第25話 討伐が終わると思ったのに…

翌日、夜遅くまで隊長たちのパシリとして、お菓子やお茶を準備させられた私は、朝から眠い目をこすり、朝食の準備をする。もちろん、200人分だ。


「アリー、俺は朝から肉が食いたいんだ。しっかり準備をしろよ」


元気いっぱいにやって来たのは、ヴィーノお兄様だ。この人、昨日夜遅くまで話し合いをしていたのに、どれだけ元気なのかしら?それもあんなに食べたのに、朝から朝食の催促だなんて…


ジト目でお兄様を睨む。


「とにかく、さっさとしろ!それから今日で決着をつける。ご馳走の準備を忘れるなよ」


まだ朝ご飯も食べていないのに、もう晩餐の話しをして。本当に食いしん坊なんだから…


朝からお兄様にこき使われ、なんとか200人分の食事を準備した。さらに今日は、1日かけて討伐するとの事で、200人分のお弁当も準備する。いくら魔法で作ると言っても、量が多いと魔力もたくさん使うため、体への負担も大きい。


「アリー、今日は1日留守にする。バリア魔法は掛けていくが、くれぐれもテントが張られているエリアの外に出るなよ。いいな、分かったな」


「ええ、大丈夫ですわ。ルーカス…隊長。」


“俺の可愛いアリシア、それじゃあ行ってくる。いい子にしているんだぞ”


耳元でそう囁くと、馬に乗り込んだルーカス様。その時だった。


ふとお兄様たちの部隊の治癒師たちが目に飛び込んできた。どうやら一緒に付いていく様だ。私が眠っている間は、お兄様たちの部隊の治癒師たちが治療を行ってくれていたそうだ。用は私は、本当の意味で、雑用係になったのだ。


あれだけ必死に治癒の訓練を積んだのに…でも私が何日も意識を飛ばしていたから悪いのよね。


討伐に向かう皆を見送った後、いつもの様にテントの掃除に取り掛かった。と言っても、いつもの4倍、これはかなり大変そうだ。それでもなんとか掃除を終え、お昼ご飯を食べた後、しばしの休憩タイムだ。


自分の為に、大好きなマフィンを焼いて、ローズヒップティーを入れる。あぁ、落ち着くわ。


今頃皆、どうしている頃かしら。そろそろ晩餐の準備を始めないといけないわよね。きっと相当のご馳走を準備しないと、お兄様たちは納得しないだろう。そろそろ準備するか。


帰ってきた時、すぐに食べられる様に、煮込み料理やスープを中心に作っていく。ホットサンドにいれる具材もあらかじめ魔法で作っておいた。後は帰ってきたら、仕上げをすれば完璧ね。


これだけたくさん作ったのだ。今日はゆっくり座って食事が出来るかしら?そう思っていた時だった。急に大きな雷の音が鳴ったのだ。


あんなにいい天気だったのに、何かあったのかしら?そんな思いで、厨房の外に出る。すると…


「見つけたぞ」


真っ黒な髪に尖った耳、赤い瞳は鋭く吊り上がっている。さらに真っ黒な羽まで生えている。もしかして…


「魔王…」


彼からは、凄まじいまでの魔力を感じる。恐怖から、後ずさってしまうほどだ。


「どうして魔王が、ここに?」


「どうしてか…とにかく俺と一緒に来てもらおうか」


ニヤリと笑い、私の方へとやって来る。


「イヤ…来ないで!!炎!」


炎魔法で攻撃したが、そのまま魔王の元に届くことなく消えてしまった。嘘…


「無駄だ、お前の攻撃魔法など、俺の頬をかすることもない」


「嫌よ、来ないで!」


ギロリと魔王を睨んだ。


「そんな顔で睨んでも怖くない。さあ、来い!」


私を抱きかかえると、そのまま宙に浮いた。ちょっと、何をするのよ。離して!とにかく逃げないと!そんな思いで、バタバタと暴れる。


「イヤ、離して。この変態。私に触れていいのは、ルーカス様だけなのだから!」


バシバシ魔王の胸を叩きながら暴れる。


「威勢のいい子だ。でも、少し大人しくしようか」


そう言うと、今まで感じた事のない魔力が私の体に流れ込んできた。


「キャァァァ」


その時だった。


「アリシア!!」


この声は…


声の方を見ると、必死に馬を飛ばしてこちらに走って来るルーカス様の姿が。その後ろには、お兄様たちやグラディオンもいる。


「ルーカス様、助けて下さい」


必死に暴れるが、魔王にがっちり抱えられていて動けない。


「お前、俺の魔力をあれほどにまで受けたのに、気絶すらしないのか…やっぱり思った通りだ」


訳の分からない事を言っている魔王は、ルーカス様達めがけて、凄まじい魔力で攻撃をした。


「ウワァァァ」


その瞬間、ルーカス様やお兄様たちが、吹き飛ばされた。


「ルーカス様!!」


必死に魔王の腕から抜け出そうともがく私を抱きかかえ、そのまま飛び立つ魔王。


「ルーカス様、ルーカス様!」


どうやら命はあった様で、すぐに治癒師によって治療を受けるルーカス様の姿が。よかった、無事だったのね。でも…


どんどん小さくなるルーカス様の姿を見つめながら、不安で胸が押しつぶされそうになるのだった。

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