第34話 【リバース】を使ってあんなことやこんなことやりたい放題!

 あるダンジョン。

 国籍不明の探索者たちは200階を超えたあたりで違和感を覚え始める。


「何なんだ、モンスターからのクリティカルヒットがやたら多いな……」


 探索者たちにとっては適正レベルをやや下回った階層で安全を確保したうえでの魔石集めだったはずなのだが。

 いつもよりダメージの蓄積が大きく、手持ちのポーションも残り少なくなってきた。


「ま、こんなときもあるか。この階層を抜けたら今日は終わりにするか」


 しかし、彼らがその階層をクリアすることはできなかった。


 フロア奥のクリスタルが見えない。

 あるはずのクリスタルの前にはモンスターがひしめいていた。

 そしてさらに目の前で数を増やしつつあった。


「嘘だろ、スタンピード! くそっ、ちゃんと間引いておけよ!」


 一人が悪態をつく。

 スタンピードの原因ははっきりとはしていないが、モンスターの討伐があまりされていないと発生すると一般に言われている。


「誰か、帰還石を持ってないか?」


「本国からの補充がまだだ!」


「ちっ、運が悪いぜ! とにかくバラバラに逃げるぞ。生き残ることが優先だ!」



 ゴトッ。

 リーダーのすぐ横から何かが落ちた音がする。

 見ると先ほど悪態をついていた男の首が転がっていた。

 そしてウサギ型のモンスターが返り血を浴びている。


「ヴォーパルバニーか! なんでこんな階層に! ただでさえスタンピードに巻き込まれてるのに上の階層のやつまで。ダンジョン事故ってレベルじゃねーぞ!」


 ヴォーパルバニーは別名『首狩りウサギ』。

 セントバーナードくらいの大きさで異常に発達した後ろ足で獲物に素早く近づき、鎌と化している前足で首狩りにくる。

 そしてその攻撃はまれに即死効果が発生する。

 高レベル探索者であっても油断はできないモンスターだ。


 彼らはスタンピードに巻き込まれて全滅した。


 しかし、世界各国に紛れているとある国の不法探索者の悲劇はまだ終わっていなかった。



◇◇◇



 またあるダンジョン。

 地元パーティが金の宝箱を発見する。


「やったぜ、金の宝箱! Aランク以上のアイテムゲットだぜ!」


 だが、後ろから別のパーティが割ってくる。


「待ちな、あれは俺たちが先に見つけたんだぜ」


 出立ちはどう見てもその国のものではない。

 地元パーティにはわからないが、露支那帝国の探索者であった。


「おいおい、冗談だろ、これだけ苦労して見つけたんだ。後ろから来ただけのアンタらには渡さねえよ」


 地元パーティのリーダーは当然渡すまいとするが。


「ふん、これだから弱小国の奴らは。命が惜しくば消えろ! 威圧!」



 後ろからきたパーティのリーダーはスキルの『威圧』を発動し、先に宝箱を見つけていたパーティの動きを止める。


「くっ、動けない。レベルが……違いすぎる」


「雑魚は大人しくしてな。たまには低階層も来てみるもんだな。金の宝箱が見つかるのだから。我が祖国が有効に使ってやるよ、ははは!」


 そう言って横取りパーティが宝箱に近づいていく。

 先に見つけたパーティは動きを止められ悔しそうにその様子を見るだけだったが……


 宝箱の前まで来た瞬間、足元でカチッ、という音がして彼らは紫の炎に包まれた。


「うわあああああぁ! なんだこのトラップは! こんな階層でありえねえ! 死ぬ、死ぬ、誰か助けてくれえ!」



 突然のトラップ発動に驚いていたのは地元パーティも同じだった。


「なんなんだよあの罠…… あいつらが勝手に踏んでくれたからよかったが」


「あれは極悪トラップ『闇の炎』だ……。焼き尽くすまで消えない地獄の炎。こんな階層ではほぼ出ないはずだが、こりゃダンジョン事故ってやつかな。あいつらも運が悪いな。自業自得だが」


 パーティの斥候役が説明する。


 しばらくして紫の炎がおさまったあと、何もかもが燃え尽き彼らの痕跡は残っていなかった。



 他にも、転移トラップの転移先が700階だったり、ゲートから入る時に指定したはずの階数とは違うフロアに飛ばされる、入ったボス部屋がワンランク上かつレアボスが出てくる、モンスターハウスに飛ばされる、レベルが半分になる罠、スキルが失われる罠などなど、ごく低確率でしか発生しないいわゆるダンジョン事故と総称されるものが不法な探索者を襲っていった。


 人知れず命を落とす者も多く、運がいい者は命は助かったが足手まといとなり、役立たずとして祖国から見放された。



◇◇◇



 12月の期末テストが終わり、もうすぐ冬休みが始まるからみんながそわそわするころ。


 クラス内、学年内のカップルもだいたい成立し、彼氏彼女いない組とそうでない組が分かれていた。

 一樹くんも部活の軽音で彼女ができたらしい。

 よかったね。



 ところで、ちょっと試したいことがあったのでスマホから年末ジャンボ宝くじを3枚連番で買いました。


 そして一週間後の番号の発表日、一等前後賞が当たっていました。

 前後賞合わせて18億円。

 貯金が増えるよ、やったね、玲ちゃん!


 なんで当たったかって言うと、【リバース】で年末ジャンボの一等前後賞が当たる確率を反転したから。

 いやあ、元の確率が低けりゃ低いほど僕のスキルは効果を発揮するよね。


 その日はテンション上がって、部屋に三人とも呼んではっちゃけました。

 玲は正常位、三日月さんは騎乗位、フランはバックが好きなんだよね。


 さらに、【リバース】で非処女を反転して処女にして楽しみました。

 いつでも処女になれるよ、やったね、玲ちゃん!


 とてもやる気だった僕がおかしかったせいか、3人に理由を聞かれました。


 別に隠していたわけじゃないから素直に話したら、玲から『翔はときどきお茶目』、三日月さんから『意外ね』、フランから『そんなことしなくても私が稼いできますのに……』というお言葉をいただいた。



◇◇◇



 特に何もない年末になるのかな、と思っていたとき。


「翔くん、君が捕まえたユニオンアース教のテロリストだが、先日暗殺されてしまった」


 御堂さんから言われて、『ああ、なんか忘れてたな。そんなこともあったっけ』と思ってしまう。


「誰がやったのかは?」


「わかっていない。警察にはな、尋問にJEAも協力すると言っていたが、メンツがあると言って断られていた。何もかも翔くんに頼ると自力が弱ると思って任せていたが、やはりダメだったようだ。外向けには獄中で病死したことにされる」


「ってことはユニオンアース教がまた動き始めたんですかね?」


「かもしれない。周りには十分気をつけてくれ」


 さすがにまた魔石発電所を襲うことはないだろう。

 当然だが、あのあと警備を強化しているはずだ。

 そろそろ一樹くんにつけている死人の影も外していいかな、って思ってたけどまだ無理か。


 にしても……


「わかりました。結局何も情報を引き出せなかったんですかね?」


「少ししかな。新たにわかったのは、ユニオンアース教が露支那帝国の身分制をひどく嫌っていて、構成員に露支那人もそれなりにいるということぐらいか」


 ユニオンアース教は、不平等の是正と電気時代への回帰を掲げている。


 そんな彼らが嫌う露支那帝国の身分制とは、露支那帝国では1級民、2級民、3級民と階級制が敷かれていることだ。


 1級民は、旧中国と旧ロシアの支配者階級。

 2級民は、優れたジョブやスキル、容姿を持つ者。

 3級民は、朝鮮自治区出身者または1級民、2級民に当てはまらない者。

 そして基本的に階級の移動はない。


 旧中国と旧ロシアの合併時に帝国を名乗り身分制をしいたことに前時代的だとの批判はあったらしい。

 しかし当時の国連の人権理事会はこれを華麗にスルー(今も)。

 今も昔も人権屋は仕事をしないんだ、と御堂さんは愚痴を言っていた。



 そんな露支那帝国も、対ユニオンアース教ではアメリカなどと協力して拠点を探しているらしい。

 身分制をひっくり返されたら困るからだろう。


 とまあ御堂さんから忠告を受けた翌日の昼、スマホのニュー速には、


『JEA(日本探索者協会)本部、テロリストにより襲撃、占拠された模様』


 とヘッドラインが流れていた。

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