第11話 校内代表選で二人ともこっそりと無双する。そして最後に玲が棄権した。

 僕がゴブリンキングを斬る前に使った【リバース】は、『対象のレアドロップ率を反転』することだった。


 ドロップ率が『ごくわずか』なんだから反転させれば『ほぼ確実に』落とすだろうと踏んでのことだ。

 そしてあっけなく成功した。

 

「翔、反則すぎ。いくらでもレアドロップが手に入る」


「そうなんだけど、最低でも8時間待ちなのがなあ…… これでも贅沢な悩みなんだろうけど」


「デート終わり、もう帰ろ?」


 というわけでボス部屋の奥に現れたクリスタルに触れて、二人でダンジョンから脱出した。


 帰りにシャインバックスコーヒーによって二人で適当に飲み物を飲んで過ごした。

 50階分ただひたすら移動するのに付き合ってくれるなんて何てできた彼女なんだろう。

 しょうもない見栄と言われればそれまでだけど、そこのドリンク代は僕が出した。



◇◇◇



 マジックポーチ(極小)のアイテムランクはE。

 レアドロなのに。

 そしてアイテムランクを【リバース】すると、神々のポーチになった。

 アイテムランクはSS。

 収納量はほぼ無限大で、中の物の時間は止まったまま。

 生き物は収納不可で登録した者しか使えない。



 例によって人類初の発見。

 そしてやっぱりお蔵入り……ではなくて僕が使うことにした。

 玲も使用者として登録しておいた。


 

◇◇◇



「武藤は事情により退学となった。皆もおかしなことはするなよ」


 担任の矢部先生が皆に告げる。

 言葉はぼかしているがみんなとっくに知っている。

 スキルを使った殺人未遂でしかも主犯だから、かなり重くなるだろうな。

 未成年だからちょっとは加減されるかもしれないけど。



◇◇◇



 月が変わって5月。


 今日は校内代表戦に出る生徒を決める日だ。

 希望者多数の場合はクラス内で対戦してトップ3が出られる。


 二子玉高校は、各学年3クラスずつある。

 僕は1Aクラスだ。

 1Aからは希望者が僕と玲だけだったので、クラス内選抜の対戦はなかった。

 4月に入ったばかりの入学生よりも2年生、3年生が当然強いので、1年生はあまり出たがらないものらしい。


 結局1年生からは僕と玲の2人だけで、合計20人で神奈川地方大会への出場枠(シングル1人、1チーム3人)を争うことになった。


 代表戦は実力テストでも使ったグラウンド。

 ダメージを吸収する魔道具付きでめっちゃお金がかかっているらしい。

 方式は全国大会にならってトーナメント。

 抽選で僕は1番、玲は8番。

 7番までが1ブロックで8から13番は2ブロック目だから、準決勝まで会うことはない。


 3ブロック終わればそのトップがチーム枠出場となり、3ブロックの勝者同士でさらに勝てばシングル枠ゲットとなる。

 


◇◇◇



 1番の僕から対戦がスタート。

 対戦相手は3Cの目端ララ先輩だ。


「うっそー私の相手1年生!? 楽勝じゃん、くじ運いいなアタシ!」


 金髪の活発なララ先輩が僕を見てケラケラ笑う。


「無駄口をたたくな。早く位置につけ」


「はーい」


「はい」



 グラウンドで15メートルほど離れてから向かう僕とララ先輩。

 僕は模擬戦用の剣、ララ先輩は模擬戦用のワンドを片手にもってクルクル回している。


 勝敗は、お互い身に付けた身代わりの護符の色で判定される。

 今は青色だが、致命傷を負ったと判定されれば赤く光る仕様だ。 



「はじめ!」


 さて、様子を見ようかな。


「記念対戦のとこ悪いけど、一瞬で終わらせちゃうね、『貫け、スプラッシュアロー!』」


 と思ったけどそうさせる気はないらしい。

 いきなりララ先輩から回転する水の矢が飛んできた。

 容赦ないなあ、と思いながら剣の腹で水の矢を受け止めると、水の矢は弾けて剣の表面を濡らした。

 残念ながら、模擬剣にも『不壊化』と『武具強化』がかかっているからね、何ともない。


「えっ、なんで防げるの……?」


 さあ、何ででしょうね。


 今度はこちらから、ゆっくりと近付いて剣を横に振る。


「なぎ払い!」


 当てると一発で終わりそうなのでわざと剣の先がかするように剣を振る。

 メイスを構えて防いだララ先輩は発生したそよ風で髪の毛がふわっとあおられる。

 そして先輩の護符が少し赤みを帯びる。



「くっ、間合いを取らなきゃ……」



 先輩がこちらから目を離さず素早く後ろへ下がる。

 本来は僕も間合いを詰めて斬りにいくべきだろうけど、ゆっくりと剣を構えなおすフリをしてあえて見逃す。


「清き水精、私の声に応えて! スプラッシュアロー・マルチ!」


 今度は水の矢が次々と生成されて、こちらに飛んでくる。

 それも全て剣で防ぎ僕の足元に水たまりができる。


「全部防ぐなんて…… 仕方ない、奥の手よ! 『囲い集う水の塊、アクアボール!』」


 先輩の水魔法が唱え終わると足元の水たまりが僕の目の前まで浮きあがり、やがて僕の首から上を覆うように水球が生成された。


 使い終わった魔法の水をリサイクルしてさらに攻撃できるなんて先輩結構すごいんじゃないかと思う。

 そして先輩はさらに僕から距離をとる。

 僕が窒息してダウンするのを待つつもりだろう。


 これくらい対人の駆け引きを見られればちょうどいいかな。

 僕は前に向かって小走りしすぐに先輩に追いついて攻撃する。


「十字斬!」


 素早く十字に剣を斬って先輩に当てる。

 軽く吹っ飛んだ先輩はしりもちをつく。

 そして僕を包んでいた水の球も解除された。


「敏捷に特化した剣士なのかしら、でもまだ魔力に余裕はある!」


「それまで! 勝者、逆崎翔!」


 審判の先生が僕の勝ちをコールする。

 先輩の身代わりの護符は赤く光っていた。


「そんな…… まさか1回戦なんかで……」


 すみませんね、先輩。



「おいおい、ララに勝ちやがったぜ、あの1年」


「ララの水魔法の先制を許した時点で負けだと思ったのに……」



 観戦していた生徒からいろいろ聞こえる。

 3Cのトップ3なんだからまあまあ強かったんだろうな。



◇◇◇


 

 僕の試合のあと、2ブロック目の1試合目で玲の出番だ。

 相手は2Aの先輩で、相手も槍を持っている。


「はじめ!」

 

 対戦の開始がコールされる。


「氷迅強襲槍!!」


 いきなり玲が全開フルスロットルだ。

 全身に氷のオーラをまとわせ軽くジャンプしたあと相手に向かって槍を突き出しながら突進していく。

 【氷神姫】が使えるスキル。

 やりすぎじゃん。


 相手は玲の速さに反応できず、そのまま突きを食らって吹き飛ぶ。

 もちろん護符が一瞬で赤く光った。

 しかも当たる直前槍を持ち直して石突で攻撃している。

 おそろしく速い突き、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。



「勝者、御堂玲!」


 勝ちをコールされた玲はドヤ顔で僕のところへ歩いてきた。


「やったよ、翔」


「おお。でもやりすぎじゃないか」


「翔にかっこいいとこ見せたかった」


 う、可愛いこというなあ。


「かっこよかったよ、玲。それとさりげなく石突にしてたね」


「気づいた?」


「まあね」


 僕と玲で話していると……




「え、あの超絶美人めっちゃ強いじゃん!」


「もう一回ダメもとで告白してみようかなあ……」


「くそっ、リア充爆発しろ! いや凍れ!」



 ……まあとにかくこんな感じでふたりとも勝ち上がっていった。



 そして全ブロックの試合が終わり、1ブロック目は僕、2ブロック目は玲、3ブロック目は3Aの倉橋達也くらはしたつや先輩が最後まで残った。

 この3人でチームを組むことが決定し、あとはシングル枠の争いだ。

 だが……



「先生、私は棄権します。シングル枠には出ません」


 玲が棄権宣言をした。

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