第7話 最弱ジョブを反転して最強ジョブになりました。

 レベルの【リバース】がとんでもないので、お礼にと思って玲のお父さんにも提案したんだけど、現役の探検者じゃないからって遠慮された。



 そして水曜日、まだ探索科の授業として実戦はないけど、実力テストをすることになった。


 校舎から少し離れたグラウンドにクラスが集合する。

 実力テストは、現時点のスキルやレベルによりどれくらい戦えるかを競うもの。

 担任の矢部先生いわく、今回のは成績には影響ないから、気軽にやってくれとのこと。



 入学時に自己申告したレベルとスキルをもとに担任が選んだペア同士で軽くバトルをする。

 武器と防具は学校支給の模擬戦用のもの。


 僕の相手は一樹だった。


 僕も一樹も使うのは剣。

 ジョブも同じ【見習い戦士】だ。

 多分レベルも近いのだろう。

 入学の時点では。


 見知った相手なので適当に剣を打ち合っていく。

 一樹はまだダンジョンに潜ったことがないはずなので、二人してヘロヘロな剣をチャンバラして過ごす。


 玲はというと、武藤と対戦していた。

 玲は槍と氷魔法で、武藤は剣と火魔法をそれぞれ駆使して善戦していた。


 ……という風に見えるかもしれないが、玲は全く力を入れていない。

 オルトロス戦で見せた気迫がかけらも感じられず適当にあしらっている。

 さすがにダン警で慣れているだけあって、うまく武藤の攻撃を捌いている。

 結局、武藤のプライドを傷つけないように引き分けにもちこんでいた。


 玲は入学当初でも一番レベルが高かっただろうから、つまり、玲の次に強いのは武藤ということか。


 その後は、相手を変えて対戦していった。

 グラウンドは地下にダメージ吸収の魔道具が複数埋め込まれていて、致命傷を受けてもダメージは負わない。

 とはいえ、レベル9万越えの僕や玲が全力で攻撃するとどうなるかわからないから、僕も全然力を入れず実力テストを淡々とこなしていった。

 あ、武藤とは手合わせのチャンスはありませんでした。

 睨まれてはいたけど。



◇◇◇



 来月になると校内代表選出戦、翌月には地方探索科大会、さらにその翌々月には全国高校探索科総合大会がある。

 校内代表選出戦は出場希望制で、シングルとチーム枠がある。


 渋谷高校の探索科には今年超高校級の大物が入学したらしい。

 僕の通う二子玉高校は去年全国大会で初戦敗退だ。


 出ようかな、どうしようかな? 

 玲とも相談してみよう。



「逆崎、ちょっと職員室へ来い」


「はい」


 実力テストが終わった後、担任の矢部先生に呼ばれた。


 職員室に入り、さらにそこから矢部先生と和室に入る。

 何かしたかな、僕。


「逆崎、手を抜きすぎだろう。俺の目はごまかせんぞ。入学してから放課後ダンジョンに潜っていただろう。それなのにあの程度の実力なはずはない。俺だって現役の探索者なんだぞ」


「先生、別にそういうわけでは……」


「他の生徒は気が付かなかったようだがな、あの大根芝居はなんだ? 私も初心者を指導するときに手加減するが、それと同じ、いやもっとひどい感じがしたからな」


 見抜かれてるなあ……。

 でもだからどうしたというお話なんだけど。


「僕はどうすればいいんですか?」


「それなりに腕に自信があるのだろう? 校内代表選に出てみろ。んで先輩にその鼻っ柱を折ってもらえ」


 ああ、そういうこと。

 先生は僕が強くなって慢心してると思ってるのか。

 そんな風に見られてたなんてちょっとショックだ。


「わかりました。代表戦に挑戦してみます」


「お、物分かりはいいんだな。精々頑張ってくれよ。お前がもし優勝でもしたら担任の俺の評価が上がるからな。ちゃんと『矢部先生の指導のおかげです』っていうんだぞ、はっはっはっ」


 そう言うと先生は僕の肩をバシバシと叩く。

 最後は妙にフランクになってた。



◇◇◇



「翔が出るなら私も出る」


 矢部先生から言われたことを玲にも話すと玲も出ると言い出した。

 先生には出ると言ったけどやっぱりなんか乗り気しないんだよね。

 レベルは多分人類最高峰に高いんだろうけど、実戦経験ないし、まだ【見習い戦士】で使えるスキルなんか全然少ないし。


「それならジョブを【リバース】してみたら? そのあと放課後に私とダンジョン潜って魔物と戦ってみよ?」


 うん、それ考えてたんだけど、なんかまた恐ろしい結果になりそうで二の足を踏んでたんだよな。

 最悪【リバース】したあとにもう一回【リバース】すれば、2回反転して、ちょうど360度回転したみたいに元に戻るんじゃないか、って気もするし。

 ま、やってみようか。


(【リバース】発動! ジョブ【見習い戦士】を反転させる!)


 スキルの発動っていちいち声に出さなくてもいいらしい。

 美城さんに教えてもらった。


 そういや美城さんも鑑定スキルを使うとき『鑑定!』とかって叫んでなかったもんね。

 ただし、魔法スキルについては慣れるまで詠唱が必要らしい。



ーーーーーーーーーーーーーー

逆崎 翔 レベル99829 (17)

ジョブ【ゴッドハンド】(【見習い戦士】)

ユニークスキル【リバース】(なし)

ーーーーーーーーーーーーーー

※(  )は偽装の指輪の効力により表示される内容



 というわけでやってみましたけど、ナニコレ?

 【ゴッドハンド】?

 さらに、頭と体にスキルが次々と刻み込まれていく。

 全然実戦経験ないのにスキルが使えるのがわかる。

 なんか『縮地』とか『星団十字斬』とか中二っぽいスキルが浮かんでくるよ。



 とりあえず、玲といっしょに万能鑑定秘書の美城さんのところにお邪魔して聞いてみる。



「【ゴッドハンド】ですか…… 申し訳ありません、寡聞にして存じませぬ。差し支えなければ『鑑定』させていただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、お願いします。そのつもりで来ましたので」

 

「では…… 【ゴッドハンド】、戦士系ジョブの最高位。ほぼ全ての物理攻撃系スキルを使える。マスター特典として体力と物理攻撃力が大幅上昇する。未発見のジョブですな。現在確認されているのは戦士系ジョブの最高は【バトルマスター】でございます」


 お、おう。

 【見習い戦士】が初期にして最弱ジョブだから多分最上位ジョブになるかも、って思ってたんだけど。

 スキルも全て自動で修得できたのも思わぬもうけものだった。


「翔、控えめにいって最強。あとで私のジョブも【リバース】してみて」


「わかった。でもユニークジョブを【リバース】したらどうなるかわからないよ? 逆に弱体化するかも……」


「その場合はもう一度【リバース】して元に戻せばいい。仮に弱くなってもこのレベルなら大丈夫」


「わかった。じゃあ、明日の朝一ね」


 笑顔で話す玲とは対照的に、美城さんは珍しく驚きの表情をしていた。


「これは歴史の転換点に立ち会ったのでは…… ああ、旦那様にご報告申し上げねば…… 懸念事項が増えますね……」 


 翌日の朝、玲のユニークジョブ【氷媛闘士】に【リバース】を発動すると、【氷神姫】になった。


・【氷神姫】

(攻撃に氷属性、凍結効果を任意で追加でき、氷属性の効果2倍、マスター特典:氷属性攻撃吸収)

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