第36話 国会で暴露大会をしてもらいました。知ってたとか言わないこと。
「マリアさん、気になることがあります。日本で透明化して潜伏していたのは【トランスペアレント】と【広範囲化】のユニークスキルの組み合わせでした。そしてここでも同じ。もしかしたらこれらのスキルを量産化する方法があるのかもしれません」
「それは…… 悪夢ね。ん? あいつが来るわ。何のもてなしもできなくて悪いけど、ここから去った方がいいわね」
「まさか、『超人』ロバート?」
フランの顔が曇る。
「フラン、なにそのアメコミのキャラに出てきそうな人は?」
代わりに答えたのはマリアさん。
こちらも顔をしかめていた。
「アメリカの探索者1位よ。ダンジョンの攻略に行ってたのを呼び戻していたの。『超人』だなんて言われてるけど、性格がもうひどくて。探索者じゃなくなったフランを見たら実力行使に出るわ。さあ、帰って。後始末は私がするから」
なんかトラブルの予感がするんだけど、言われるままテレポートでフランとともに日本に帰ってきた。
◇◇◇
各国の探索者協会を標的にしたユニオンアース教のテロは、日本やアメリカでは大した成果がなかったものの、他の国では要人か何人も殺されていた。
特に露支那帝国では逆上した皇帝が掃討命令を出したことでユニオンアース教の命運は既に尽きたもの扱いだった。
ま、そんなことはおいといて、年明けて1月。
「翔くん、現在国会が開かれているがね、そこで某野党の党首が質疑応答を行うのだ。そのときに、その党首に【リバース】をかけて本音と建前を反転してほしいのだ」
「はあ、分かりました。でも大丈夫なんですか?」
「露支那帝国の目がユニオンアース教に向けられている今が一番いいだろう。国内の混乱はあるかもしれんが、親しい政治家にはあらかじめ告げている。迅速な対応がとられるだろう」
「そうなんですか。ならやりましょうか」
◇◇◇
そして、国会が開会し与野党の駆け引きが繰り広げられる。
普段そんなものは見ないのでわりと新鮮なのだが、こんな世界もあるんだなあ、と思いながらお目当ての野党党首がタブレットの画面に映るのを待つ。
『それでは、法案第53号、出入国管理法の改正案について説明を求めます、法務大臣小島藤次君』
法務大臣が出入国管理法の改正法案について説明している。
内容はたぶん入国管理をもっと厳しくするものだ。
具体的には入国者の指紋を全て採取し保存すること。
『討論の通告がありました。これを許します。黒星忠夫君』
お、きたこいつだ。
最大野党の党首。
タブレット越しに【リバース】を使って本音と建前を反転する。
『与党から提案のありました出入国管理法の改正案について、我が党は断固として反対するものであります。理由は、この改正案により日本の国防力が上昇し、ひいては日本を弱体化させたままでさせておくとする我が祖国の方針と相反するためでございます』
『小島藤次君』
『黒星君の先ほどの討論についてですが、我が祖国とはいかなる国を指すのか』
『黒星忠夫君』
『小島君にお答えいたします。我が祖国とはもちろん偉大にして世界一である秦王林皇帝陛下を戴く露支那帝国を指すのは明々白々でございます』
『小島藤次君』
『露支那帝国が我が祖国ということは黒星君は日本国籍を持たず議員たる資格がないものではないか、問う』
『黒星忠夫君』
『いかにも。私は露支那帝国の命に従い、元の黒星家を惨殺し戸籍を乗っ取った者であります。したがいまして私は日本人ではなく、本来なら議員ではありえません。他にもこのような者はおりますゆえ、特に問題ないかと考えるところであります』
『小島藤次君』
『さきほど黒星君はそのような者がいるとおっしゃられたが、他の者を列挙されたい』
『黒星忠夫君』
『小島君の質問にお答えいたします。全ての政党に必ずおりますところ、小島君の属する与党の四分の一、連立を組んでおられる党の二分の一、我が党の四分の三であります。また、露日友好議員連盟の議員はほとんどがそのような者で構成されており、帰日の際に大量の不法探索者を同行させており、日本国の国益侵害に役に立っておるところです。かような結果は我が祖国の諜報力の高さを誇示し、皇帝陛下の偉大さを世に知らしめるものと自負しております』
『小島藤次君』
『黒星君にお伺いします。日本に侵入する他の手段をお聞きしたい』
『黒星忠夫君』
『小島君の質問にお答えいたします。国会議員や中央官僚の他、政令都市以上の首長、地方議会議員も対象であります。旧中国人の嫁をあてがう、親族の経営する会社を乗っ取る、夕日新聞や雷通などのメディアや公共放送機関にフェイクニュースを流させる、朝鮮自治区への整形ツアーの帰りに麻薬を持たせる、『人権、差別、弱者、被害者』のパワーワードによりこちらに都合の悪い意見を封殺する、等がございます。麻薬の流入については出入国管理局が水際で食い止めておるのが厄介でございますが、その権限を強化する此度の改正案に反対する理由の一つでもあります』
『小島藤次君』
『黒星君にお伺いします。他国に対してもそのような工作をされているのか』
『黒星忠夫君』
『小島君の質問にお答えいたします。日本の同盟国であるアメリカ合衆国においても同様の工作を行っております。特に日本と異なり選挙の工作がたやすいのでありますが、経済界の我が祖国に対する警戒心が強く、日本ほどは浸食がすすんでおりません』
『小島藤次君』
『黒星君にお伺いします。先ほどの内容を貴党のホームページ、SNS、黒星君個人のSNS等に証拠付きでアップロードすることは可能か』
『黒星忠夫君』
『我が祖国の技術力をすれば可能であります。本日中にも公開することをお約束するものです』
◇◇◇
「ここまでうまくいくとはな。ただ黒星の命が危ない。翔くん、少しのあいだ黒星を守ってくれないか?」
最初は半ば面白がっていた御堂さんだが、うまくいきすぎたせいか顔が引きつり始めていた。
「なぜです? 露支那帝国のスパイなのでしょう?」
「暴露の証拠を表に流してもらうまでの間だけだ。その後はしらん。そしてそのリストを元にまたやってほしいことがある」
「わかりました。影にあの人を守らせましょう。それと毒殺対策で状態異常を防ぐ魔法とかもかけときましょうか」
「頼むぞ。しばらく忙しくなるな」
この日の国会は怒号が飛び交い、そこからしばらく中止となった。
そして、黒星議員の宣言通り、その日のうちに党のHP、SNS、個人SNSに工作員の一覧、手口などがアップロードされた。
これらはすぐにアクセスが殺到し、クラウドサーバが落ちる事態に。
その日はいつもなら身内しか見てないようなアクセス数が過去最高となっていた。
復旧後はすぐに何者かによって閉鎖、削除されたが、
数日後、さらに黒星議員と同様の発言をする者が多数現れた。
もちろん、僕が流出した一覧に載っていた人間の本音と建前を【リバース】したからだ。
国会議員は言うに及ばず、政界を引退した者、現役の知事や市長、お菓子会社の社長や、居酒屋チェーン店の経営者、NPO法人の代表、メディアの代表取締役、ノーベル賞作家、弁護士会会長、自称活動家など多岐にわたった。
そして、ネットは連日エサがばらまかれるので大騒ぎ。
要約したら『知ってたw』の一言におさまるんだけど。
さらに火を注ぐように、先ほどの人物たちは、事故死、病死、火事、溺死、自殺、失踪などが頻発したためニュースに事欠かなかった。
特にSNS会社の社員がいなくなったと報じられたあと政治タグがトレンドに一切現れなくなったときは若草生えまくっていたwwwwww
露支那帝国に潜り込んでいる三日月さんによると、帝国の対外部隊は数が減っていたにも関わらずこの件のせいで目が回るほど忙しいのだという。
日本以外に飛び火しないように。
表向き帝国はこれらの件について沈黙を守っていた……。
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