第4話 ヒーラーが確保できないのでエリクサーを作って自力で回復し、美人な同級生と仲良くなります

「翔くん、呼んだのはヒーラーの確保についてなのだが……」


 御堂さんのお父さんの書斎に呼ばれて何の話だろうと思ったが、あまり顔は明るくない。

 御堂さんのお父さんの傍には初老の執事が控えているが、そちらは身じろぎせず存在感を殺して佇んでいた。


「えっと、どうかしたのでしょうか」


「以前も話したが、日本には高位のヒーラー職がいない。現状では【ハイビショップ】が最高位なのだが、外国ならいる。そこで世界探索者協会(WEA)に融通してもらえないかと問い合わせているのだが……」


 苦りきった顔をする御堂さんのお父さん。


「はい」


「高校生の君に話すのもどうかと思うが、半分愚痴のようなものだ。日本はダンジョン攻略が遅れている。ダンジョンは各国に一つずつあり、日本の攻略階数は232階。おっと、君の攻略を入れれば250階かな。そしてアメリカ合衆国は322階。トップは露支那帝国の旧中国にあるダンジョンが487階まで攻略済み。その次が、旧ロシアにあるダンジョンの341階と続く」


 露支那帝国は、旧中国からウイグルやチベットなどを切り離し南北朝鮮を併合し、旧ロシアと合併してできた帝国だ。

 旧ロシアがウクライナを合併した際にアメリカを中心とする西側諸国が旧ロシアを非難したので、旧中国と手を組みアメリカに武力抵抗を行うと宣言し、あわや第三次世界大戦かというところに世界各国にダンジョンが発生。

 

 ダンジョン発生時には各地に発生したダンジョンの入り口であるゲートから魔物が出てきて、従来の重火器があまり効かなかったため一時的に全世界がパニックになりその対処に追われた。

 そのため、第三次世界大戦は起きないまま現代に至る。


 というのが中学校でも習う程度の近現代史の知識だ。

 当然僕も知っている。


「有り体に言うと、攻略が遅い日本は舐められているのだよ。WEAに問い合わせているが反応は芳しくない。連絡はしているが正直取り合ってもらえるかどうか不明だ。そもそも高位のジョブを持つ探索者はどこの国も外に出したがらない」


「ごめんなさい、僕のために……」


「いや、娘の恩人のためだ、これくらいはするさ。これでもJEAの理事だから国内ならそれなりに権力はあるつもりなんだがね……。私の目標は日本をダンジョン攻略の最先端に導くことだが、情けないことに目途が立っていないのだ」


 素晴らしい目標だと思う。

 僕なんか自分の生活にいっぱいいっぱいで何にも目標なんかなかった。


「そこで、別方面からアプローチをしようと思ってな。美城、アレを出してくれ」


「かしこまりました」


 執事さんは美城さんというのか。

 美城さんは薄いピンクの液体が入ったビンを机に置いた。


「こちらは、下級ポーションでございます。アイテムのランクはD、効果は体力を少し回復する程度のものでございます」


「美城はな、珍しい【鑑定士】のジョブを持っているのだよ。翔くん、いまスキルを使えるかね?


「ええ」


 ああ、なるほど。

 そういうことか。


「では、このポーションのランクにスキルを使用してみたまえ。無駄になっても構わんぞ。下級ポーションならいくらでも手に入るからな」


「はい。では、【リバース】発動! する!」


 下級ポーションが光に包まれ、その光が収まるとビンの中身は濃赤色の液体に変化していた。


「美城、鑑定を」


「はい。……エリクサー、アイテムランクS、体力を完全回復し、欠損等も回復する」


「おお、こうなるのか! エリクサーの現物を見ることができるとはな。一生見れないかと思っていたぞ」


「そんなに凄いんですか?」


「そうだよ、翔くん。これはダンジョンの400階以降にしか出ないことが分かっている。つまり現状では露支那帝国が独占しているのだよ。もしこれを欲しいといったら国ごとよこせと言われるだろうね。そして、下級ポーションからエリクサーを量産できることがわかれば露支那帝国は総力を挙げて君を拉致、もしくは殺害にくるだろう」


「そんな…… 冗談でしょう?」


「冗談ではないのだよ。なぜダンジョン警察があるかわかるか? 露支那帝国は他国に有能な探索者が現れると刺客を放って暗殺に来るのだよ。しかも証拠が残りにくいようにダンジョン内でな。日本もアメリカもEUも、なかなか攻略階数を更新できない大きな理由の一つがそれだ。さらに人口の違いもある。向こうは人口規模が日本の20倍以上もあるからな。能力のある探索者の数も多い」


「国連やWEAは何もしないんですか?」


「国連はとっくの昔に有名無実化している。日本もかつては分担金を払っていたが無駄なので払っていない。WEAの多数派は露支那帝国出身で占められている。露支那帝国の所業を表立って非難すると第三次世界大戦が起きるかもしれない。そうなると露支那帝国とその他の国の総力を挙げてようやく五分五分なのだ」


「なんか手詰まりっぽいですね」


「私はこの国の将来のためなんとか方法を模索しているのだが、この国の政府も露支那帝国にキンタマを握られているやつが多くてなんとも…… ああいかん、また愚痴になってしまった。それはともかく、さあエリクサーを飲みたまえ、ぐいっとな」


「こんな貴重なものを……ほんとにいいんですか?」


「当然だ。そもそも君のスキルによるものだから何の遠慮もいらない。量産できるなら大して貴重でもないしな」


 というわけで、僕はエリクサーを飲み干す。

 足がムズムズする、と思ったらみるみる肉が盛り上がってあっという間に膝から下が再生した。


「「おお……」」


 御堂さんのお父さんも美城さんも目を見開いて僕を見ている。


「やはり【リバース】はおそろしいな。若者風にいうとチートスキルというのかね? 翔くん、くれぐれも他人にひけらかすことのないように。それと美城、『偽装の指輪』を急ぎ入手するのだ」


「仰せのままに」


「『偽装の指輪』でステータスを偽ることができるからな。鑑定系のスキルで覗かれてもいいように、念のためだ、いいね、翔くん」


「わかりました」


 拉致や暗殺の可能性がある、って言われたら仕方ないよね。



◇◇◇



 夜になって、自分の足で立てることのありがたみを感じながら自分の部屋でゆっくりしていた。

 バタバタと廊下を走る音がして、僕の部屋の前で足音がとまりドアが開かれる。


「逆崎くん、足が戻った?」


 ダン警の仕事が終わって帰ってきた御堂さんがあわただしく部屋に入ってきた。


「そうだよ。おかげさまでね。感謝してもしきれないよ、御堂さん」


「玲」


「え?」


「玲って呼んで。翔って呼ぶから。私たちは一心同体」


「……玲さん」


「玲」


「……玲」


「ん。翔」


「明日から学校行けるね」


「そう。私もいっしょ」


「……ありがとう」




 部屋の前では御堂君雄が聞き耳を立てていた。


「青春だねえ」



◆◆◆◆◆◆


 世界探索者協会……World Explorer's Association

 ギルド本部的なもの。


 エリクサー生成は、下級ポーションの「少し」回復という部分を反転する、または即死級毒薬の効果を反転させることでもできますが、今回は本文の方法で行っています。

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