただ…リスクもあるがな…大丈夫だ、優しくしてやる」


「何が優しくしてやるよ!ふざけないで。私には、ルーカス様と言う婚約者がいるのよ。だから、あなたとそういった事をするつもりはないわ。私はもう帰る」


クルリと反対方向を向き、来た道を戻ろうとするが…


「お前はどうやら頭が良くないみたいだな。俺が返すと思っているのか?でも…まあいい。お前の婚約者と思われる男どもが、俺の領域に入ってきたぞ。そいつらを始末してから、お前を抱くとするか」


えっ…ルーカス様が。まさか…


「アリシア、大丈夫か!」


魔王の言葉通り、ルーカス様とヴィーノお兄様、バランお兄様がやって来た。


「ルーカス様」


急いでルーカス様の元に向かおうとしたのだが、すぐに魔王に腕を掴まれた。


「あの水色の髪の男が、お前の婚約者か」


「アリシアを放せ」


3人が私たちの方に向かって走って来る。私が魔王と一緒にいるから、攻撃魔法が使えないのだろう。次の瞬間。


「ウァァァァ」


魔王の放った攻撃魔法を受け、3人は吹き飛ばされていった。


「ルーカス様!ヴィーノお兄様!バランお兄様!」


急いで3人の元に駆けつけようとするが、再び腕を掴まれ、動く事が出来ない。


「アリ…シア」


よかった、3人とも生きている様だ。でも…


「ルーカス様、ヴィーノお兄様、バランお兄様、どうかこの洞窟からお逃げください。このままでは、あなた様達のお命が」


「…いいや…アリシアを置いて…逃げるつもりはない…君は俺の…生きる希望なのだから…君のいない人生なんて…俺には考えられない…」


「ルーカス様…」


そんなルーカス様達に再び近づく魔王。


「お願い、魔王。やめて。これ以上ルーカス様を傷つけないで。お願い」


魔王の腕を掴み、必死に訴えた。


「黙れ!俺に指図するな。俺は誰かに指図されるのは虫唾が走るほど嫌いなんだ!あいつらは今から抹殺する。遺体が残らない程、粉々にしてやるかよ」


ニヤリと笑った魔王。その微笑は、ぞっとする程恐ろしかった。


「止めて…お願い…」


ゆっくりルーカス様に近づく魔王。そして、手をかざした。このままでは、本当にルーカス様が死んじゃう。私のせいで…


それだけは、絶対に嫌だ!


「止めて…お願い。止めて!…止めろって、言ってるだろうが!!!!」


今までに感じた事のない感情が、一気にあふれ出す。それと共に、体中から魔力が沸き上がり、一気に放出した。


「何だこの光は…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る