第5話 美人な同級生は金持ちのイケメンからの告白も余裕でお断り。

 エリクサーで両足を取り戻した翌日、久々の登校だ。

 あの日の事件に巻き込まれて以来、一週間とちょっとぶり。

 意外と早く復帰できたな。



「……おい、あの美人だれだよ」


「あんな女の子いたかよ?」


「並んで歩いてるのは、逆崎か?」


「転校生かな?」


「けっ、リア充かよ」


 クラスの男子がざわつく。

 女子は悔しそうに下を向いている子が多い。

 ちょっとした優越感を持ちながら、それぞれの席についてかばんを下ろす。



 玲が自分の席に着くと男子も女子も驚いていた。


「おいおい、まじかよ! あのドブスの玲の席に座ったぜ。転校生か?」


「整形でもしたんじゃない? 事故に巻き込まれて休みってのは嘘で朝鮮自治区に整形ツアーに行ってたんじゃないの、キャハハ!」


 みんな好き勝手言ってる。

 整形なんかしていない。

 それも考えたそうだが、親からもらった素顔を変えるなんてできなかった、って玲は言ってたからな。


 ちらりと玲の方を見るが、普段と変わりない。

 気にしてないようだ。



 僕の前の席の一樹くんが後ろを向いて僕に話しかけてくる。


「おはよう、翔。体は大丈夫なの? 先生はダンジョン内の事故に巻き込まれたって言ってたけど」


「うん、ちょっと入院してたぐらいで今はなんともないよ。心配してくれてありがとう」


 ホントは両足欠損して死にかけだったけど。

 わざわざ言う必要はないよね。




「ああ、ホームルームを始めるぞ~」


 担任の先生が入ってくる。


「今日から逆崎翔と御堂玲が学校に復帰する。前にも言ったが二人はダンジョン内の事故に巻き込まれてな。特に御堂は魔物の攻撃を受けてスキルを変化させられたそうだ。彼女の変化はそれによるものだ。外国だとたまにあることらしいが。いっとくが詳しく聞くなよ。事故のトラウマを再発させたりすることがあるからな」


 あー、そういう風にごまかすのね。

 外国でもある、っていっても検証しようがないし。

 そもそもダンジョンはまだまだ謎が多いから、そんなこともあるという感じにしておくのか。



◇◇◇



 お昼休み、僕と玲と一樹は食堂のテーブルで昼飯を食っていた。

 僕と玲はお屋敷のメイドさんが作った弁当で、一樹はリーズナブルな学食のハンバーグ定食だ。


 探索科のある高校は、昼食が安い。

 というのは、ダンジョンから得られる魔石の恩恵が大きいのでなるべく国としては探索者を確保したい。

 そして、探索科に通う者が経済的理由で探索者を断念することがないようにほとんど国が費用を負担しているのだ。


 ちなみに探索科を世界で最初に教育に組み込んだのは日本。

 ダンジョンができて、魔石の有用性が明らかになったころ、時の文部科学大臣が強力に推進したからだ。


 なんでも大臣は趣味がゲームだったようで、ダンジョンの仕組みなどにいち早く理解を示し総理大臣を説き伏せて全国に探索科を作らせた。





「翔と御堂さんはいつ仲良くなったの?」


 テーブルで僕と玲は隣同士、一樹は僕の前に座っていてやはり気になったのか聞いてきた。


「ん-、二人して事故に巻き込まれたんだよね。同じ状況の中で自然と距離が近くなったっていうか……」


「二人は一心同体」


「ああ、よほどつらいことがあったんだね……」


 一樹が何を想像しているかわからんけど、まあいいか。


 そのあと、主に僕と一樹でしょうもない会話をし、もともと口数が少ない玲はときどき喋るくらいだった。

 玲の容姿の変化について聞いてこなかった一樹は空気が読めるやつだと思う。



◇◇◇



 その日の放課後、玲が僕の席にやってきて一緒に帰るのかと思いきや、


「裏庭に呼ばれたからこっそりついてきて。終わったら一緒に帰る」


 あー、そういうことか。

 いきなり超絶美人が現れたもんね。

 そんなイベントも起きるよねえ。




「僕と付き合ってください」


「ごめん、他に好きな人がいる」


「うわああああん!!」


 玲に告白した男の子はあえなく玉砕し、泣きながら去っていった。

 相手は違うクラスの男の子だったようだ。

 見たことない。

 学年も違うかもしれない。



「お待たせ」


「うん。モテモテだね」


「今さら近寄られても困る」


「それもそうか」




 そんなことが何日も繰り返されて、大体の男子が玉砕しつつ迎えた金曜日の放課後。



「おい御堂、俺と付き合えよ」



 みんながまだ残っている教室で堂々と告白したのは、陽キャ代表の武藤零士。

 短い金髪を逆立てたイケメン枠だ。

 あと、武藤コンサルタントの御曹司。


「いや」


 はい玉砕。


 ていうか、『付き合え』、ってなんで命令形なんだ? 

 付き合うかどうかってお互いの納得がいるんじゃないのか。


「はあ? 断るの禁止な。せっかく顔がよくなって俺と釣り合うようになったんだ、泣いて喜ぶところだろ!」


「いや」


 陽キャ、っていうかただの俺様キャラだったのかな。


「俺のレベルは既に102でDランクの探索者だぞ! お前がくっついている逆崎より強い!」


「キャー! 武藤くーん! 私と付き合って~!」


 どこかの女子が便乗して何か言ってるところ悪いが、僕のレベルはそれよりも上なんだよね。

 玲に至っては4倍以上差があるのに。

 ていうか高校のクラスごときでレベルマウントを見るとは思わなかった。


 まあ気持ちはわからんでもない。

 高校入学時点で普通の子ならレベル10くらいなんだから。

 金持ちの家は小学校や中学校から冒険者を雇ったりしてパワーレベリングしてることもあるから、武藤も多分そんな感じなんだろう。


「俺と付き合わないと後悔するぞ!」


「だめ。翔、帰ろ」


「うん」



 恐ろしい顔でこちらをにらみつける武藤を置いといて、僕と玲は学校を後にした。



◇◇◇



「あら、婚姻届けかしら?」


 土曜日、僕と玲は市役所の休日窓口に書類を提出に来ていた。

 婚姻届け……ではなくて新しい里親を御堂君雄さんとするための書類だ。

 なお、前の里親は裁判所により里親の関係を解消していてもう赤の他人だ。


 両親が残してくれていたはずの財産の横領については別途刑事裁判で裁かれるそうだ。

 ざまぁ、と言いたいところだけど、個人的にはもう関わらなくていいから安心するほうが大きい。



 茶髪でノリの軽そうな当番の女性職員さんに書類を受け取ってもらって用事は終わり。



 帰りに喫茶店でケーキを頼んで、二人で話す。

 ケーキを待っている間も、玲は他の男の視線を釘付けにしていた。


 僕は念のため聞きたいことがあった。

 この一週間実はちょっと気になっていたんだ。


「あの……、玲?」


「なに?」


 少し首をかしげる様子も可愛い。


「僕たち…… 付き合っている、ってことでいいのかな?」


「もちろん。一心同体だから。同じ家にも住んでる。父様も了解済み」


 同じ家に住んでるけど、部屋は別々だ。

 これって同棲っていうのかな?


「そうか……」


「どうしたの?」


「んーん、何でもない。ケーキ食べよう。あ、この後ちょっといい? 家に帰って試したいことがあるんだ」


「いいよ、楽しみ」



◇◇◇



 喫茶店から帰ってきて、リビングにて。

 秘書の美城さんにも同席してもらっている。


「玲、ダン警での装備ってどうなってるの?」


「Cランクの支給品を使う。個人の持ち物を使う場合破損しても補償はない。私は武器だけAランクを使っていて、あとは支給品」


「わかった。美城さん、お願いします」


「はい。こちらでございます。Dランクのレザーアーマー、少し防御力を高める効果があります」


 あらかじめ美城さんにお願いしていたものだ。


「いまからこのレザーアーマーのランクに【リバース】を使うよ。見ていて」


「うん」


「【リバース】発動! レザーアーマーのランクを反転する!」

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