第16話 シングル戦もチーム戦も余裕で優勝。

 新たに配布された護符を身につけて、シングル枠の各高校探索科の代表150人が再び横浜アリーナのフィールドに集まった。


『それではバトルロイヤルを開始する』



 あんなことがあったせいか、みんな慎重だ。

 そして、いくつかのパーティに分かれ始める。

 審判が審議している間にみんな交流する時間があったので、最後に残るまで臨時のパーティを組んでいたのだ。

 

 んで、うまく組めなかったソロは真っ先に狙われていた。

 当然僕は誰とも組んでいない。

 何人かお誘いがあったが全部断った。



 誰かが爆裂魔法を使ったのをきっかけに、あちこちで戦いが始まった。

 ドカーンドカーンと土煙が上がるのに紛れて僕はスキルを発動。


「絶・隠行術!」


 これは【忍者マスター】のスキルで、効果は完全気配遮断と透明化。

 暗殺し放題だぜ。


 まあでも、僕は手を出さずただ見ているだけにして段々人数が減るのを眺めていた。

 なんでかっていうと、出来るだけスキルを見ておきたいからだ。

 僕は使えるスキルの数はものすごく多いけど、実際に使うことがないので参考にしようと思った。

 


 最後まで残ったのは勝間のパーティで、暫定のパーティ内で争って勝間が生き残っていた。


 【ラッキーヘブン】に攻撃した者はスキル効果が不発になるが、凶悪なことに魔力などはきっちり消費される。

 やがて息切れとなった相手は勝間になすすべなくやられていた。

 勝間自身も戦士として相当鍛えていて、【ラッキーヘブン】がなくてもそこそこ強そうだ。




「よし、これで俺が優勝だ!!」


「僕が残っているよ」


「!」


 僕は『絶・隠行術』を解除して、勝間の後ろから声をかける。


「お前はさっきの…… やはりなにかカラクリがあるんだな。まあ俺にはほとんど通用しないだろうがな」


「そういうあなたも強いですね。【ラッキーヘブン】も発動率が100%ではないからあなたも無傷じゃないでしょう。勝たせてもらいますね」


「俺のスキルも調査済みってか。だが事前に分かってるからって対策がないと意味がないぞ!」


 対等なレベルだったらちょっと工夫が必要だったかもね。


 僕は隠れている間に勝間も見ていたが、たまに攻撃を受けていた。

 【ラッキーヘブン】は体感80%くらいの発動率だろうか。


 それと、勝間を対象にする場合に発動するので、相手が自分にかけるバフには反応しない。

 つまり格上が自己強化を施した場合には優位性が薄れる。

 僕が自分にバフをかけるなんて大人気ないことはしないけど。


「じゃあ、行きますね」


 僕は勝間に突進して体当たりし、続けて剣を横に振りきる。


「バカなーーーー!!」


 これで勝間は何もできず場外へと飛ばされた。


 スキルではなくて、ただ通常攻撃を組み合わせただけ。

 『レベルを上げて物理で殴れ』、って僕のためにあるような言葉だよね。





『最後の一人であることを確認しました。シングル戦優勝は二子玉高校一年、逆崎翔』


 会場にアナウンスが流れる。

 玲にも見せたかったなあ。



◇◇◇



「あいつ、突然出てきたぞ」


「最後まで逃げ回ってたのか、卑怯者じゃないか」


「でも最後は一撃だったぜ。攻撃力は高いんじゃないか」


「消耗しきったところを狙うなんて武士の風上にもおけぬ」


「バカ、モンスター相手にそんなこと言ってる暇あるのかよ。最後まで生き残った者こそが強者なんだよ。悔しいけどな」




 周りの選手がなにやら騒ぎ始めるが、僕は特に気にせず控室に帰っていった。

 てか明日はチーム戦なんだよな。

 勝間のことを先輩に教えとかなきゃ。



「先輩、明日のチーム戦ですが、僕が最後に対戦した勝間のいるチームが多分最後まで残ると思います。勝間は、【ラッキーヘブン】というユニークスキルを持っていて、高確率で自分に対する相手のスキル効果をキャンセルするという極悪なものです」


「おいおい、なんだそりゃ。通常攻撃しか通用しないってか」


「全く当たらないというわけではないですが、8割くらいは当たりません。魔力の無駄使いになるでしょうね」


「どうやって対処するんだ?」


「今日やったみたいにスキルを使わずに撃破します」


「……はあ。ごり押すしかないか。それはいいが、他のチームはどうするんだ? 俺たち二人しかいないから真っ先に狙われるよ?」


「僕はミラーシールドっていう攻撃を反射する魔法を使いますので、全部の攻撃を反射します。その隙をついて先輩は剣の舞で攻撃してください。攻撃があたれば半永久的にスキルを出せるでしょう?」


「僕の【竜撃剣】知ってたの?」


「はい。鑑定スキルを使えますので」


「そうか。去年はいろいろな場合を想定して先輩方と練習をしたものだが……」


「チーム戦は450人も一度に参加するのですから事前の想定をするより自分の長所を突き詰めるしかないと思います」


「それって相当自信があるやつのセリフだよな……」



◇◇◇



 そして次の日、横浜アリーナに449人がチームごとに離れて配置された。


 僕のところだけ、僕と倉橋先輩しかいない。

 あとはみんな3人組だ。

 僕に近いチームはほぼ全てこっちを見ている。

 まあ、考えることは皆いっしょだよね。

 多分僕でも同じことすると思う。



『身代わりの護符を装備していることを確認してください。致命傷を受けた者から離脱となり、チーム全員が離脱すると失格です。では、優勝目指して生き残りをかけるように。はじめ!』



「うなれ爆炎! フレイムショット!」


「貫け水の奔流、スプレッドアロー!」


「天の光よ、ライトボール!」


「闇へ沈め、ダークスフィア!」


「切り裂け、エアロブレーカ!」


 他にも四方からあいさつ代わりの魔法がこちらへ飛んでくる。


「ミラーシールド!」


 僕と先輩をそれぞれ囲うように薄い鏡の盾が出現し、全ての魔法攻撃を跳ね返す。

 そして先輩は一番近くのチームへ近づいて剣の舞をヒットさせていく。


 何チームかを場外送りにしたあと、勝間のパーティがこっちに向かってきた。


「逆崎、こいつだな」


「あれが勝間です。逃げましょう」



 ミラーシールドを維持しながら逃げる。


 逃げてる途中で気がついたんだけど、ミラーシールドで跳ね返した攻撃は【ラッキーヘブン】で不発にされないようだ。

 弱点みっけ。


 でも、跳ね返す方向をわざわざ勝間の方向に誘導するのはわりと面倒くさいのでこの方法は取らない。

 しなくても勝てるし。



 距離を取って大回りし、勝間が他のパーティとドンパチしてる間に勝間の後方に位置取る。

 そして先輩も巻き込んで『絶・隠行術』を発動して隠れる。


「あれ? 誰もこっちを見なくなったぞ? 逆崎、これもお前が?」


「はい。盗賊系ジョブの隠密ですね」


「はあ、お前いろいろ使えるんだな」


「いろんなジョブを渡り歩いていますから」


「それって、キャラビルドの悪い例って言われてるやつじゃないのか?」


「僕にはそのスタイルがあってるんですよ」


「そうか。何もいうまい」



◇◇◇



 しばらくして、予想通り勝間のいるパーティが残っていた。

 ただ、1人退場している。


「やった、これで優勝だ!」


「勝間、それってフラグなんじゃ……」



 そのとおり。

 シングル戦の焼き直しのごとく、『絶・隠行術』を解除して勝間たちの後ろから姿を現す。


「あれ逆崎、このまま奇襲してれば勝てたんじゃないか?」


「いや、先輩。奇襲しないと勝てないならともかく、その必要がないですので」


「チキショウ、舐めやがって! 行くぞ立川!」


「「ダブルエックススラッシュ!!」」


 勝間たちが左右から同時に袈裟斬りに襲いかかってくる。


「パリィ! 二段斬り!」


 僕は落ち着いて2人の斬撃を弾いた後、勝間に二段攻撃を当てて、勝間を場外送りに。


「バカな、2回連続で勝間のスキルが発動しないだと!」


「今です、先輩!」


「剣の舞!」


「うわあっ!」


 先輩の連続攻撃が全て決まってもう1人も場外送り。

 これで僕たちの優勝は決まった。



◆◆◆◆◆◆


【ルーンマスター】 

 魔法戦士系の最上位ジョブ。マスター特典はスキルの消費魔力半減。



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 (2022.12.21)

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