第37話 フランを取り返しにヤべーやつが来ましたが、返り討ちついでに矯正しときます。

 わりと要人たちが暗殺されたにも関わらずそれほど社会の混乱を感じなかった。

 せいぜいがまとめスレのサーバが落ちたとかそんなものだった。


 御堂さんに聞いてみると、


「お飾りが死んだだけだからな。実務にはさして影響ない」


 という言葉が返ってきた。


 ちなみに暗殺があることは三日月さんからの情報で知っていたが、僕たちは特に何もしなかった。

 露支那帝国はこれ以上余計なことを喋らないように口封じしたい。

 こちらとしては必要な情報は既に揃っているから生かしておく必要がない。

 ていうか、自分で蒔いた種なんだから自分で刈り取るのが当然だよね。



◇◇◇



side アメリカ探索者協会本部



 日本がお祭り騒ぎになっているころ。


「喜べ、ロバートよ。ようやく政府の許可が下りたぞ。フランを取り戻しに行け。サカザキとミドウも連れてこい」


 アメリカ探索者協会本部長はアメリカ探索者1位の『超人』ロバート=ハリソンに告げる。


「やっとかよ。待ちくたびれたぜ。ようやくあいつを犯れる。探索者だったときは『探索者同士での争いは厳禁』とかいうルールのせいで手を出せなかったからな。ぶっ壊れるまで犯ってやるぜ! ついでに俺より上だというガキ二人もな」


「おいおい、壊すなよ。貴重な特攻要員なんだぞ」


「ああ? あいつはユニークスキルがあるから死なねえだろうが」


「精神的に壊れると使い物にならないんだぞ。何度も言ってるがお前はやりすぎることが多いからな。1位と2位も五体満足で連れて来いよ。いつもお前のしりぬぐいをしてやっているんだ、たまには私の役にも立て」


「へえへえ、やりますよ、次期大統領さんよ」


「分かっているではないか。あとはそのやりすぎる癖を何とかしてくれればよいのに……」



◇◇◇



 冬休みが終わって学校がまた始まって数日。


 気の利いたクラスメイトは休み時間に旅行先のお菓子を先生に隠れてこっそりみんなに配ったりして和んでいたとき。


「フラン!! 出て来いやあ!! ついでにサカザキとミドウもなっ!」


 クソデカ音量で校舎に響き渡る声。


 えー、またですか。

 テロリスト?


 とりあえず3人で教室の窓から声のした校門の方を見ると、


「あー、ロバートかあ……」


 フランがためいきをつく。

 そこには金髪刈り上げで筋肉ムキムキ、タンクトップにジーンズのラフないでたちの巨体がいた。

 ソニックブームとか打ってきそうな感じの。

 目はギラギラして目力が凄いよ。



「前に言ってたアメリカ1位の『超人』ロバートのこと?」

 

「そうです」


 また声がしてきた。


「とっととでてこい! さもなきゃ校舎ごと吹っ飛ばすぞ!!」


 だいたい声デカいやつってめんどうだよね。


「翔さま、あいつなら本当にやります。後先考えないので。異空間に隔離していただけませんか? 私が決着をつけたいと思います」


 そうなのか。

 なんか先生たちが校舎から出てきたし、殺されたりしたらまずいからそうするか。


「アナザーディメンション!」


 突如現れた紫の異空間へロバートを飲み込んでご招待。

 突然いなくなった外国人をみて先生たちが戸惑っている。

 僕たちも3人そろって異空間へ入る。



◇◇◇



「なんだあ…… この空間は? フラン、お前か? いやそこのサカザキか」


 異空間の設定は草原にしといた。

 特に意味はない。


「あんた誰?」


 一応聞いておく。


「俺はロバートだっ! フランとお前ら2人をアメリカに連れていくよう命令されたのさ。わかったらとっととついてこい。ここから出せ。さもないと『超人』の力でボコるぞ。フランは犯す」


 ここでフランが対応する。


「私はとっくにアメリカの探索者をやめたわ。ついでに国籍もアメリカじゃない。あなたに従う理由はない」


「そう、それだ! アメリカの探索者じゃないから争ってもいいんだよな。これで手を出せるぜ! ずっと犯りたかったんだぞ。はやく処女をよこせ!」


「あなたなんかお断りよ。大人しくアメリカに帰って」


「いうことを聞くと思うのか? 死んでも復活するとはいえ痛いんだろ? なるべく痛い目を見たくなければいうことを聞いて股を開け!」


「やっぱり戦うしかないのね」


 僕と玲は少し離れて見物だ。 

 特に心配はしていないけど、一応ロバートを鑑定してみる。


ーーーーーーーーーーーーーー

ロバート=ハリソン レベル3567

ジョブ【超人】

ユニークスキル【超人】

ーーーーーーーーーーーーーー


 【超人】は図抜けた筋力、耐久力、回復力を持つ。

 気分が高揚しているときはさらに能力が上昇する。


 ジョブもスキルも同名のもの。

 ごくまれにいるこういうのはダブルブレスドと言われる。

 同じ効果が重なるので驚異的なことが多い。

 【超人】は、日に数時間だけ通常にレベル×2倍の能力を発揮し、高揚時には3倍。

 ダブルだから通常時4倍、高揚時6倍。

 うーん、インフレ気味だ。


 いまはフランのことで興奮してるっぽいから、レベル21402相当の強さだ。

 だけどねえ……




「心臓に穴開けてやるぜ! ブライトナックル!」


 拳が光輝くストレートパンチを叩き込むロバート。

 いくらフランが生き返るからって容赦なさすぎじゃね?

 だが、フランは片手で受け止める。

 そしてフランがうっすら纏う炎のバリアでロバートの手が焼け焦げた。


「ちぃっ、熱い! やってくれたな! だがなぜ平気でいられる!」


 素早く後ろに下がって距離を取るロバート。焼け焦げた拳は早くも治りつつあった。


「非力なお前が! 俺の拳を止めるなど! ありえないんだあああ! 猛虎破局勢!」


 そういって今度は肩を怒らせ殺人タックルをぶちかましていた。

 が、それも片手で受け止められ、再度炎のバリアの反撃を受けてロバートは炎上した。


「くっ、炎の対策はしてきたが、俺様の攻撃が効かないのはなぜだっ!」


「さてね。答える義理はないわ。フレアスター!」


 炎の塊がロバートを襲い、火柱を起こし包んでいく。


 火柱が止んだ後はプスプスと燃え残る巨体が残っていた。

 

 いくらフランが魔法使いタイプでもレベルがかけ離れていたら腕力でも勝てないよね。

 遠距離から火魔法連発してるだけでも勝てたはずだけどさ。


「全く…… いつもいつも色目で見てきて…… 実力はあるのに、気持ち悪かったのよ」


 と見下すフラン。

 どうやらけっこうな鬱憤が溜まっていたようだ。

 さすが、というか、ロバートは気を失っているが少しずつ回復していた。


「どうして威力を抑えたの?」


 と玲が聞く。

 僕も聞きたかった。


「性格悪いけど、戦いのときは頼りになるのよ。助けられたこともなくはないですし。これでもいなくなったらアメリカが、というかマリアさんが困るわ。そこで翔さまのスキルで矯正をお願いできないかと思いましたので殺していません」


 ああ、なるほど。



「【リバース】発動! する!」


 これでおっけーかな。

 んで、回復魔法でロバートを起こす。


「んん……、これは、私は確か炎を浴びて…… 死んだかと思ったが」


 起き上がったロバートは険のとれた穏やかな顔つきをしていた。


「ロバート、気分はどう?」


「ああ、フランさん、今までの非礼をお許しください。これからは自分の力に溺れず他者を見下すことなく生きていこうと思います」


 うわあ……。

 自分で言うのも何だけど、性格変わりすぎ。

 ある意味殺すよりもひどいのかも。


「じゃあもう私を取り戻しに来たりしませんわね?」


「もちろんです。本部長にも諦めるよう私が説得いたします。それと今まで迷惑をかけた方々にもお詫びをしなければいけません」

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