第38話 お互いに罵り合う悪の組織たち。また巻き込まれるんですかね……
『超人』ロバートは善人になって帰っていきましたとさ。
襲撃前の威圧的オーラがなくなり、顔も穏やかになり、悟りを得た熊さんみたいなかんじだ。
相変わらずガタイはいいが、それを感じさせない柔和な雰囲気になった。
多分これでフランへのちょっかいもなくなるだろうね。
でも、これって人格改造だよね……、とか思わなくもないけど。
帰ってきてから御堂さんにも報告しておく。
「……というわけでして。まあ何とか丸くおさめました」
「よくやってくれた、翔くん。正直なところアメリカ1位に何かあったらマリアとの関係が悪化していたかもしれんからな。彼女とのコネクションがなくなるとかなり痛い。性格の反転でよかったよ。ユニークスキルの【リバース】をしていたら全能力が半減、もしくは三分の一だろう? 弱体化して返してしまうと対露支那という点ですこし都合が悪くなっていただろうしな」
「おお、危なかったですね。場合によってはタダで帰さないとも思っていましたし……」
「そうだな。やり方はいろいろだ。ところでな、次にまた頼みたいことがあるのだが、最近SNSやOurtubeなどで極めて他力本願な願いが出回っているのは知っているか?」
「他力本願な願いですか? そんなのネットの日常茶飯事じゃないですか」
何を今さら、と首をかしげる僕に御堂さんは続ける。
「日本でいろいろと暴露大会が開かれただろう? しかも情報を垂れ流した後になぜかみな死んでいるという。必ず誰かが仕組んでいる。しかしそれが誰かを特定するのは無理だ。ならば不特定多数が見るであろう媒体に手当たり次第流してしまえ、というわけだ」
「つまり、自国の不祥事を暴露するよう誰とも知れない者へ依頼していると?」
「そうだ」
「でもそれって情けなくないですか?」
「そういってやるな。おそらく流した側もそこまで期待はしていないはずだ。それに露支那側がこちらを特定するために流しているフェイクもあるだろう。特定地域だけに配信しておいて反応があれば絞っていく、のようにな」
「なるほど。どうするんですか?」
「三日月くんに選定してもらっているよ。外国語もできるからな。日本以外の地域でしか流れていないSNSに便乗すればこちらの正体を誤認させられる。これでさらに露支那帝国は時間と人手を取られるわけだ。こちらとしても露支那の力を削いでおきたい。だから利用させてもらう」
「誤爆の心配ありませんかね? 三日月さんの実力を疑っているわけではありませんが」
「その心配もわからなくもないが、後ろめたいことのない人間なら本音を現したところでさして問題ないだろう」
◇◇◇
三日月さんが選定した者たちの本音と建前を【リバース】したが、日本ほどの成果は得られなかった。
小国であれば無視してもよいものであったし、アメリカやEUなどではそもそもそこまで入り込まれていなかったからだ。
とはいえ、暴露した人間が義憤にかられた人間によって殺害されることは起きていた。
そして、露支那側ではそこまでリソースを割く余裕がなかったのもある。それは……
◇◇◇
side 露支那帝国
「まだ見つからんのか? 神聖なる我が帝国に楯突いた愚か者どもの本拠地は!?」
「陛下、現在全力にて調査中でございます。しかしながら各国のダンジョンに送り込んだ者の大半が戻ることがなく、スパイの数も先の日本の騒ぎにより数を減らしてしまい、今少し時間と予算をいただければと……」
「余に対する弁解は罪悪と知りたまえ。これ以上の猶予はないぞ」
「はっ、必ずやユニオンアース教なる不逞の輩を見つけ出してみせます」
「平等を重視し貧しき者を取り込む奴らは捨て置けぬ。我が帝国の3級民どもも賛同する者がおるというではないか。全くどこから湧いてきたのやら。見せしめにせねばならぬな。……ん、入れ」
皇帝と宰相がいる執務室に新たな情報を持ってきた宰相の部下が入室する。
「御前、失礼いたします。ユニオンアース教の本部が判明いたしました」
「それはどこだ?」
宰相が部下に向かって問う。
「サウジアラビアでございます」
「なぜ中東なぞに本部が……」
「はっ、ユニオンアース教の裏にいる者は、かつて石油で世界を席巻していた同国の王族の末裔でございます。魔石エネルギーによりほぼ不要となった電気、石油が使われていた時代への回帰を図るため、ユニオンアース教を立ち上げていた模様です」
「不平等の是正は建前で、探索者を嫌うのは魔石を採取するから。ダンジョンへのゲートの封鎖の要求もそのためか。なんと、旧時代の亡霊であったか」
「ただ、その亡霊たちは魔石エネルギーの恩恵は正しく理解しております。最終的に自分たちのみ魔石エネルギーを利用しつつ、それ以外の者には余りある在庫の石油、石油製品を売りつけ富を得るのが目的のようです」
「ほう。それが真の目的か」
「はい。それと厄介なスキル持ちが判明しています。それはユニークスキル【コピーアンドペースト】で、他者のスキルをコピーしさらに別の者のユニークスキルに付与し上書きできます。スキルのコピーはオリジナルのみに限られますが、付与に限度はありません。このスキルで先の襲撃に使われた【トランスペアレント】と【広範囲化】を付与していたようです。これらのうち、【トランスペアレント】のオリジナルの所持者は暗殺しましたが、その他は無理でした。なお、オリジナルが死ぬと付与されたスキルも消滅するようです」
宰相と部下のやり取りを聞いていた皇帝が口を開く。
「余を差し置いてそのような…… 亡霊には退場してもらわぬとな。国連を使って多国籍軍を編成し、サウジアラビアを滅ぼすのだ。アラブ諸国への見せしめとする」
「はい、陛下」
「ユニオンアース教の制圧のみを名目としておけ。サウジの滅亡は並行してわが軍独自で行い、サウジのダンジョンを支配するのだ」
「よいので? さすがに滅亡させるとなれば反発もあろうかと」
「多国籍軍に参加した時点でその国も同罪だ。サウジの滅亡は各国も了承済みであったと後で発表すればよい。それと同時に参加した他国の軍のジョブやスキルも調査するのだ。もちろんこちらの手の内は明かさずにな」
◇◇◇
side ユニオンアース教
緑のローブとマスクをした者が上位者と思われる者の前に跪いていた。
「あまり成果が芳しくないな」
「教主さま、申し訳ありませぬ」
「そのうえ、露支那帝国の者の侵入を許すとは。貴重なスキル持ちも一人失ってしまったではないか」
「はっ、まだ【コピーアンドペースト】と【広範囲化】が残っております。また、貴重なスキル持ちを現在も探しておりますゆえ……」
「もう時間に余裕はないであろうな。露支那帝国が軍勢そろえて攻めてくるはず。返り討ちにするしかあるまい。前線には帝国から寝返った3級民を配備せよ。我らの同胞を絶やすわけにはいかぬ」
「ええ、我らが理想のため!」
「にしても日本は予想外であったな。大して資源も人口もないのに我らの二度の襲撃も大して影響なしとは。本来であれば日本を弱体化させそこへ露支那が攻め込むところの背後に我らが攻め込むつもりであったが、目算違いだ」
「仮に成功していたとして、露支那が日本に攻め込みますでしょうか?」
「するとも。露支那、特に支那はな、日本を征服したいのだ。中国数千年の歴史と未だに
「やはり世界の主導権は露支那でもなくアメリカでもなく我らが取るべきですな」
「そうだ。準備を怠るな」
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