第23話 裏ランキング作成者のスキルをはく奪します。転校生との距離もだんだん縮まっています。

 休み時間もずっとフランさんが話しかけてきていた。

 放課後もか、と思いきや放課後はさっさと帰ってしまった。


「玲、帰ろうか」


 一樹は軽音部に入っているので放課後はその練習だ。

 僕は入学当初生活に困っていたから部活に入っていない。

 玲はダンジョン警察があるから入っていない。


 僕の口座には金があるからもう生活には困っていないけど今更何か部活に入るのもなあ、ということで入らないままだ。




「玲様、翔様、お帰りなさいませ。旦那様がお呼びでございます」


 帰ってきたら美城さんが出迎えてくれた。

 御堂さんが用があるということは何か進展があったか、何かの依頼かな?


「ただいま、父様」


「ただいまです、御堂さん」


「うむ、早速だが話がある。三日月くん、もう一度だが話をしてくれ」


「かしこまりました」


 そして僕と玲はブタ主任について説明を受ける。


「こいつをどうにかすれば僕たちの活動がしやすくなるんですかね?」


「そうだな。君たちの最新の情報はネットワークに置いていないから、【ランクアイ】をつぶせば高ランクが狙いうちされる可能性は激減するだろうな。各国も探索者トップは貴重な戦力となるから容易に探れないような体制をとっているはずだ」


「僕に任せてもらってもいいですか」


「いいぞ」


「では早速。三日月さん、テレパシーでブタ主任のいる場所を思い浮かべてください。絶・隠行術を発動したあと二人でそこへテレポートします」



◇◇◇



side WEA(世界探索者協会)地下2階・探索者研究室


「ブフゥ、マリアたんに早く会いたいブゥ」


 ブタ主任ことチョイ主任の机にはいくつものモニターが並び、風俗のチラシとお菓子が散乱している。

 マリアは彼のお気に入りの風俗嬢だ。


「VRもいいけどやはり生身がいいブゥ」


「おいチョイ、早くアメリカの探索者トップ10の情報を出せ」


「はいはい、やりますブゥ」


「まったく3級民の貴様なぞユニークスキルがなければ叩き出すものを…… 机を片付けろと毎回言ってるだろう。風俗誌を堂々と机に置くな。お菓子もほどほどにしてダイエットしろ。お前に早死にされると困るんだよ」


「へえへえ、ならもっと私の機嫌を取ってくださいブゥ」


「調子に乗るな、早くしろ」


 チョイの上司は呆れてその場を離れる。

 毎度のやり取りだが毎回彼から酸っぱい異臭がして辟易していた。

 いっそのことこいつのユニークスキルがなくなればいいのに、と毎回思っている。

 胃薬と吐き気止めが常備薬だ。


「全く日本猿がトップランクになったからってアメリカも毎日警戒しろだなんてめんどくさいブゥ」


 そしてチョイがユニークスキル【ランクアイ】を発動してアメリカの探索者の情報を集めようとするが……


「! スキルが発動しないブゥ! 何でブゥ!?」


「は!? 何だと!? チョイ、それは本当か?」


 彼から離れかけていたチョイの上司は、思わず声をあげたチョイを振り返って尋ねる。


「え、いや、うそブゥ! スキルは使えるブゥ!」


「聞き捨てならんぞ、チョイ! 今鑑定士を連れてくるからそこから動くなよ!」


 慌てて退出する上司。

 チョイはあらためて自分のステータスを確認しユニークスキルがないことを確認すると、部屋から逃げ出した。


「やばい、やばいでブゥ。このままだとどうなるか。とりあえず逃げないと!」


 だが140㎏の巨体で日ごろから運動していない彼がろくに移動できるわけもなく、地上へのエレベーター前でへばっているところを捕まえられる。


「ジョブ鑑定! ……やはりユニークスキルはありません」


 WEAの鑑定士がチョイのスキルを鑑定するが、ユニークスキルはなかった。


「これは何かの間違いブゥ! 明日には、いや明後日には使えるはずブゥ!」


「ほう、ならば最後のチャンスだ、明後日まで待ってやろうではないか。だがそれでもスキルがなければ、貴様の居場所はないものと思えよ」




 果たして二日後、彼のスキルは復活していなかった。

 この間、彼は監視され逃げられず、祈ったこともない神にひたすら祈り、ろくな食事もとれず体重は20㎏ほど落ちていた。


 彼の上司が屠殺場へ連れていかれる豚を見るような冷たい目で告げる。


「残念だったな、チョイ。貴様は用済みだ。ここから出ていけ、というところだが、上からの命令でな、『裏ランキングを作成したことがチョイの口から各国に知られては困る』とのことだ。これでも私はお前の上司だったからな、せめて苦しまずに処刑するように進言しておいたぞ」


「そんな! いやだああ! あんまりだあああ!」


「連れていけ」


 屈強な黒服たちにずるずると引きずられていく彼の姿を見た者は、その後いなかった。



◇◇◇



 テレポートでWEAの地下2階、チョイの研究室へ転移してきた。

 なんだか部屋が臭い。

 ん、イカ臭い感じ? うえぇ。

 ブタ主任とその女上司っぽいのが話をしている。


 今のうちにとっと終わらせよう。

 絶・隠行術で僕たちの存在はバレていない。


(【リバース】発動! を反転する!)


 そしてジョブ鑑定でブタ主任のユニークスキルを見て、無くなっていることを確認。


 すぐにテレポートで僕と三日月さんは御堂さんの書斎に戻ってきた。


「ああ、臭かった」


「地獄でしたわ」


 僕と三日月さんはそれぞれ感想をもらす。


「で、どうだった?」


「はい、ユニークスキルの有無を反転して、【ランクアイ】が消えたことを確認しました」


「てっきり殺すかと思ったが、どうして殺さなかった? 優しいんだな」


 御堂さんが聞いてくる。


「いえ、殺してセキュリティを強化されたりしたら困ると思いまして。あと、スキルがなくなったほうが生き地獄を味わうだろうと」


「そうか、それもそうだな」



◇◇◇



「はい、あーん」


「あの、フランさん? さすがにそれは……」


「あーん、してくれないの? アメリカでは友達同士でもするのに?」


「そうなの?」


「そう、だからあーん」


「ん、んぐっ」


 お昼休みの食堂。

 僕の横で冷気が漏れています。

 玲の椅子が凍り始めたような。


 もう片方ではフランさんがエビフライ定食のエビフライを食べ、その残りをぼくにあーんしてくる。

 アメリカでは普通だという。

 勢いに押されて食べてしまう。

 あ、間接キスかな?

 キス自体はもう抵抗ないんだけど、公開羞恥プレイなんて性癖、僕にはないよ。


「あのフランさん、ここは日本で、そんな習慣ないんだよ」


 おお一樹、ナイスフォローだ。

 もっと言ってやってくれ。

 いい加減寒くなってきたよ。


「翔、あーん」


 対抗するように玲がお弁当のミートボールを僕にあーんしてくる。

 こっちは恥ずかしいのを除けば別に問題ないんだけどなあ、彼氏だし。

 もぐもぐ。おいしい。

 ちなみに三日月さんが弁当を作ってくれている。




「くそっ、なんなんだ、毎日毎日見せつけやがって!」


「爆発しろ! 凍れ! 泣け! 叫べ! そして(男だけ)死ね!」


「時と場所を考えなさいよね、はしたない」


「あんな普通の男のどこがいいんだろうね~」


「モテない男のひがみもうるさいわねえ」


 周りの人間からもこう言われるのにも慣れてきたよ。

 どうしてこうなったんだ…… 



◆◆◆◆◆◆


【邪神の使徒】 

 レアジョブである死霊術士系の最上位ジョブ。

 マスター特典は不死系モンスターからの攻撃を激減、闇属性スキルの効果大幅上昇。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る