第24話another-2

 翔がクラウスのスキル対策として『絶・隠行術』を発動し、翔がどこにいるかつかめなくなったクラウスは困惑する。

 そのクラウスに右側面から炎の弾が飛来してきた。


「どこから攻撃が来るかわからないなんて厄介だな……」


 そう言いつつ炎の弾の方向に向き直り持っている模擬剣で弾こうとした瞬間、後ろから衝撃が襲う。


「星団十字斬!」


「……ぐはっ! おとりか……」


 星のごとき派手な煌めきをまとった十字の剣戟が背後からクラウスを襲っていた。

 とっさに背中に防御の意識を向けたクラウスは大きなダメージを負うものの、すぐに追撃を避けるためにその場を離れる。


「克己術!」


 すぐさま勇者独自の回復魔法を発動し、茜色の波動に包まれたクラウスは護符の色が青に戻る。


 翔は次の手を打つべく、クラウスの周囲に地雷タイプの魔法を丁寧にばら撒いていた。

 追撃が一向に来ないことを警戒したクラウスが魔力の感知を試み、あたり一面に踏み場もなく設置された魔法を感じ取る。


「移動先がない……。これは、詰んだ……かな?」


 思わずひとりごちるクラウスに対しどこからともなく翔が話しかける。


「そうだよ。一つでも踏めば誘爆するからね。手詰まりだろう? 降参しなよ」



 翔から降伏勧告を受けるクラウスであるが、その目から闘志は消えていない。


「そうだよね。でもそれは君とレベルを交換する前だったらの話だ。今から僕の攻撃を受けて無事でいられるかな? いくよ、『人類の贖罪は儚き夢、天に代わって粛清を果たす! 勇者奥義、人類滅尽混光ジェノサイドフラッシュ!』」


 そしてクラウスの全身から神々しい光が発せられ会場中を覆い満たす。

 クラウスが使ったのは光による逃げ場のない全範囲攻撃。

 翔とレベルを交換し90000を超えたことで使えるようになっていた勇者必殺の奥義。



(何で【勇者】のスキルの中に人類を滅ぼす的な物騒なのがあるんだよ……)


 と思いながら翔はなすすべなく攻撃を受けるしかなかった。



◇◇◇



 光がおさまったあとは、『絶・隠行術』がとけ片膝をついてボロボロの翔と両足で立っているクラウスがいた。

 翔が設置した魔法も全て消滅している。


「さすが、生き残っているとは。ミスターミドウが最強というだけはあるね」


 クラウスは若干驚きの目で見ていた。


「お誉めいただきどうも。全力で防御に徹したからね。御堂さんを知っているの?」


 【リバース】で体力を回復させ余裕ができた翔が問う。


「この試合が終わったら全部話します。それまでは全力を尽くしてください」


「そっか。……その奥義かなり魔力使うよね? もう魔力切れで使えないんじゃない?」


「確かにそうだけど、君と残存魔力を【交換】すればまた使える。そして君は【リバース】で自分の魔力を回復するでしょう」


「ちぇっ……」


 我ながらはしたないな、と思いながらもつい舌打ちをしてしまう翔。

 クラウスの言う通りで、クラウスは翔の満タンの魔力を交換し、魔力をほぼ空にされた翔は即座に魔力量を反転して回復した。


 さらにそこから翔は『絶・隠行術』を発動しようとするが、できなかった。


「あの透明になるやつを使うつもり? 残念だけどそのスキルは【交換】でいただいたよ。っていうかめんどくさいからユニークスキル以外は【交換】でもらっちゃった」


 マジかよ。そんなのありかよ。と思いつつ翔は自分が使えるスキルを確認する。

 確かにスキルの保有数が激減していた。


 急いで翔はジョブチェンジして1になったレベルを【リバース】して99999にしてスキルを修得しなおしていく。

 クラウスがアクションを起こす前に、と焦りながら次々とジョブチェンジを繰り返していく翔。

 傍目に見える作業ではないが、クラウスは動かなかった。


 全てのジョブチェンジを終わらせた翔は、クラウスに問いかける。


「もしかして待っていたのか? 舐めた真似を……」


「まあね。僕の【交換】スキルは性質上必ず相手より強くなれる。例外的に上限まで強い君が相手だと、僕と君は同じ強さになるけど、僕はジョブが【勇者】で君は【勇者】を持っていない。この差は大きいと思うから待っていてあげたんだ」


「くっ…… だけど少なくとも隠れている間は【交換】スキルは使えないだろう? 『絶・隠行術』!」


 翔は苦し紛れにスキルを発動するが……


「さっきも言ったけど君が使えるなら僕もそのスキルを使えるんだよ。『絶・隠行術』。……へーえ、『絶・隠行術』同士だとお互いが見えるのか。でもこれだと観客から何も見えずにつまらないからお互いやめようよ」


 クラウスがそう言うと二人とも『絶・隠行術』を解除する。


 クラウスがとどめの宣言をする。


「さあ、もういいかな。予告しよう、僕はこれから人類滅尽混光ジェノサイドフラッシュを使う。君が生き残ったら君と残存魔力を【交換】してまた使う。都合のいいことに君の【無職】のマスター特典の中に魔力の高速回復があるしね。そしてさらに、人類滅尽混光ジェノサイドフラッシュは全範囲攻撃というだけじゃなくて複数回攻撃でもあるんだよ。その中の何回かがクリティカルヒットすればいずれは君を倒せるだろう」


「………………ふっ、はっはっはっ」


 突然静かに笑いだす翔。


「どうしたの? やり過ぎたかな?」


「いや、やはり僕のスキルは最強だと確信できたからだよ」


「なに? この状況から逆転できるとでも?」


「そうだよ。君の敗因は僕に考える時間を与えたことだっ! スキル【リバース】発動! クラウスのする!」


「無駄だよ。僕の【交換】スキルは同種のものを交換できるんだ。君の【リバース】の消費魔力と僕の【交換】の消費魔力を交換すればいいんだから……」


「何を勘違いしているんだ? 僕のターンはまだ終わっていない! 続けて【リバース】発動! クラウスのする!」


「しまった、そういうことか!!」


「もう遅い!! 全ての理を斬り裂く、『アルテマブレイド』!」


 

 翔が連続で発動した【リバース】により、クラウスの【交換】スキルの消費魔力が100%になり、続けて100%あった残存魔力を反転させられてクラウスは魔力がなくなっていた。

 つまり、【交換】スキルを事実上封殺されたのだ。


 そこへ【ゴッドハンド】の奥義、青白い究極の闘気をまとった翔の必殺剣がクラウスに襲いかかる。


「がはっ…… 僕の負けかぁ……」


 防御にまわす魔力すらなかったクラウスの護符は真っ赤に光り、場外へ転送された。


『勝者、二子玉高校一年逆崎翔!』



◇◇◇



 シングル戦の決勝が終わった後、クラウスはペンダントを運営委員会に渡して不正の事実を報告した(ついでに【勇者】のジョブも勇人に返した)。


 その後の詳しい調査の結果、ペンダントの作成者である渋谷高校の校長が10年前の就任時から魔法陣とペンダントの組み合わせにより渋谷高校の出場生徒に強力なバフを施していたことが発覚。


 事態を重く見た運営委員会は今年度のチーム戦を中止とし、既に行われたシングル戦については1位と2位以外は全て順位繰り上げとした。

 さらに渋谷高校の校長は懲戒免職となり、渋谷高校は今後10年間の出場停止処分とされた。

 また過去10年の渋谷高校の優勝記録は全て参考記録とし、渋谷高校以外の順位を一つ繰り上げたものを公式記録と訂正することを発表。



◇◇◇


 

 シングル戦の決勝戦終了後の御堂君雄の書斎に、翔、玲、三日月、クラウス、君雄が集まっていた。


「クラウス、事情を説明してくれるんだよね?」


 翔が開口一番気になっていたことを聞く。


「そうだね。僕はアメリカの探索者協会に所属していたんだけど才能に恵まれていなかった。そこをミスターミドウにスカウトされたんだよ」


 クラウスの答えに対して、翔と玲は内心で『才能に恵まれていないなんて何の冗談?』と思った。


「正確に言うとだな、同行していた三日月くんが【マスターエージェント】で彼に感じられるものがある、と言うので連れてきたのだよ。そのときのクラウスくんにはユニークスキルがなかった」


「そして日本に連れてきてしばらくしたら、ユニークスキル【交換】が開花したのよ。環境が変わったからかしらね?」


 君雄と花音が補足を入れる。


「クラウスが千葉高校にいたのはなんで?」


 翔の問いに今度は君雄が答える。


「私のところに『渋谷高校の連覇が不自然ではないか』と某企業から調査依頼があってね。その企業は去年の優勝者を卒業後に雇ったのだが、その者が優勝したとは思えないほど実力が不足していて使い物になっていないそうだ。そこで、千葉高校に急遽クラウスくんを押し込んで大会に出させて調査をさせたのだ」


「僕が調査してもよかったのに……」


「すまんな、私も稀有なスキル同士どちらが強いのか見てみたかったのだよ。だからスカウト以来三日月くんの補佐をしてもらっているクラウスくんの存在を隠していた。試合を見ていたよ、なかなか心躍るものだった。最強技の応酬は見ていて楽しかった。アクセス数は過去最高で、今も大会スレが伸び続けているんだよ」


「……はあ、それはどうも」


 翔は気のない返事をする。


「翔、すねないの。あとで慰めてあげる」


「ありがとう、玲」



◆◆◆◆◆◆


 次回から本編に戻ります。

 東京第一魔石発電所が何者かに襲われ崩壊したところからの続きとなります。

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