第17話 地方大会の優勝の報告。そしてスタンピードが発生しましたが速攻で解決します。

「いやあ逆崎、最後はスキルが2回も連続で発動して、お前のほうがラッキーだったんじゃないか?」


 二子玉高校はシングルもチームも神奈川大会を優勝して全国大会の出場権を手にして終わり、その帰りの電車の中。


「あれはただのスキルじゃなくて力づくで弾いたのとただの素早い二撃ですよ」


 僕はスキル名を声に出してそれっぽい挙動をしただけ。

 要はただの舐めプだ。


「まじかよ。どんだけ強いんだお前。お前と御堂がいれば俺いらなくないか?」


「……そうかもしれません」


「そこは否定してくれよ。まあ全国大会で優勝すれば探索者を求める企業から引く手あまただからな」


 先輩ならそこそこいけると思うんだけどな。

 【竜撃剣】が強いし。

 他のスキルで再現しようと思ったら、【ルーンマスター】で覚えるブラッドウェポン(体力吸収攻撃)、マナウェポン(魔力吸収攻撃)が必要で、両方とも常時発動とか普通無理だと思う。

 


◇◇◇



「お帰り、翔」


「ただいま、玲。優勝してきたよ」


「ん、わかってる。負けるはずない。全国大会はいっしょに戦えるね」


「そうだね。今度こそいいレアジョブ持ちがいたらいいなあ」



 絶・隠行術で隠れている間も、できる限り相手のジョブを確認していた。

 ただし、ジョブの発現条件までも見るためには、【神眼を持つ者】にジョブチェンジしないといけないから、試合中忙しいのを覚悟してたんだけど。

 今回は知らないレアジョブはいなかった。

 ユニークジョブはちょっとだけいたけど。


 それと、シングル戦の初っ端に【リバース】を使って僕と勝間以外を場外送りにしたことも話した。


「翔、もうその手は使わないほうがいいと思う。スキルの痕跡が見つからなかったのは、多分【リバース】の消費魔力がないから。でもイカサマを疑われて最悪出禁になるかも」


「それは困るな。やめとこう。まあこっちの生死がかかってるわけじゃないし」


「そのとおり」



◇◇◇



 探索科の地方大会が終わって数日後。


 今日も授業が終わって玲といっしょに家に帰ってきた。

 手をつなぎながら。

 手をつなぎながらなんて最初は恥ずかしかったけど、慣れればなんてことはない。

 恥ずかしいと思ったけど、自分が思うほど他人って自分のことを見てはいない、というのが何となくわかったので今では抵抗がなくなっている。



「玲、今日はダン警お休みなの?」


「うん」


「そしたらシャインバックスコーヒーでも行く? 新作のケーキが出たらしいんだけど」


「行こう。……ん、ちょっと待って、ダン警からのメッセージ?」


 玲が自分のスマホを取り出す。


「お嬢様、翔様、旦那様がお呼びです。お急ぎとのことです」


 なんだろう、僕らのいるリビングに美城さんがやってきた。


「なんだろうね、玲」


「スタンピードが起きた」


「え?」


「行こう」



 御堂さんの書斎では、御堂さんがタブレットを前に険しい顔をしていた。


「きたか玲、翔くん。ダンジョンの181階がスタンピードに見舞われている。あそこにはレベル500~700くらいの冒険者が数多く潜っているはずだ。そしてそのレベル帯は探索者の数が最も多い。そんな彼らを失えば将来の日本ダンジョン攻略に大きな支障をきたすだろう。すまんがスタンピードを制圧してほしい。JEAの理事として頼む」


「わかりました。今からすぐに向かいます」


「お前たちのレベルなら余裕だと思うが、できるだけ早くに頼む。この20年ほどは起きていなかったから放っておくと被害は大きくなるだろう」


「翔、私なら150階までは行けるわ」


「うん、そこから全力で181階だね」


「それと二子玉支部に寄ってスタンピードを知らせるプレートを受け取ってくれ。既に用意させている。それを各階のクリスタルの前において後続の者が入らないようにしてくれ」


「わかりました、いこう、玲」


「うん」



 すぐに家を出て、二子玉支部で少し大きめのプレートを受け取り神々のポーチへ収納して、ゲートへ。


 玲と一緒にゲートに入って150階から入り、そこから二人とも縮地を連続で使ってダンジョンを進んでいく。

 忘れずに各階にプレートを置きつつ181階に到着。



「うわあっ、助けてくれえ!!」


 クリスタルに触れてから181階のランダムな場所に飛ばされるのだが、ちょうど大勢のモンスターに探索者パーティが追い回されていた。


「飛翔剣閃!」


「フリージングウェーブ!」


 僕は飛ぶ剣戟、玲は氷魔法でできた波で広範囲攻撃を行い近くの魔物を一掃する。


 襲われていたパーティのリーダーの男がこちらへやってきた。


「よう、すげーな。とにかく助かったぜ。あの数じゃもう逃げ回るしかできなくてな。帰ろうにもバカ高い転移石なんか持ってないし、奥のクリスタル近くはここよりモンスターが密集していてどうにもならねえ。ダン警はまだなのか、お前たち知らねえか?」


 玲はダン警だがまだ学校の制服のままだし、そもそも玲の受け持つ範囲を超えている。


「いえ、僕たちも来たばかりなので……」


「そうか。助けてくれてありがとな。今度会ったら何か奢らせてもらうぜ、生きてたらな。じゃあお前たちも逃げろよ」


 そう言ってそのパーティはモンスターのいなさそうなところを探して走っていった。


 学校の授業でも言っていたが、もしスタンピードに居合わせたら逃げの一択だそうだ。

 フロアの奥に突然モンスターが大量発生するので、クリスタルには当然近づけない。

 時間が経てばモンスターはばらけていく。


 あとは国が高レベルの探索者を募って彼らがばらけたモンスターを撃破してくれるまで、何とか逃げて耐えるしかないのだ。

 ちなみにスタンピード発生の際に高レベルの探索者はスタンピードの掃討に応じる義務を課されている。


 国力の弱い国では自国の探索者では間に合わず、やむを得ず他国に依頼することもあるという。

 ある国では露支那帝国に頼んで高額の費用を請求され、借金漬けにされ移民を受け入れさせられて事実上乗っ取られている。

 なので、大体はアメリカやEU、日本に頼ることになるらしい。


 

 で、僕はJEA理事である御堂さんから早く制圧してくれと言われている。


「翔、お願い」


「わかった」


(【リバース】発動! する!)





 そして、スタンピードは発生の報告を受けて一時間たたずに終息した。

 本人たちは知らないがもちろん全世界最速記録である。



◇◇◇



「何なんだ、いきなりモンスターが消えていなくなったぞ」


「なんだか知らんが助かったのか?」


「そんなことより魔石やドロップ品があるぞ、持てるだけ拾え!」


「そうだ、誰がやったか知らんがバレねえだろ。それに一日たったら魔石もダンジョンに飲み込まれちまうんだからな、有効活用してやらんといかんだろ」



 僕たち聞いてますけど。


 【リバース】を使ったあと、念のため僕と玲は広大なフィールドを見て回った。

 もちろんモンスターは人っ子一人いないが、うじゃうじゃいたモンスターの代わりに魔石やドロップ品があたり一面に転がっていた。


 切り替えの早い探索者は我先にと魔石やドロップ品を拾うのに夢中だ。

 これが彼らの貴重な収入源なのだから仕方がないんだろうけど、なんとなく納得いかないな。



「翔、一通り見て回ったら私たちも適当に拾う。そうしないと不自然」


「……そうだね」


 僕たちもいきなりの幸運にあずかった者のフリをするわけか。



 この日181階に居合わせた探索者は何カ月分もの収入を手にすることになった。


◆◆◆◆◆◆


【賢者】 

 魔法使い系の最上位ジョブ。

 マスター特典は魔法攻撃力の大幅な上昇。

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