第6話 友人が出来ました

食後のティータイムに、シフォンケーキを作った。と言っても、魔法で焼き上げたので、あっという間だ。やっぱり糖分もしっかり摂らないとね。特に魔力を使うと、甘いものが食べたくなる。


なんだかんだ言って、皆のお替りの対応をしていたら、忙しすぎて食べたか飲んだか分からない様な食事になってしまった…


隊員皆にシフォンケーキと紅茶がいきわたったのを確認し、私もいただく事にした。


「アリー、今度こそこっちでゆっくり食べようぜ」


そう声を掛けてきてくれたのは、ダイさんだ。早速ダイさんの横に座った。そして、紅茶にたっぷりの蜂蜜を入れた。一仕事した後の蜂蜜入りの紅茶は最高だわ。


「お前、そんなに蜂蜜を入れるのか?」


「ええ、魔力を使った後は、甘い紅茶に限りますわ」


「ハハハハハ、甘いものが好きだなんて、やっぱりお前、女だな」


そう言って笑うダイさん。そんなに笑わなくてもいいじゃない。失礼ね。


「俺も甘いものが好きだぞ。なあ、アリー。俺の紅茶にも、蜂蜜を入れてくれよ」


話しかけてきたのは、ダニーさんだ。早速ダニーさんの紅茶にも、たっぷりの蜂蜜を入れてあげた。


「これは旨いな。アリーが作るものは、すべて旨い。お前、いい奥さんになれるぞ」


そう言ってダニーさんが笑った。


その後、4人で話をした。ダイさんとダニーさんは17歳、グレイさんは18歳で、3人とも男爵令息との事。魔物討伐部隊には、多くの貴族が駆り出されている。特に男爵家ともなると、ほぼ強制だろう。


ちなみにこの国では、平民はほとんど魔力を持っていない。貴族のみが魔力を持っているのだ。その為、魔物討伐にはどうしても貴族が参加せざるを得ないのだ。


「アリー、お前、1日目の治癒魔法といい、今日の料理といい、相当な魔力持ちだろう。どうして討伐に参加しないんだ。お前なら、即戦力になりそうなのに」


「私は…戦闘魔法が得意ではないのです。必死に練習しましたが、結局お母様が満足するだけの攻撃魔法を取得する事が出来なくて…代わりに癒し魔法が得意で、そっちを伸ばすことにしたのです。料理や掃除など、雑用も徹底的に叩き込まれましたから、任せて下さい」


「お前の母親は、随分厳しいんだな。自分の娘にそんな事を叩き込むなんて…」


「そうですね、私の母親も魔物討伐にかつて参加しておりましたので。私にも本来なら、魔物討伐部隊でバンバン魔物を倒して欲しかったのでしょう。でも、私には無理でしたが…」


お母様は口には言わないが、きっと私にも魔物討伐部隊で活躍して欲しかっただろう。でも私は、別にお母様を喜ばせたい訳ではない。ルーカス様のお役に立てるのなら、戦闘員でも治癒師でも何でもいいのだ。


「お前の家庭、相当変わっているな…いくらアリーの魔力量が多いからって、娘に訓練を積ませて、魔物討伐部隊に送り込むなんて…」


「あの…誤解がある様なのでお話ししておきますね。討伐部隊に参加したいと言ったのは、私です。最初両親は反対しておりましたし…でも、私の意志が固かったのと、何もせずに行って命の危険に晒されるくらいなら、しっかり訓練を積みなさいという事で、叩き込んでもらったのです」


そう、私はルーカス様の手助けがしたくて、ここに自ら志願してきたのだ。その事だけは、はっきりさせておかないと。


「なるほど…でもまあ、お前が来てくれた事、俺は歓迎するぞ。お前の料理、めちゃくちゃ旨いし、それに治癒力もすごい。お前は俺たちの大切な仲間だ」


大切な仲間か…


「ありがとうございます、ダイさん」


「おい、ダイさんなんて気持ち悪い呼び方をするな。ダイでいいよ。それから、敬語もなしだ。ここは身分もほとんど関係ないからな」


なるほど、そういえば、ルーカス様や副隊長様以外と話すときは、皆あまり敬語を使っていない様だった。


「わかったわ、それじゃあ、これからよろしくね、ダイ、グレイ、ダニー」


「「「ああ、よろしくな」」」


3人とそれぞれ握手を交わした。


「それよりアリー、悪いんだけれどさ、紅茶お替りしてもいいかな。後シフォンケーキも」


「あら、あれだけたくさん食事を食べたのに、まだ食べるの?」


「だってさ、お前の料理、めちゃくちゃ旨いんだもん。ちゃちゃっと魔法で作ってくれよ」


お願いのポーズをしているのは、ダニーだ。


「もう、仕方ないわね。それなら、手伝ってくれる?」


「ああ、もちろんだ」


その後結局厨房で、ワイワイ言いながらシフォンケーキを焼いた。私の魔法を見て、目を丸くする3人。気が付くと他の騎士たちも匂いにつられて厨房にやって来ていた。


「アリー、俺にも一度作らせてくれ」


名乗りを上げたのは、グレイだ。早速材料をそろえて魔法を掛けるが…


ボフっという爆発音と一緒に、小麦粉まみれになっていた。


「やだ、グレイったら、何をしているの」


真っ白なグレイを見て、つい笑いがこみ上げてきて声をあげて笑った。


「あれ?おかしいな。やっぱりアリーみたいには作れないな」


そう言って笑っていた。周りもワーッと笑いが沸き起こった。


魔物討伐は殺伐とした雰囲気だと聞いていたが、こうやって皆で笑い合えるのっていいな…それに、お友達も出来たし…


なんだかこれからの生活が、増々楽しみになってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る