第8話 ダンジョンの中で高ランク探索者に襲われましたが楽勝で返り討ちにしました。

 未発見のジョブは日本探索者協会(JEA)に報告すれば審査の上で莫大な情報提供料がもらえるらしい。

 だが、玲の父さんと話をして、やはり露支那帝国から拉致、暗殺の危険があるからできない、ということになった。

 秘密を抱えるのって何となくイヤだな、と思うが仕方がない。

 露支那帝国を何とかできないかな。

 ってそれは大人が考えることか。



◇◇◇



 実力テストがあった翌週、実習授業が始まった。

 担任たちに引率されながら実際にダンジョンに潜るのだ。


 とはいえ、初回なので1階だけ潜って、1階奥のクリスタルに触れて帰還するというものだ。

 このあいだに、ゴブリンやスライムといった初心者でも何とか倒せる魔物の相手をさせながらダンジョンを実感してもらうというものだ。


 クラスの何人かは欠席している。

 これは、既にダンジョンに潜ったことがある者には時間の無駄だからだ。


 僕は参加している。

 荷物持ちしかしてなくて実戦経験がないのを自覚しているからね。

 レベルもスキルも充実しているけど、それを悟られないためというのもある。

 玲は僕に着いてきたい、というだけで参加だ。

 ダン警だから絶対いらないと思うんだけど……。


 意外なことに絶対参加しないと思っていた武藤も参加していた。

 レベル100だのDランクだのって威張ってたのに、何でだろう。



◇◇◇



 担任の矢部先生と、現役探索者2人の引率の下、二子玉にあるゲートからダンジョンに侵入していく。


 ダンジョンはだいたい各国に一つある(例外もあり)。

 そして、全国各地にあるゲートから同じダンジョンに侵入することになるが、入るときに自分が到達した階数を指定できて、その階のランダムな場所に飛ばされる。


 各階の奥にはクリスタルがあり、1~50階までなら次へ進むか脱出するかを選べる。

 脱出した場合は、入ってきたゲートに戻される。

 51階~100階は、2階ごとに次へ進むか脱出するかを選ぶようになり、深層になればなるほどその間隔が開いていく。

 そうなると野営が必要となる。


 区切りとなる階にはボス部屋があり、ボスを倒さないとクリスタルが現れない。

 モンスターを倒すと、魔石とドロップ品を落とす。

 魔石はほぼ確実に落ちるようだが、ドロップ品は確率で落とすもので、レアドロップはさらに低確率で落ちる。


 探索者がダンジョン内で死ぬと、一日後に死体がダンジョンに吸収される。

 装備品などは残り、発見者が獲得してもよいが故人のダンジョンスマホのみ提出が義務となっている。



 以上が大まかなダンジョンの知識だ。

 日本ダンジョンの到達階数は232階。

 一応僕と玲が250階のボスを倒しているが、まだJEAに報告していないし、当分するつもりはない。

 僕のゲート侵入時の選択肢は、250階、50階、1階となっている。

 2~49階、51階~249階は自力でクリスタルまでたどり着かないといけない。



◇◇◇



 引率の先生方からのチュートリアルをこなしながら、1階をみんなで進んでいく。


 初期ジョブに魔法系を選んでいるクラスメイトは安全な後ろから魔法を撃ってゴブリンたちを倒していく。

 直接手を下すわけではないが、ゴブリンの断末魔の声を聴いてちょっと精神にクるものがあったみたいだ。


 前衛系のジョブを持つクラスメイトはおっかなびっくり剣を振り回したり、槍でつついていたりして、魔物とはいえ生き物を直接殺す感触が気持ち悪いと言っていた。

 僕も剣を叩きつけてゴブリンを斬り殺すのは気持ち悪かった。



◇◇◇



 そして特に問題もなく1階の奥に到着したが……



「逆崎、こないだの礼をしてやる!」


 武藤が僕の後ろから声をかけると同時に辺りが光に包まれる。

 この感じは転移トラップと同じだ。


 

 気が付くとさっきまでいた1階の草原フロアではなく、あちこちに岩が転がるフロアにいた。


「ここは35階だ。でてこい、お前たち!!」


 

 武藤の掛け声とともに3人の探検者が姿を現す。


「坊ちゃん、こいつですかい?」


「そうだとも。お前たちなら大丈夫だろうが、こいつは火属性の攻撃が効かない」



 まさかと思うけど……



「武藤くん、どういうつもり?」


「一人の探索者の卵が不幸な事故に遭うんだよ。死体は一日で消えるからな。知ってるか? ダンジョンでの行方不明者数はな、交通事故と同じくらいなんだとよ」



 そうなんだ。



「ふーん。知らなかったよ」


「粋がっていられるのも今のうちだ。お前たち、やれ!」


「悪ぃな、ぼうず、これも依頼なんでな。苦しめて殺せとのことだ。どこまで持つかな? まずは右腕からいこうか、『水鳥剣』!」


 いかつい体格に似合わない左右に動きながらの優雅な剣の舞が僕に襲いかかってくるが、手持ちの錆びた剣で弾き返す。

 パリィという技だ。


「ちっ、何やってんだよ! そこをどけ! 風刃は歯向かう者をことごとく切り裂く! ゲイルカッター!」


 黒いローブを被った男から風魔法が放たれるが、剣を構えて防ぐ。フリをする。

 真正面から食らってもノーダメージだけどね。

 一応【ゴッドハンド】のスキルには魔法攻撃を切り裂くものがあったりするけどその必要もない。


「シッ!」


 さらに最初に斬りつけてきた男の後ろから投げナイフが飛んでくるが、体を大げさにずらしてかわす。

 盗賊系のジョブ持ってるのかな。


 よし、とりあえず一通り攻撃させたから、あとはこちらからだ。


 まずは剣技の男から。

 素早く後ろに回り込んで背中を『峰打ち』する。

 『峰打ち』のスキルは当たれば相手を麻痺状態にし、かつ必ずHPが残る。

 だから殺さずに捕まえるのにちょうどいい技だ。


 次は盗賊の男、最後に魔法使いの男に峰打ちを当てていく。

 三人とも僕の動きを捉えられずなすがままだった。

 ジョブによる補正ってすごいね。

 達人のごとき身のこなしができるんだから。

 これで元が武闘家だったりしたらもっと強いんだろうな。



「な…… Bランクの探索者だぞ! それが一瞬で……!」


 武藤が驚愕している。

 お前の思い通りにはなってやらないよ。


 Bランクっていうと、確かレベル800以上だったかな。

 800でも8000でも僕からしたら誤差だけど。



「どうする? 残ったのは武藤くんだけだよ? 僕とやりあう? 君と違って優しいから殺さないよ」


「く、くそっ! 出でよ、我が魂の炎よ、ファイアボール・バースト!」

 

 焦った武藤は前と同じ行動をとるが……


「だからそれも効かないってば」


 これも形だけ剣を構えて防ぐ。



◇◇◇



「そこまでよ! ダンジョン警察として武藤零士とそこの3人、あなたたちを捕縛します!」


「なっ、御堂! どういうことだ!?」


「武藤零士、転移石を使って逆崎翔を拉致、そこの3人に襲わせた。さっきまでのやりとりは全て動画に保存済でJEA二子玉支部にリアルタイムで転送されている」


 さすがダン警。

 手慣れてるなあ。


「さあ、大人しくしなさい」


「くそっ!! そこをどけっ! 捕まってたまるか!!」


 武藤がやけくそになって玲に体当たりをする。

 しかし華麗に躱され、あっという間に縄状のもので拘束される。

 そして、玲は倒れて麻痺している3人も手早く拘束していく。



「さすがだね、玲」


「翔も、こんなに安心して捕まえられることなんて滅多にない。しかも最初から最後まで証拠がばっちり。完璧」


「こうなるってわかってた?」


「そうじゃないけど、今日武藤くんの様子がおかしかった。何かを仕出かそうとする人間は挙動不審を隠し切れない。案の状転移石を使用したから私も紛れ込んだ」


「なるほど……」



 このあと、玲が呼んだダン警の応援部隊が到着し、4人を連行していった。

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