第32話 フランの問題を解決しました。めでたしめでたし。

 フランさんがやりたくもないことをやらされてるのを感じた僕は、勝手だけどフランさんの問題を解決することにした。

 後からだったらなんとでも言えるんだけど、フランさんがやってきてからやたらと僕にくっつこうとしてきたのは下準備だったんだね。

 それも終わらないうちにいきなり短い期限が切られたから、慌てたフランさんが強硬策に出た感じかな。



 まずは、【万能錬金術師】にジョブチェンジ。

 神々のポーチの中にあるエリクサー100個を使って新しいアイテムを生成する。


 できたのは『生命の雫』(SSランク)。


 これは【万能錬金術師】でないと作れない。

 一応かなり深層の敵のレアドロップでも出るみたいだけど。

 効果は体力全快、欠損回復、状態異常完全回復、解呪、そして


 金色に輝く薬が入った小瓶をポーチから取り出してフランさんに見せる。


「この薬を飲ませれば妹さんは治るんじゃないかと思う。僕の鑑定でみたらSSランクの回復アイテムみたいだから」


「えっ……」


 突然現れた薬に訳が分からないといった顔をするフランさん。


「僕はテレポーテーションが使える。フランさんが妹さんのいる場所を思い浮かべてくれれば、妹さんのところへいっしょに跳べる。そしてこの薬を飲ませようと思うんだ」


「えっ……」


「妹さんを助けたいんでしょ? いいから僕の言う通りにして。僕に手を貸して。あ、その前に服を着なおして」


 フランさんは脱ぎかけの服をあらためて着た。

 そして僕に問いかける。


「どうしてそこまでしてくれるの?」


「泣いてる女の子を助けるのに理由がいるかい?」


「…………ありがとう。手を繋いで妹のいる病院を思い浮かべればいいのね」


「そうだよ」


 フランさんはためらいがちに僕に手を差し出してくる。

 その手を取った僕はテレパシーで場所を把握し、テレポートした。



◇◇◇



 アメリカの探索者専用病院の一室に彼女の妹は寝かされていた。


「レミィ、また瘦せたみたいね……」


 病院のベッドで静かに寝息を立てている妹さんは、顔も青白く痩せこけているが姉に似て美人だ。


「フランさん、早速だけどこの薬を飲ませてあげて」


「わかったわ」


 フランさんが薬をこぼさないようにゆっくりと口に含ませていく。


 しばらくして妹さんの顔色に赤みがさしてくる。

 こけていた頬もふっくらとしてきた。


 やがて目を覚ます。


「あれ、もう治療の時間? お姉ちゃん、どうしたの? いつ帰ってきたの? しばらくお仕事じゃなかったの?」


「レミィ、体調は? 気分はどう?」


 妹さんはベッドから体を起こして自分の体調を確認する。


「え、あ、体が軽い! 頭も痛くない! 息切れもしないわ! 治ったのかな? お姉ちゃん、なんで泣いてるの?」


「よかった、レミィ、よかった……」


 フランさんは妹さんに抱きついた。

 よくわかっていない妹さんは戸惑ってはいるがフランさんを抱きしめかえしていた。


「お姉ちゃん、一体何が……」


「奇跡が起きたのよ」


 しばらくして妹さんが僕の存在に気づく。


「お姉ちゃん、そこにいる男の子だあれ? 彼氏?」


「え、あっ、私たちの恩人よ」


「ふーん、そうなの」


 あ、まあ姉妹の感動シーンだし、いったん帰ろうかな。


「じゃあフランさん、1週間後にテレポートで迎えにくるから、またね」


 そして僕は病室を出てからテレポートで家に帰ってきた。



◇◇◇



side フラン=アスター


 サカザキが病室から出ていって、そこから気配が消えた。

 おそらくテレポーテーションで日本に帰ったのだろう。



 本当に感謝しかない。



 あの薬を持っていたこともそうだし、レアスキルであろうテレポーテーションのことが私にバレるのも躊躇せずレミィを助けてくれたこと。


 医者とヒーラーを呼ばなきゃ。

 この様子だと大丈夫だろうけど、一応レミィの状態を見てもらわないと。



 3日間レミィは精密検査と経過観察を受けたが、特に問題なかった。

 原因不明で薬もスキルも効かず打つ手なしだったのが突然治ったので病院からはしつこく聞かれた。

 だが、『私は何もわからない』としか答えなかった。

 当然だ、彼の秘密は私もわからないが欠片たりとも漏らすべきではない。



 そして退院したレミィは私と家に戻った。

 レミィはもう何年振りのことだろう。

 レミィの部屋は両親がいつか治ると信じて欠かさずきれいにしていた。


「ありがとう、フラン。レミィが無事戻ってきた。やりたくもない探索者稼業は辛かっただろう。ジョブやスキルに恵まれなかったふがいない私たちの代わりに長いことすまなかった。これからはお前の好きなようにしていいんだよ、フラン」


 両親からの言葉に不覚にも私はまた泣きそうだった。

 ようやく終わったんだ、悪夢が。

 レミィが突然ふらふらと倒れて以来、両親も私も心が休まることがなかった。



 私が次にすること、それはもう決めていた。



◇◇◇



 アメリカ探索者協会本部に私は来た。

 私の担当者と会うためだ。

 これが最後になるだろう。


「妹さんの完治おめでとう。治った原因はやはりわからないのかね?」

 

 ひげ面の担当者がさも我が事のように言ってくる。

 私に色目を使ってくるのであまり好きではない。


「ええ、わからないわ。ところで契約の話なんだけど、『妹の治療が終わるまで探索者協会に協力する』だったはず。だから、もう契約終了でいいわよね」


「それはそうだが、今までの恩を忘れたのかね? 国内でも数は多くない【ハイプリースト】を確保して妹さんの延命に全力をあげたのだよ?」


「それについては感謝しているわ。でもそれは契約上そちらが守ることのはず。私は、レアアイテムの収集や魔石の納品、非公式の攻略階数の更新などそちらの依頼は全てこなしてきたわ。つまりお互い契約は守っている。恩なんか持ち出してきて、アメリカは契約を重んじる社会のはずだけど、違うのかしら?」


 ひげ面の顔がゆがむ。


「ぐぬぬ……。だが、最後の依頼は終わっていないぞ。ショウ・サカザキをアメリカに連れてきていないではないか」


「その任務は今月末までだった。そして、任務の途中でお互いに責任がない理由で契約が終了するんだから完遂できなくても問題ないわよね。ちゃんと指示に従ってサカザキに近付いて勧誘はした」


「任務を放棄するのか? 莫大な違約金が発生するぞ? 払えるのか?」


「任務が途中だった場合に終了したときの規定は契約にないわ。そして契約終了後は任務遂行する責任がないから違約金も発生しないはずよ」


「くっ、ならば新しく契約して依頼をしたい。対価は別に払う。サカザキをアメリカに勧誘しろ」


 なおもひげ面が食いついてくる。が、


「そんなことあなたの独断で決められるの?」


「お前を失うことになるくらいなら上は追認するだろうさ」


「どのみちお断りよ。無理だわ。彼は規格外よ。契約外だけど忠告してあげる。彼を引き込むのは無理だと思う。協力体制を築ければよくやったと言えるレベルかしら。それじゃあこれで話は終わり。さよなら」


「このクソガキが……」


 私はひげ面の最後の言葉を聞き流してせいせいしながら本部を出て行った。



◇◇◇



 そして、残されたフランの担当者はアメリカ探索者協会本部長にさきほどのやりとりを報告する。


「バカかっ、なぜ強引にとめなかった!!」


「しかし、あのガキは俺なんかよりはるかにレベルが高いんですぜ。そりゃ無理ってもんですし、契約を盾にとられたら合法的に引き留めるのもできませんぜ」


「ランキングトップを引き入れられないばかりか、フランまで失うとはとんだ茶番ではないか。まさか、逆にフランが取り込まれたのではないだろうな?」


「いや、そんなことは一言も。妹の治療をしたのがショウ・サカザキとかではない限りそれはないのでは?」


「治療特化だったとしても、ごく短期間でランキングトップに躍り出るほどのレベルアップは無理だ。ただでさえヒーラー系統はレベルを上げにくいのだからな。ふん、もういい下がれ」


「はい」


 このあと本部長は切り札を使うべきか、しばし考えをめぐらせていた。



◆◆◆◆◆◆


【真祖】

 【レッサーヴァンパイア】の最上位ジョブ。

 自身の血を操った多彩な攻撃ができる。

 マスター特典は素手で戦う場合全能力が上昇するというもの。

 魔物っぽいジョブであるが、外見が変化したりはせず、別に人間をやめるわけではない。


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 (2023/1/8)

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