第13話 楽々一億円ゲット! でもなんか玲の様子が変なんだけど……
「一億円ですか? 御堂さんにはお世話になってるんですから、タダでいいですよ」
「君ならそう言うと思った。だがな、才能の安売りはいかんぞ。正当な報酬を求めなさい。これは私なりのケジメでもあるがな。ここでタダでもらえば私は他の物も君に『タダでくれ』とずるずる要求することになるかもしれない」
「御堂さんならそれでも構わないんですが…… わかりました、一億円をもらいます」
「すまんな。だが本来SSランクアイテムの価値はこの程度ではないはずだ。今は市場に出回ってないから一億円としておいたが、絶対一億円以上の価値はあると思っておいてくれ」
「はい」
うーん。
なんだかすごいことになったな。
僕としては善意のつもりだったんだけど、大人としていろいろ思うところはあるってことなんだろう。
というわけで次の日の放課後、ダンジョン入り口のゲートから50階に入って、ドロップ率を反転させておいてゴブリンキングを討伐。
出てきたマジックポーチ(極小)を【リバース】して神々のポーチに。
そしてもう一回。
もう一個は玲にあげるためだ。
ダンジョンを出て、すぐ近くにあるJEAの二子玉支部に寄って、魔石を買い取ってもらう。
三崎たちの荷物持ちだったときに買取手続きはやっていたから久しぶりだ。
とはいえ、対面じゃなくて機械に通してあとはタッチパネルで買い取りに同意してスマホをかざすだけだから簡単なんだけどね。
んで、ゴブリンキングの魔石はCランクで2万円だった。
Cランクの買取価格帯では最も安い。
あと二つゴブリンキングの魔石が手元にあるが、これを【リバース】でランクを反転すると、Bランクのゴブリンエンペラーの魔石になった。
お値段20万円。
なんと10倍だ。
とはいえ、神々のポーチを渡して御堂さんにもらう一億円からしたら大したことないな、と思ってしまう。
金銭感覚壊れそう。
二つとも買い取りに出して、さらに40万円ゲットだ。
ちょろいぜ。
後日御堂さんに神々のポーチを渡して、僕の口座に一億円を振り込んでもらった。
スマホの電子通帳に見たことない桁が並んでるのを見てビックリしたよ。
早く慣れなきゃ。
◇◇◇
何だか最近玲の様子がおかしい。
地方大会への出場が決まった少し後から。
「玲、なんか最近元気無さそうだけど大丈夫?」
「大丈夫」
「そう? なんかあったら頼ってね」
「ありがとう」
そんなに表情が変わるほうでもないが、付き合い始めて笑顔を見ることも多いし、ささいな表情の変化なら僕にはわかり始めている。
なんというかちょっと暗いのだ。
まだろくに知り合ってもいない入学時の雰囲気を時々見せる。
玲に聞いても無理に笑顔を作って『特に何もない』の一点張りだ。
そんな感じが続いて一週間したある日の休み時間。
「……返して。アレは私の大切なもの」
「はあ? 知らないわよ。何言ってんの?」
僕が一樹と雑談していたとき、ふと玲が誰かと言い合う声がしてきた。
相手は…… 確か名前は木下彩香。
こいつは僕が嫌いな女だ。
なぜかって言うと、僕と玲が学校に復帰したとき玲の顔を見て整形ツアーに行ったとかバカにしてきたやつだからだ。
ちなみにこいつのほうこそ整形疑惑がある。
中学のアルバムと比べて一目瞭然だからだ。
「他の物はまだ許せる。アレは絶対返してもらう」
「知らないって言ってるでしょ! ちょっと顔がよくなったからって調子こいてんじゃねーよ」
「返さないなら考えがある」
「どうするのよ?」
「アイスチル」
まずい、アイスチルは氷魔法の最弱魔法だけど玲が使えば簡単に人が死ぬぞ。
氷の彫像でも作るつもりか?
そして、木下の下半身までが氷に包まれた。
「返さないなら探す」
そう言って玲は木下のかばんに手を入れて何かを探し始めた。
「ちょっとやめなさいよ! 勝手に人のかばんをあさらないで! 誰か、先生を呼んで!!」
玲にも何か事情があるのだろうけど、これはまずい。
対人での攻撃系スキル使用は授業など以外では当然禁止されている。
校則もそうだし、法律もそうなってる。
急いで玲のところに駆け寄って玲の手を抑える。
「やめるんだ、玲」
「翔、でも……」
「おい、何をしている」
ここでたまたま近くにいた2Aの担任が教室に入ってきた。
「先生、助けて、御堂さんがいきなり私を凍らせてかばんの中の物を盗ろうとしたの!」
「とりあえず凍結を解除しなければな。ファイアボール! ……溶けない。炎熱よ迸れ、フレイムスクラッチ!」
先生が強めの火魔法を使ってようやくアイスチルが溶けた。
玲はあまり魔法に魔力をこめていなかったようだ。
それでも初級の火魔法では溶けなかったけど。
そして、玲は職員室へ連れていかれた。
そのあと時間をずらして木下も呼ばれていた。
結局、御堂さんが慌てて迎えにきてそのまま玲は帰宅。
1か月の自宅謹慎となった。
◇◇◇
帰ってきて御堂さんの部屋に呼ばれる。
「翔くん、玲と話をしてやってくれないか? どうも私には頑なに話をしてくれなくてね、翔くんなら話をしてもいいとのことだ。まったく、こんなときは母親がいいのかもしれないが。すまぬ、父親として頼む」
「はい、もちろんです。玲さんは理由もなしにあんなことをするはずありませんから」
「頼む」
そして、玲の部屋で。
「どうしてあんなことしたの?」
「ごめんなさい、翔にもらったポーチを盗られた」
涙を流しながら玲が話す。
地方大会への出場が決まった後から、木下たちからの嫌がらせが始まったそうだ。
靴に画鋲、椅子に画鋲、机の中に画鋲。
上履きはゴミ箱に。
学校支給のタブレットにヒビが入ってる。
トイレに入れば上から水をかけられる。
二回目からは自分の真上に氷の盾を張って避けてたらしいけど。
すれ違いざまに小声で『ブスのくせに調子に乗るな』。
また、化粧ポーチや他にも私物が盗られていて、昨日、僕にもらった神々のポーチが無くなっていたそうだ。
それで、ブチ切れて凍らせてカバンを探したそうだ。
結局見つからなかったけども。
「翔にもらったポーチを盗られたのはどうしても許せなかった」
「……ありがとう、僕のために怒ってくれたんだね。けど、どうしようか。問い詰めてもしらばっくれて本音をしゃべるわけないだろうし…… あ、いいこと思いついた」
「何か方法があるの?」
「僕に任せてよ。まあどのみち玲は謹慎だから動けないけどね」
「わかった、任せる」
◇◇◇
次の日、玲は保護者とともに警察に呼び出された。
なんでも、木下は傷害罪で玲を告訴すると息巻いているらしい。
さらに告訴を取り下げてほしければ示談金1000万円をよこせ、と。
僕は放課後まで待って木下を呼び止める。
「木下さん、ちょっと用事があるんだけど」
「何? 玲のこと? あなたが謝っても許さないわよ」
謝るのはおまえだがな。
「いっしょに職員室まで来てほしいんだ」
「いやよ、なんでそんなことに私が付き合わなきゃならないの? 私は被害者なのよ!」
きた、被害者コスプレ。
自分で原因を作っておきながら反撃を受けたら被害者面して相手を責めたり、関係ない第三者が被害者のふりをするという手法。
その昔に特定民族がお金をたかるためによく使っていた手法として知られている。
だけど、その化けの皮を剥いでやる。
俺も怒っているからな。
抵抗する木下の手を引っ張って職員室まで連れて行く。
僕のレベルならなんてことはない。
「矢部先生、木下を連れてきました」
「おう逆崎、どうなんだ、本当のことを喋ったのか?」
「いや、これからです」
そして他の先生もいる職員室で僕は【リバース】を木下に使った。
「木下さん、玲に様々な嫌がらせをしたうえに玲の私物を盗みましたね」
僕は木下に問いかける。当然知らないって言うに決まってるけど……
「ええ、そうよ。私と仲間でやったのよ!」
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