第24話 今後について話し合います

どれくらい口づけを交わしただろう。お互いゆっくりと離れる。


「そういえば、初めて口づけをしたのは、俺がカールに毒を盛られた時だったな」


「そういえば、そうでしたね。でもあれは、ルーカス様が…」


「俺は別に口移しで飲ませて欲しいと言ったわけではないぞ。それにしても、アリシアは随分大胆なんだな。でも、これだけは言っておく。俺以外の男に、あんな事は絶対にするなよ」


「す…する訳がないじゃないですか!私はルーカス様だからやったのです。他の殿方だったら、絶対しませんわ」


「それならいい。とにかく討伐部隊はアリシア以外、全員男だ。いいか、くれぐれも気を付けろよ。今回は俺のテントの隣にしたが…それでもやっぱり心配だな」


何やらブツブツと言っているルーカス様。その時だった。


「ルーカス殿下、アリシア。こんなところにいたのか」


やって来たのは、ヴィーノお兄様、バランお兄様、さらにグラディオンだ。


「アリシア、あんなにこき使ってやったのに、まだ元気そうだな。明日はもっとこき使ってやらないとな」


ニヤリと笑ったヴィーノお兄様。


「もう、お兄様ったら。そもそもお兄様が中々作戦を考えないから悪いのでしょう?だからしびれを切らして私が動いたのです」


そうよ、あの後お兄様から、少し待っていろと言ったっきり、特に動かなかったじゃない。だから私が動いたのよ。


「俺はルーカス殿下と連絡を取りながら、作戦を練っていたんだ。現にカールを見張るスパイも送り込んでいたしな。それをお前が暴走したのだろう。少しは反省しろ!」


そう言うと、私の頬をギューッとつねったのだ。


「痛い、離してください。ごめんなさい、私が悪かったです」


「分かればいいんだ!本当にお前は、いつからこんなに聞き分けが無くなったんだ。昔は可愛かったのに…」


あきれ顔のヴィーノお兄様。隣でバランお兄様が激しく頷いている。


「ヴィーノ、いくら兄妹だからって、あまりアリシアに触れないでくれ。俺の可愛いアリシアの頬が、赤くなってしまっただろう」


そう言って私の頬を撫でるルーカス様。


「ルーカス殿下、あまりアリシアを甘やかさないでください。つけあがります。それからアリシア、お前がどんくさいから、殿下にお前の存在がバレてしまったじゃないか。父上も母上も、討伐から帰った後にアリシアの存在をばらして、ルーカス殿下の驚く顔を見るのを楽しみにしていたんだぞ」


「お兄様、まさかそんな理由で、私の正体を隠せとお父様とお母様は言ったのですか?公爵家の人間が討伐部隊に参加したら、気を遣うからではないのですか?」


「そんなのは建前だ。第一、討伐部隊に公爵家もへったくれもない。第一俺たちも公爵家の人間ではないか。別にお前が討伐部隊に来ても何の問題もないんだよ」


そう言ってため息を付いたお兄様。どうやら私は、両親のルーカス様の驚く顔が見たいという我が儘な要望の為に、己を偽っていた様だ。もう、討伐部隊から戻ったら、絶対に両親に文句を言ってやるんだから。


「でも、お前が正体を隠していたから、カールがスパイだとわかったんだぞ。あいつ、俺に嬉しそうに通信を入れて来たと思ったら“ルーカス殿下はアリシア嬢という婚約者がいながら、アリーと浮気しています!これはれっきとした裏切り行為です”て、報告してきたんだからな。もう吹き出すかと思ったよ」


そう言って笑っていた。そう、副隊長がお兄様に、ルーカス様の事をチクったため、もしかして副隊長は王妃のスパイではないのかと考えた様だ。まあ、それ以外にも怪しい行動はあった様だが…


「おい、ヴィーノ、もうその話はいいだろう。僕たちは今後の話しをするために集まったんだ。アリシア、まずは僕たちにお茶を入れろ。それからお菓子も。僕は果物たっぷりのパイが食べたい」


ここに来て、まだ私をこき使おうとしているは、グラディオンだ。本当にどいつもこいつも…


「俺はシフォンケーキがいい。今すぐ準備をしろ」


「俺はもう甘いものはいいや。野菜たっぷりのスープにしてくれ」



次々とリクエストが飛ぶ。


「君たち、いくら何でもアリシアをこき使いすぎだ。今回は我慢…」


「殿下、これはアリシアに与えた俺たちからの罰なのです。さあ、アリシア、早くしろ!」


私を庇おうとしてくれたルーカス様の言葉を遮り、私に指示を出すお兄様。仕方がない、急いで厨房に向かい、調理をする。そして、またこの場所に運んだ。


もう本当に人使いが荒いんだから。


急いで戻ると、既に4人で話をしていた。


「遅いぞ、こっちは待ちくたびれた。いつまで待たせるんだ」


「文句があるなら、自分で取りにこればいいでしょう。本当に人使いがあらいのだから」


文句を言うお兄様に、文句で返した。


「ヴィーノ、落ち着いてくれ。アリシアも、こっちにおいで」


すかさず私を腕の中に閉じ込めたルーカス様。この人、こんなキャラだったかしら?


そのままルーカス様の膝に座った。


「それじゃあさっきの話しの続きだが、一気に森の奥まで攻め込もう。でも、あまり奥まで行くと、魔王が出てくるかもしれない。魔王が出てきたら、俺たちは全滅する。いいか、とにかく滝の手前まで攻め込めば討伐は完了だ」


「そうですね。それじゃあ明日、一気に滝まで攻め込みましょう。幸いこの1週間で、随分と攻め込みましたから。そう、誰かさんがグーグー寝ている間に」


私の方をチラリとみて、ニヤリと笑ったヴィーノお兄様。どうやらお兄様はこの5年で、随分と性格がひねくれた様だ。そんなお兄様を、ジト目で返した。


「ヴィーノ、これ以上アリシアを虐めないでくれ。彼女は俺の為に必死に動いてくれたんだ」


「ルーカス様!」


やっぱりルーカス様はお優しいわ。お兄様にルーカス様の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいね!


「だからと言って、君がやった事は褒められた事じゃないからね。いいかい、何度も言うが、もう二度と勝手な事をしない事。わかったね」


「…はい」


結局怒られてしまった。


その後も4人の隊長たちは、明日の計画を入念に立てていた。その間私は、何度もお茶とお菓子を準備させられる羽目になったのだった。

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