第26話 どうしてこんな事に~ルーカス視点~

「クソ!アリシア!!」


「ルーカス殿下、落ち着いて下さい。とにかく治療を」


俺に治癒魔法を掛ける治癒師たち。その間にも、どんどんとアリシアの姿が小さくなっていく。なんでこんな事になってしまったんだ…



~1時間前~

「ルーカス殿下、滝周辺の魔物は全て退治しました」


「皆、ご苦労だったな。これで討伐も終わりだ。さあ、早くアリーの元に戻ろう」


これで討伐も終わりだ。この先は魔王の領域。うかつに足を踏み入れれば、俺たちも命はない。ここまで魔物を追い込めれば、20年くらいは安全に暮らせるだろう。


「ルーカス殿下、5年間お疲れさまでした」


俺に肩を叩き、そう言ったのバランだ。


「そうだな、まだ戦いは終わっていない。ある意味、これからが本番だ」


王宮に戻れば、今度は王位争いが待っている。でも…もう俺は1人じゃない。俺に寄り添いずっと傍にいてくれると誓ってくれた、大切な婚約者、アリシアがいる。彼女がいれば、俺はどんな事でも耐えられる気がする。


「殿下、その点に関しても大丈夫です。父と母、さらに一番上の兄、ブライズが既に準備を進めています。殿下が王宮に戻ったタイミングで、一気に王妃を叩き潰す予定ですので」


さすがカーラル公爵家の人間だ。既に準備を進めてくれていたのか。


「とにかく、早く戻りましょう。アリーがサボっているかもしれないから、さっさと戻ってこき使ってやらないと」


こいつら、いつもアリシアをこき使いやがって。確かにアリシアが勝手にやった事は褒められた事ではないが、そこまで実の妹を虐めなくても…第一こいつら、アリシアに罰を与えるという口実を利用して、自分たちが旨いものを食べたいだけじゃないのか?


そんな気持ちすら生まれた。何はともあれ、とにかくアリシアの元に早く戻りたいのは事実だ。皆で馬にまたがり、出発しようとした時だった。


滝の奥から、ものすごい魔力が吹き荒れた。


「ルーカス殿下!!」


俺を守る様に、ヴィーノ、バラン、グラディオンが囲む。その時だった。


「よう、人間ども」


真っ黒な羽を羽ばたかせ、宙を浮いているのは…間違いない、魔王だ。どうして魔王が…

隊員たちの間に、一気に緊張が走る。


「そんな怖い顔をしなくてもいい。俺はお前たちなど興味がない。それより、あの魔力の持ち主は…どうやらここにはいない様だな。俺はあの魔力の持ち主を、ずっと探していたんだ。かすかに感じる魔力は感じ取っていたが、魔物どものせいで、中々居場所を特定できなかった。でも、魔物が消えた今、感じる。こっちだな」


そう言うと魔王は、テントの方に向かって飛んで行ったのだ。なんだか嫌な予感がする。


「ヴィーノ、バラン、グラディオン。俺たちも急いでテントに戻ろう。なんだか嫌な予感がする」


急いで馬にまたがり、テントを目指す。魔王の奴、“あの魔力の持ち主”と言っていたな。よくわからないが、テントがある方角に向かって飛んで行ったという事は、目的はアリシアか?


でも、何の為に。クソ!途中でいとも簡単にバリアが破られるのを感じた。やっぱり魔王は、アリシアの元に行った様だ。はやる気持ちを抑え、テントに戻ると、魔王に捕まっているアリシアが目に入る。俺の姿を見つけると、何度も俺の名前を呼び、助けを求めるアリシア。


何とかして助けたいが、全く歯が立たない。結局アリシアは連れ去られてしまった。



♢♢♢

「ヴィーノ、バラン、グラディオン、俺は今から、アリシアを助けに行く。悪いが後は頼んだ」


「殿下、何をおっしゃっているのですか。相手は魔王ですよ」


「分かっている。でも俺は…もうアリシアなしでは生きていけない。大丈夫だ、俺1人で行く。だからお前たちは、隊員たちを連れ、森を出てくれ」


魔物討伐部隊の目的は、滝まで魔物を倒すことだ。その任務を成し遂げた今、もう彼らを拘束する事など出来ない。


「グラディオン、悪いが後は頼んだ。ルーカス殿下、アリシアは俺たちの大切な妹です。俺たちも行きます」


「そうと決まれば、すぐに行きましょう。アリシアの元へ」


ヴィーノとバランが、準備を始める。


「待ってくれ、それなら僕も…」


「いいや、全ての隊長が行く訳には行かない。グラディオン、お前はここに残り、皆を頼む」


グラディオンを説得するヴィーノ。悔しそうに唇を噛むグラディオンだったが、「分かった…こっちは任せてくれ」そう言って悲しそうに笑った。


きっと俺たちが生きて帰れない事を、悟っているのだろう。


「ルーカス隊長、どうか俺たちも連れて行ってください。アリーは俺たちの大切な仲間です。仲間が連れ去られたんだ。このまま俺たちだけ、のうのうと帰る事は出来ない」


そう訴えて来たのは、ダイたち俺の部隊の隊員たちだ。でも…


「ありがとう、ダイ。気持ちは嬉しいが、ここは俺たちで行く。とにかくお前たちは、森から出ろ。いいな。これは隊長命令だ!」


強い口調で伝えると、悔しそうに頷く隊員たち。


「さあ行こう」


3人で馬にまたがり、魔王のいる場所を目指す。


「魔王は確か、滝の奥にある洞窟に住んでいるはずです。でも、どうしてアリシアを…」


「それは俺にも分からない。でも…アリシアは子供の頃から、なぜか魔力をうまくコントローズ出来ずに、何度も寝込んでいた。俺たちはただ体が弱いだけかと思っていたが、もしかしたら、何か特殊な力があるのかもしれない。あいつは魔力量が多いのに、なぜか攻撃魔法は苦手だし…」


「なるほど、俺もアリシアの魔力には疑問を抱いていたんだ。あれほどの魔力を持っているのに、どうして攻撃魔法がうまく使いこなせないのかを…」


そんな話をしているうちに、再び滝に戻ってきた。馬から降り滝へと入って行くと、バランが言った通り、洞窟が…


「この先に、魔王がいるのだな…さあ、行こう」


アリシア、今助けに行く。待っていてくれ。

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