第8話 ルーカス様と話しをしました

その日の夜、いつもの様に夕食を食べ、ティータイムを皆で楽しんだ後、それぞれのテントへと戻った。私は一応女性という事で、1人用のテントを与えられている。


部屋に戻ったものの、中々寝付けない。そういえば、ここに来て一度も湯あみをしていなかった。毎日魔法で体を綺麗にしているが、それでもやっぱり、たまにはお風呂に入りたい。


う~ん、でも、ここにはお風呂なんて無いし。そんなときは!


そっとテントから抜け出すと、少し離れた川を目指す。そう、水浴びをしに来たのだ。修行中も何度か行った水浴び。これが結構気持ちいいのよね。


辺りを見渡す。よし、誰もいないわね。


急いで服を脱ぎ、ゆっくりと川に入った。それにしてもここの川、本当に澄んでいて綺麗だわ。それに、冷たくて気持ちいい…


さあ、そろそろ出ようかしら。そう思った時だった。


一瞬黒い影が見えたと思ったら、私に向かって、魔物が襲い掛かって来たのだ。どうしてここに魔物が?ここは既に皆が討伐して、魔物がいないはずなのに…


あっけにとられているうちに、魔物が火を放ったのだ。いけない、私も戦わないと。そう思った時だった。


魔物めがけて、ものすごい炎が飛んできて、一瞬にして魔物が焼き尽くされた。


この魔法は…


「アリー、大丈夫か?」


こちらにやって来たのは、ルーカス様だ。どうしてルーカス様が…て、私は今裸だったのだ。急いでルーカス様に背を向ける。


「隊長、ご迷惑をお掛けしたしました。助けて頂き、ありがとうございます。私は大丈夫ですので」


だから、どうかこっちに来ないでください。そんな思いで伝えた。


「すまない…水浴び中だったのか…俺は後ろを向いているから、急いで着替えてくれ」


チラリとルーカス様の方を見ると、確かに後ろを向いてくれていた。私は急いで岸から上がり、服を着た。


「隊長、もう大丈夫です。それから、改めて助けて頂き、ありがとうございました」


ルーカス様に深々と頭を下げた。


「別に礼を言われるほどの事じゃない。ただ…この辺りに1人で来るのは危険だ。いくら魔物討伐を終えている場所だからと言っても、魔物が全くいない訳ではないのだから…」


「そうですわね。すっかり油断しておりました。申し訳ございませんでした。あの、隊長、せっかくなので、少しお話をしませんか?」


そう伝え、その場に腰を下ろした。私につられ、ルーカス様もゆっくりと腰を下ろす。


「ここから見る星は、本当に綺麗ですわね。私、星って大好きですの。もしかすると、遠くにいる大切な人も、同じ星を見ているかもしれないじゃないですか。どんなに離れていても、こうやって同じものを見られると思うと、なんだか素敵だなって思って」


この5年、何度も何度も星を眺めては、ルーカス様の事を思いえがいていた。私の大切な婚約者。実際会った事もなかった婚約者。それでも、私にとって大切な人。その人が今、私の隣にいるなんて、本当に夢の様ね…


「あの…アリーはどうして討伐部隊に参加したんだい?誰かに参加する様に言われたのかい?」


真っすぐ私を見つめて、そう聞いてくるルーカス様。


「いいえ、私は自分の意志で討伐に参加する事を決めました」


「自分の意思で…か。君は随分と努力したんだね。君の魔法を見ているとわかる。簡単に行っている様に見えて、非常に難しい魔法だ。相当練習しないと、習得出来ないだろう」


さすがルーカス様。よく見てくれている。


「隊長に褒めて頂けると、嬉しいですわ。でも、私の努力など、隊長に比べれば大したことはありませんわ」


「俺は別に…」


「あら、いつも周りの人の事を第一に考えて、行動をしていらっしゃるではありませんか。とても素晴らしい事です。でも…どうかもっと自分を大切にしてください。あなた様にもしもの事があったら、たくさんの人が悲しみますわ」


「俺にもしもの事があっても、悲しまれない…むしろ、喜ばれるくらいだ…」


喜ばれる?あぁ、現王妃様の事ね。


「あら?そんな事はありませんわ。少なくとも私は悲しいです。それに、あなた様の事を大切に思っている人は、たくさんいるのではありませんか?隊長は少し、自己評価が低い様ですわね。あなた様が思っている以上に、皆隊長の事を大切に思っておりますわ」


「俺の事を…」


「そうですわ。だから、どうか自分を大切にしてください」


あなたが傷つくと、私の心も傷つきます。あなたが悲しそうな顔をすると、私も胸が張り裂けそうになるくらい悲しくなります。だからどうか、いつも笑顔でいてください。なんてさすがに言えないけどね。


「自分を大切に…か…あっ、流れ星」


「えっ、どこですか?」


「ほら、あそこ。また流れた」


ふと空を見上げると、流れ星が流れていた。初めて見る流れ星、本当に綺麗だ。


「隊長、知っていますか?流れ星に願い事をすると、叶うらしいですよ」


「そうなのか?それじゃあ、せっかくだから願っておくか」


「はい、それでは私も」


“このままずっと、ルーカス様と一緒にいられますように…“


そっと心の中でお願いした。何度も何度も…


「アリー、随分と長い時間、お願いをしていたね。それで一体君は、何をお願いしていたんだい?」


「それは秘密です」


「そうか…秘密か…。さあ、そろそろテントに戻ろう。送っていくよ」


「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」


2人並んでテントを目指す。今日は初めて沢山ルーカス様とお話しできた。とても幸せな時間だったわ。これからもこんな風に、楽しい時間を過ごせるといいな…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る