第23話 私の正体がルーカス様にバレていた様です
夕食の片づけを終えたと同時に、今度はお茶とお菓子を準備しろと騒ぎ出したお兄様たち。もう、いい加減にしてよ!そう思いつつも、200人分のお茶とお菓子を準備した。
さすがに疲れたわ。厨房で座っていると、またヴィーノお兄様のバランお兄様がやって来た。
「アリー、エクレアが食べたい。今すぐ作れ」
「俺はイチゴのタルトがいいな」
また料理のリクエストをしに来たのね。いい加減頭に来たわ。
「お兄様たち、いい加減にしてください。こんなに私をこき使って、一体何を考えているのですか?」
お兄様たちに近づき、小声で文句を言った。
「何って、お仕置きに決まっているだろう。お前、俺のいう事を無視して勝手に行動を起こしたかなら。あれほど勝手な行動は慎めと言っただろう!」
急に怖い顔になったヴィーノお兄様に詰め寄られた。そういえば私、お兄様の言葉を無視して、自分で副隊長を尾行したりしたのだった。
「今回はたまたま他の隊員たちに助けられたりしたからよかったものを!第一お前は少し無謀すぎるんだ。もう二度と勝手な事が出来ない様、討伐が終わるまでは毎日こき使って、夜は出歩く元気が出ないようにしてやるからな。覚悟しろよ!」
「ヴィーノ兄さんの言う通りだ!ルーカス殿下から話を聞いた時、寿命が縮まる思いをしたんだぞ。その上、全然目覚めないし。お前は俺たちの大切な妹だ!くれぐれも勝手な行動はするな!話は終わりだ、今すぐイチゴタルトを作れ」
結局そこに落ち着くのね…でも、私の行動でお兄様たちに随分と心配を掛けてしまった様だ。
「ヴィーノお兄様、バランお兄様、ごめんなさい。次からは気を付けるわ」
「分かればいい。それより、エクレアを」
「分かりましたわ。今すぐ作りますのでお待ちください」
結局最後は食べ物なんじゃない。もう!食いしん坊なんだから!
それでも私を心配してくれていたことは、間違いないだろう。でも…もう少し手加減して欲しいわ。
楽しい?ティータイムも無事に終え、テントに戻ってきた時は、もうクタクタだ。本当に私が動けなくなるまで、容赦なくこき使うなんて…
体を魔法で綺麗にした後、布団に倒れ込んだ。もうダメ…疲れたわ…
その時だった。
「アリー、少しいいか?」
やって来たのは、ルーカス様だ。
「隊長、どうされましたか?」
「少し話がしたくて、ちょっと外に出ないか?」
正直クタクタだが、ルーカス様の誘いだ。断るという選択肢は私にはない。
「はい、分かりましたわ」
ルーカス様に付いていく。しばらく進むと、開けた場所に着いた。そこに腰を下ろすルーカス様。私も隣に座った。
「随分と疲れている様だな。大丈夫か?」
「お気遣いありがとうございます。何とか大丈夫です」
お兄様たちったら、私をこんなにもこき使うなんて…本当に嫌になる。
「大丈夫と言う割には、不満そうな顔だな。でも、それだけ君の行動に、ヴィーノもバランも怒っているという事なのだろう。今回の経緯を話した時、血相を変えて君の元に駆けつけていたからな。アリシア、今回の件、俺も怒っているんだぞ。これからは、俺にきちんと相談して欲しい。決して勝手な行動はしない様に!」
そう注意を受けてしまった。
「だからと言って、これほどまでこき使わなくてもよいと思いませんか?そもそも私は病み上がり…」
えっ?待って、今私の事を、“アリシア”と呼ばなかった?それに、お兄様との関係も知っているの?もしかして…
「そんなに驚かなくてもいいだろう。君は俺の婚約者で2人の妹、アリシア・カーラルだね」
目を大きく見開き固まる私に、そう問いかけてくるルーカス様。
「隊長…いつから私の正体を知っていたのですか?」
「君がカールに攻撃され、意識を失った時にだ。アリシアの寝顔を見ていたら、無性にそんな気がしてきて。それで、君の首にかかっているネックレスを見て確信したよ。そのネックレスは、俺が君の16歳の誕生日に贈ったものだからね。それにしても、アリシアとバランは本当によく似ているな。それに夫人にも。どうして今まで気が付かなかったのか、自分でも不思議なくらいだ」
そう言って笑ったルーカス様。
「さて、今度は俺が質問する番だ。君は体が弱く、領地で療養していたはずだ。いつの間に魔力を磨き上げたんだ?それに正体を隠していた理由も気になる」
真っすぐ私を見つめるルーカス様の瞳を見たら、話さないなんて出来ない。私は今までの事をすべて話した。
確かに体は弱かったが、成長するにつれ落ち着いた事。5年前、討伐に向かうルーカス様を見て、自分もルーカス様を助けたいと思った事。その為に、5年間訓練を積んだこと。公爵家の令嬢が討伐部隊に参加したら、皆が気を遣うから黙っていた事を丁寧に説明した。
「なるほど、君は俺を助けたい一心で、5年もの歳月をかけ、魔法を磨き上げたんだな。でも、どうしてそこまで俺の為にしてくれるんだ?」
「そうですね。物心ついた時から、ずっとお母様に“ルーカス殿下はあなたの大切な婚約者よ。きっと彼があなたを幸せにしてくれるわ”そう言われ続けていたので。そして5年前、初めてあなた様を見た時、私はあなた様が好きになりました。きっと一目ぼれと言う奴ですね」
本人を目の前にしてこんな事を言うのはとても恥ずかしい。でも、こうやって自分の気持ちを伝えられたことは、やっぱり嬉しい。きっと私は、心のどこかで私はアリシアよ、気が付いて!と、願っていたのかもしれない。
「アリシアはそんなに前から俺の事を…アリシア、改めて俺の婚約者になってくれてありがとう。俺もアリシアを心から愛している。正直言うと、君を好きになってしまった事を非常に悩み、アリシアと婚約破棄をしてアリーと結婚したいと考えた事もあったんだぞ。でも、まさか同一人物だったとは…」
そう言ってルーカス様が苦笑いをしている。
「でも、結局は私を好きになってくださったという事でしょう?ルーカス様、私もあなた様が大好きです。正直私たちにはまだやらなければいけない事が残っておりますが、きっと2人なら乗り切れると信じていますわ。これからは、ずっと一緒です」
すっとルーカス様の手を握った。もう二度と、この手を離さない。
「ずっと一緒か…そうだな。これからどんな未来が待っていようと、俺に付いて来てくれるか?」
「もちろんです」
ギューッとルーカス様に抱き着いた。そしてどちらともなく離れると、そのままゆっくりと近づいてきて…唇と唇が重なり合った。その後も何度も何度も唇を重ねる2人であった。
~あとがき~
※本編関係ないので、飛ばしていただいても大丈夫です!
アリシアが意識を飛ばした後のヴィーノとルーカスの会話(通信機越し)&4隊が合流した日の様子
「ヴィーノ、先日俺を毒殺しようとしていたカールを捕まえたよ。ただ…」
”ただ、どうされたのですか?”
「アリーという治癒師が自ら体を張ってカールを追い詰めたんだが…そのせいで、意識を飛ばしてしまって…」
”何ですって!アリシアの奴、勝手な行動は慎めと言ったのに!とにかく、少し早いですが明日にでも合流しましょう。バランとグラディオンには俺から話しておきます。それでは、また明日”
「ちょっと…」
さっさと通信機を切ってしまったヴィーノ。
翌日
「「アリシア」」」
合流するや否や、真っ先にアリシアのテントに向かうヴィーノとバラン。眠る妹を抱きしめた。
「あんなに勝手な行動は慎めと言ったのに。全くこいつは、俺のいう事を聞かないのだから…」
「ヴィーノ兄さん、アリシアには厳しいお仕置きが必要ですね」
「そうだな…目が覚めたら、これでもかというくらいこき使ってやろう」
にやりと笑ったヴィーノとバラン。
「ヴィーノ、バラン、やっぱり彼女は、君たちの妹で俺の婚約者の、アリシアだったんだね…」
ルーカスの言葉を聞き、しまったといった顔をする2人。
「いや…その…」
「隠さなくてもいいよ。俺はアリシアがカールを追い詰めたあの日に、気付いたのだからね」
「何だ…俺たちのせいでバレたのではないのか…よかった。殿下、どうか俺たちがアリシアの名前をうっかり呼んでしまった事は、本人には黙っていてください。いいですね!」
ものすごい勢いでルーカスに詰め寄る2人。
「…わかったよ」
ルーカスの言葉を聞いて、心底ほっとするヴィーノとバランだった。
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