第21話 とうとう一線を超えました。メイドさんを超絶パワーアップさせます。

「翔くん、君にはこいつを殺す権利があると思う。だが、その役目は私に任せてくれないかね。君に人を殺すという業を背負わせるのはまだ早すぎる。ここは大人の役目だ」


「御堂さん……」


「翔、父様の言う通りよ」


「でも、許せません。御堂さん、あなたはこういう勢力に人知れず対抗しようとしてきたのでしょう。僕にも協力させてください。こいつを殺して覚悟を示します」


「……それでいいのだな? 引き返せないぞ?」


「翔、私も協力する。私も狙われているのだから」


「ありがとう、玲」


 そして僕は魔剣グラムを取り出し、暗殺者の心臓を一突きにする。


「……すまない、翔くん」


 だが、これで終わりではない。


「死者隷属!」


 そして、影 気輪が起き上がってくる。

 しかし言葉を発することはない。

 【邪神の使徒】で使えるネクロマンシーのスキルによりただ命令を聞くだけの存在となり果てている。

 生前の能力はそのまま残っており、影潜りのスキルも使える。


「影に潜り、石田一樹を守れ」


 最強の守護者の誕生というわけだ。

 『死者隷属』には最大魔力の数パーセントが必要だが、あらかじめ【リバース】で消費魔力をゼロにしているので、常時ノーコストで使役できる。

 当分は一樹くんを守ってもらう。

 影はそのまま地面に消えていった。


 そして、みんなを御堂邸に戻して異空間を消去する。

 僕らは御堂さんの書斎に集まった。


「早速だがな、私たちの仲間となったのだ、この屋敷にいる仲間を紹介しよう。三日月くん、入りなさい」


 すると音もなく書斎に入ってきたのは、僕が膝から下がないときに面倒を見てくれたメイドさん。


三日月花音みかづきかのんよ。よろしくね、翔くん」


「え、あ、はい」


「彼女には主に諜報を担当してもらっている。ジョブは【忍者】、ユニークスキルは【マスターエージェント】だ」


「レベルは1250。微力ながら君雄さまのお役に立てておりますわ」


 僕の面倒を見てくれていたメイドさんは三日月さんといって、実は諜報員だった。




◇◇◇




 とりあえずその場は紹介だけ受けて、僕は部屋へ帰ってきた。


 少し時間が経って冷静になる。

 僕は人を殺してしまった。

 相手が僕を殺しに来たのだから当然のことだとは思う。

 思うのだけど……



「翔、入ってもいい?」


「玲? いいよ」


 僕の部屋に入ってきて、ベッドに腰かけている僕の横に玲が座る。


「翔、人を殺したのは初めて?」


「そうだよ。今になって罪悪感というか、あの時は勢いのままに殺して覚悟を示す、とか言ったけどあれでよかったのか、でも僕を殺しに来たんだから当然だよね、とか思ったりして、正直わけわからないんだ」



 僕は思っていることを玲に打ち明ける。



「私も、ダン警に入ってしばらくして追跡した者から反撃を受けて殺してしまったことがある。誰しも通る道、と言われた。でも……」


「でも?」


「結局は時間が解決するしかない。それまでは、他のことで気を紛らわすの」


 そういって玲は僕に向き直り、唇を重ねてくる。

 ぎこちなく舌が入ってくる。


「翔、いっしょに忘れよ?」


 そして2人でベッドに倒れこんだ。



◇◇◇



 ……翌日の朝。朝日が眩しい。



「ありがとう、玲」


「ん。やっと手を出してくれた。不能じゃなかった」


「ははは……。夢中になって中に出しちゃったけど」


「避妊魔法をかけてた」


「そっか」




 翔たちが登校した後の御堂君雄の書斎。


「御堂さま、ご報告が」


「三日月、何かあったのか?」


「翔くんのベッドのシーツに赤いシミがついていました」


「……そうか。複雑な気分だな」


「これで私も……」


「どうした?」


「何でもございません」



◇◇◇



 朝はいつも通り二人で登校するが、今は玲がぴったりくっついて歩いている。

 ちょっと歩きにくい気もするが、気にはならない。


 教室に入ってもしばらく玲は僕のそばにいて、始業のチャイムが鳴って玲は名残惜しそうに席に着く。



(ヤッたな……)


(ヤッたのね……)


 既に経験済みのクラスメイトたちは二人の様子から察する。

 そしてそれを言わないくらいには優しかった。


 未経験のクラスメイトは気づかなかった。

 ただ、普段から二人と接している石田だけは何となく違う雰囲気を察していたが、やはり言及はしなかった。



◇◇◇



 御堂さんからの最初の依頼は、三日月さんを強化すること。

 まず、三日月さんには6時間何でもいいから物を見続けてもらい、【鑑定士】のジョブを発現してもらう。

 その間、僕は大急ぎでダンジョンを駆けあがる。


 目標は555階にいるモンスターのドラゴンライダーがごくまれにレアで落とす『ジョブの極意書』。

 最上位ジョブになる正規の手順は、レベル5000以上で一歩手前のジョブまで成長した状態で『ジョブの極意書』を使うこと。

 これは【神眼を持つ者】でジョブを詳細鑑定してわかったことだ。

 さらに、一番低い階層だと555階のドラゴンライダーが落とすことも分かった。


 僕は【リバース】で簡単に最下位ジョブから最上位ジョブになったからいろいろすっ飛ばしてるけど、条件がめちゃくちゃきついな。

 できるやついるのか?


 玲と一緒に401階から縮地を連発して駆け上がる。

 555階でドラゴンライダーに遭って、レアドロップ率を【リバース】して無事『ジョブの極意書』をゲット。


 帰ってきたときに三日月さんは既に【鑑定士】のジョブが選べるようになっていた。

 早速【鑑定士】になってもらい、すぐに【リバース】で【神眼を持つ者】にする。そのあと【忍者】にまたチェンジしてもらう。


 ちょっと試しに【忍者】を【リバース】してみたら、【盗賊チーフ】に下がっていた。

 やっぱり高位のものを【リバース】したら下がった。

 当然だよな?



 【盗賊チーフ】を【リバース】して【忍者】に戻したあと、レベルも【リバース】して99999にする。

 そして『ジョブの極意書』を使ってもらい、無事に三日月さんは【忍者マスター】となった。

 ここまでした理由は、【忍者マスター】のスキル、絶・隠行術のためだ。



ーーーーーーーーーーーーーー

三日月 花音 レベル99999

ジョブ【忍者マスター】

ユニークスキル【マスターエージェント】

ーーーーーーーーーーーーーー


 世界最強のスパイ爆誕だ。



「三日月くん、露支那帝国にあるWEA(世界探索者協会)本部に侵入して裏ランキングを作成している者を見つけ出してくるのだ」


「承知いたしました、御堂さま」


「そして翔くん、君には二つのお願いがある」


「何でしょうか」


「今日からしばらく、日本ダンジョンにいる生きている外国人の生死をリバースすることと、日本に新たに不法入国してきた外国人の生死をリバースしてほしい。どちらも本来であれば処刑されてもおかしくない者たちだ。日本政府がやらないことを君に押し付けるのは不本意だが、かの国から次の暗殺者がやってくるだろうから自衛のためだ」


「わかりました。既に侵入している外国人はどうするのですか?」


「おそらく数が多すぎるであろうから、一気にやると日本の社会に混乱が起きるかもしれない。それについてはまた後になる」


「わかりました」


◆◆◆◆◆◆


【ドラゴンテイマー】 

 魔物使い系の最上位ジョブ。マスター特典は使役する最強の魔物のステータスを自分に加算する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る