第7話 すっかりこの生活に慣れました

魔物討伐部隊に参加して、2ヶ月が過ぎた。すっかりこの生活にも慣れた。そして今までガリガリだった隊員たちも、私の栄養満点、魔力満点の料理を食べているおかげか、ガッチリした体形に戻ってきた。


さらに魔力アップした隊員たちは、次々と魔物を倒しているうえ、来たときほどケガ人が出なくなったのだ。


ルーカス様には


「アリーが来てくれてから、すっかりこの部隊は生まれ変わったよ。ありがとう、アリー」


と、お褒めの言葉を頂いた。そして先日、もう少し奥の魔物を倒すため、引越しも行った。奥の魔物を片付けたら、この討伐部隊も一旦は解散になるらしい。


本当は森の奥深くにいる魔王を倒すことが出来ればいいのだが、私たち魔力持ちが全員で戦っても勝てない程、膨大な魔力を持っている魔王。その為、魔王の領域手前まで魔物を倒したら、討伐部隊の役目は終わりなのだ。


ちなみにルーカス様率いる魔物討伐部隊は南から、二番目の兄、ヴィーノお兄様が率いる部隊は北から、三番目の兄、バランお兄様が率いる部隊は西から、私の従兄弟に当たるグラディオン(お母様の弟の子供)が率いる部隊が東から攻めている。


4人の隊長たちは、それぞれ通信機で連絡を取り合いながら、戦っているらしい。ある程度奥まで進んだら、4隊合同で戦う事になっていると、お兄様が言っていた。でも、4隊合同で戦えるのは、まだ先みたいだ。



今日も朝から魔物を討伐に行く皆を見送る。


「アリー、それじゃあ行ってくる。旨い昼飯を準備しておいてくれよ」


「ええ、分かっているわ。任せておいて」


皆を見送った後、早速各自が出した洗濯物を綺麗にする。そう、私は皆が少しでも快適に過ごせるよう、雑用も買って出ているのだ。


洗濯や部屋の片づけが終わると、早速昼食作りだ。今日のお昼ご飯は、ルーカス様の好きな牛肉と玉ねぎのサンドにした。ルーカス様はあまり口には出さないが、牛肉と玉ねぎのサンドの時は、いつもよりたくさん食べてくれるのだ。


少しずつだが、ルーカス様の事が分かって来て嬉しい。他にも、具沢山スープとチーズたっぷりグラタン。さらにダイのリクエスト、ローストビーフサラダも作った。ダイはローストビーフサラダが大のお気に入り。すぐにリクエストしてくる。


ちょうど机に並べたところで、皆が帰って来た。今日も何人かケガ人が出たようなので、治療を行う。


嬉しい事に、私が来てからまだ誰も命を落としていないのだ。新しく5人の隊員も増え、今は総勢43人になった。


それにしても、皆よく食べる。お替りの嵐なので、私は皆が食べ終わってから食べる様にしているのだ。


ふとルーカス様のお皿を見ると、案の定お肉と玉ねぎのサンドが無くなっている。


「隊長、お肉と玉ねぎのサンドのお替りはいかがですか?」


すかさずルーカス様に話しかけた。


「ありがとう、俺は残ったらでいいよ」


相変わらず謙虚だ。


「残るのを待っていたら、一生お替りは出来ませんわ。はい、どうぞ。あなた様は隊長なのです。人一倍過酷な仕事をしているのですから、食事の時くらい遠慮しないでください」


魔物討伐部隊に来てまだ2ヶ月(そのうち10日寝ていたが…)、少しずつルーカス様の事が分かって来た。いつも周りに気を使い、自分の事は後回しにする。どうかもっと自分の事も大切にして欲しい。


「ありがとう…アリー」


「どういたしまして。それから隊長、腕から血が出ていますわ。すぐに治しますわね。ヒール」


よく見たら、腕から血が出ていたのだ。本当にこの人は、多少の傷だと我慢するらしい。だから、極力ルーカス様が怪我をしていないか、しっかりチェックする様にしている。


「アリーは本当に目がいいな。でもこれくらい…」


「これくらいの傷でも、菌が入ると大事になる事もあるのです。どうか、もう少しご自分の体を大切にしてください」


本当にどうしてこの人は、もっと自分を大切にしてくれないのだろう。


「アリーは、ルーカスのお母さんみたいだね。あっ、ルーカスだけじゃなくて、皆のお母さんか」


そう言って笑っているのは、副隊長だ。失礼ね、誰がお母さんよ!私はまだ16歳の乙女よ!


「確かにアリーは、母親の様に俺たちの事を考えてくれているな…アリーが来てから、この隊も随分と明るくなったし。アリーのお陰だな。ありがとう」


私の目を見てお礼を言ってくれたルーカス様。優しい微笑を浮かべている。その笑顔を見た瞬間、私の心も幸せに包まれる。


「こちらこそ、そう言ってもらえると嬉しいですわ。ありがとうございます」


ルーカス様に向かってにっこり微笑むと、なぜか目をそらされてしまった。あら?何かお気に召さなかったかしら?


まだまだルーカス様が私に心を開いてくれることはないけれど、それでも完全にこの隊に馴染むことが出来ている。まあ、私にはまだまだ時間があるのだ。ゆっくりと、ルーカス様に近づけばいいだろう。そう思っている。

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