第10話 偉い人がもっと偉い人にやり込められる。そして楽々レアドロップをゲット。

「紙の名刺とはね。験を担ぐ人なんだろう、武藤コンサルタントのCEOは」


 学校であった武藤のお父さんの話を御堂さんに相談してみた。


「子どもに対して金や女を提示するとか…… 翔くん、世の中は汚い大人ばかりだとは思わないでほしいな。一定数いるのは否定できない事実だが」


「はい。御堂さんのような立派な大人がいることも知ってますから」


「世辞がうまいな。それはともかくこの件はまかせておきなさい。今度の土曜日に武藤コンサルタントの本社ビルに呼ばれているのだろう? 私が同行する」


「ありがとうございます」


「ふう、やっと恩の一つを返せるよ」



◇◇◇



ーーーーーーーーーーーーーー

逆崎 翔 レベル99999(17)

ジョブ【ゴッドハンド】(【見習い戦士】)

ユニークスキル【リバース】(なし)

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※(  )は偽装の指輪により表示される内容

※ジョブ履歴(【神眼を持つ者】)



 さて、土曜日になったから武藤コンサルタントにお邪魔する日だ。


 一応ジョブを【ゴッドハンド】に戻してレベルもリバース。

 【ゴッドハンド】にジョブチェンジしてレベル1になるけど、ここからレベルをリバースすると、レベルが99999になった。

 つまりジョブチェンジでレベルが毎回1に戻るのは僕にとって超絶メリットということだ。

 ちなみに、玲もいったん【神眼をもつ者】を得た後、【氷神姫】に戻している。


 実はちょっと不安があるんだよね。

 【リバース】を使うのに8時間かかるから、いったんジョブチェンジしてレベル1になると、8時間よわよわ雑魚探索者になっちゃうんだ。

 なんとかならないかな。


 んなことを考えながら玲のお父さんといっしょに武藤コンサルタントの本社ビルへ。

 そして武藤巌と対峙する。


「他人の同席を許可した覚えはないのだがね? まあよかろう、君の望みをいいたまえ」


「まあそう言うなよ。私はこういうものだ」


 そういって玲のお父さんが紙でできた名刺を渡す。


「ふん、親がしゃしゃり出てくるなど…… な、JEA(日本探索者協会)理事・御堂君雄だと……」


「訳あって翔くんの保護者をしていてね、同席する資格はあるだろう? 話を続けようか。翔くん、君の希望を遠慮なく言うといい」


「武藤さん、僕の望みは零士くんが法の裁きに則って罪を償うことです」


 正直今のところ欲しいものはない。 

 可愛い彼女はいるし、御堂さんのおかげで金には困らない。

 お金だって適当なアイテムを【リバース】して売ればすぐに手に入るだろうしね。


「お前…… どうなるか分かってて言ってるのか?」


 すかさず御堂さんが言い返す。


「それはこちらのセリフだ。いい大人が子どもを脅すなどと」


「何を! お前こそJEAの理事の肩書を引っ提げてきたのだろう!」


「そうだ。だが、これ見よがしに大企業CEOの肩書を見せてきたのはそちらだろう。息子の犯罪も金の力でもみ消してきたようだが、今回は諦めろ」


「どういうつもりだ?」


「武藤コンサルタント、売り上げの大半は政府や自治体との契約。来年度もその契約を維持できるかな? 知ってると思うが、JEAは国内で供給する魔石の卸先を調整している。政府のエネルギー政策にJEAは必要不可欠なのだ。それとも、私の傘下の企業にコンサル会社を買収させるか……」


「くっ…… わかった、引き下がろう」


「お前が何もしなければ私も何もしない。シンプルだろう? 話は終わりだ。翔くん、帰るぞ」


「あっ、はい」



◇◇◇



「ありがとうございます、御堂さん」


「どういたしまして。相手が権力でくるならこちらも権力で対抗するんだよ」


「JEAの理事ってすごいんですね…… あらためて実感しましたよ」


「普段から使うわけでもないからね。それに厄介なんだよ、私が翔くんくらいのときは理事の息子っていうだけで金目当ての女の子がいっぱい寄ってきて大変だったんだ。父から理事の座を引き継いだ時には私は既に結婚していたが、それでも女が寄ってきてな」


「うわあ…… 玲もかなり男子に告白されてましたし、血は争えないんですね」


「それとは少し違うかもしれないけどね、理事になってからは露支那からのハニトラも多くてな、同じアジア系の旧中国人だと日本人と区別がつきづらかったよ。美城の『人物鑑定』がなければわからなかった。まあ、妻一筋だったからハニトラでなくてもありえなかったけどね」


「そうなんですね、多夫多妻に反対なんですか?」


 ダンジョンができて、探索者という職業ができてまだ歴史も浅かった時、男女を問わず一攫千金を夢見てダンジョンに入り、死亡する者が非常に多かった。

 そのため、人口の減りすぎを防ぐ方策として多夫多妻制度となっている。


 子どもの数に応じて経済的な支援を国から受けられるし、探索者の夫婦が探索に行っている間に子どもの面倒を見る施設も充実しているので、現在はわずかだが人口は上向きを続けている。



「いや、特に意見はないな。当事者同士がよければ別にいいんじゃないかと思う。私と妻はそれ以外に相手が必要なかったというだけだ。翔くんも玲以外にいい子があれば結婚してもいいんだぞ。もしかしたら貴重なユニークスキルを持つ子がたくさんできて日本に貢献してもらえるかもしれん」


「ははは……」



◇◇◇



 無事武藤の件が片付いた次の日、玲と一緒にお出かけだ。

 と言っても、デートではなくてダンジョン攻略だ。

 目標は50階。

 ボスのゴブリンキングのレアドロップ、マジックポーチ(極小)だ。

 ドロップ率は『ごくわずか』。

 そのくせ収納量が極小だし中の物の時間も止まらないのでこんなもの狙うやつはまずいない。


 ということが、先人の命をかけた積み重ねによってわかっている。




 僕は50階からスタートできるが、それは三崎たちのパーティに同行していたからなので、今回はまじめに1階から行こうと思う。


 1階の草原フロアに2人で入る。

 とりあえず『縮地』を使って移動してみる。

 『縮地』は中距離までの高速移動スキル。

 【ゴッドハンド】で取得できるスキルだ。


 少しして玲が早足で追いかけてきた。


「さすが翔。でも今の私のレベルならなんとか追いつける」


 さすがレベル99999。

 テレポーテーションにも見間違える『縮地』に素のステータスで追いつけるなんて。

 さすがに連続で『縮地』を発動したら追いつけないだろうけど、それでも十分人外だな。


 とりあえず試してみたかったことをやってみたのであとはダンジョンの奥へ進むだけ。

 ちんたら歩いていると一フロアにつき2,3時間はかかるが、軽く駆け足で進むだけで10分かからず奥のクリスタルに到着。

 途中で何人か見かけたけど、多分こっちの移動が早すぎて気づかれてすらないだろうな。



 そんなことを繰り返し、朝から入って夕方には50階に到着。

 今回途中のモンスターは全無視だ。

 だって倒しても意味がないからね。

 多分レベルこれ以上上がらないだろうし。


 50階のボス部屋の扉を開けて侵入。

 僕が構えるのは錆びた剣。

 鈍色の王冠を被ったゴブリンキングが心なしか嘲るように僕を見ている。

 そんなもので傷つけられるのかと。


 だが、【ゴッドハンド】のジョブ特性に武器の『不壊化』と『武具強化』があるから見た目と違ってかなり強くなっている。

 正確に言うと『武具強化』は【ゴッドハンド】の一つ下の【バトルマスター】の特性なんだけど。


 というわけで、先に【リバース】を使ってから、ゴブリンキングに高速で近付いて一刀両断。

 何が起こったかわからないままゴブリンキングは上下にずれたあと、魔石とドロップ品を残して消えていった。


 確認したら、ちゃんとレアドロップのマジックポーチ(極小)が落ちていた。

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