第3話 ブスな恩人をスキルで美人にして、欠損を治せるヒーラーを待つ
御堂さんのお父さんからオルトロスを倒した方法を聞かれたので、僕は素直に答える。
「僕がオルトロスを倒したのは、負傷したときに覚醒したユニークスキル【リバース】のおかげです。このスキルは、任意の対象を反転させることができるのです。このスキルによって、オルトロスの生死を反転させて倒しました」
「任意の対象、か。……使いようによってはさらに化けるな。翔くん、絶対に他に漏らすでないぞ。そのスキルは強すぎる」
「そうですね。問答無用でボスさえ倒せますもんね。ただ、消費魔力が100%なので切り札としてリバースを残すことを考えたら、魔力を使う他のスキルは事実上使えないですね」
「そうだが、それを補って余りある性能だ。聞かなければよかったと思うくらいにはな」
「なんかごめんなさい……」
「いや、そのスキルのおかげで我が娘が救われたのだ、なんということはない」
「そう、逆崎くん、私も感謝してる」
「御堂さん……」
「おお、そうだ翔くん、ご両親、いや里親について調べさせてもらったのだが」
「はい」
「翔くんの亡くなられたご両親は財産を残していた。翔くんが成人するまでの費用を優にまかなえるほどにね。しかし、あろうことか里親たちは自分たちの遊興のために使い、きみのためには一切使っていなかった。里親をあっせんした者もグルだったようだ。君はバイトして自分で生活費をまかなっていて、高校に入ってからは危険な荷物持ちを志願して報酬を得ていたそうだね」
「ええ、まあ」
「だが、これからはその必要はない。君の面倒は我が家で一生見てあげよう。とはいえ今すぐには実感が湧かないだろうし、その足では負い目も感じたままだろう。失った手足を再生できるヒーラーを探しているところだ。今しばらくは我が家に慣れるまで我慢してほしい」
「すみません、他に行くところもないのでお世話になります」
◇◇◇
御堂さんのお父さんと話を終えた後、御堂さんに連れられて僕に用意された部屋に案内された。
「この部屋、自由に使って」
「ありがとう、御堂さん。それで僕ね、ちょっと試したいことがあるんだけど」
「なに?」
「退院するまでの間、僕のスキルで何かできることはないかと考えていたんだ。御堂さんのユニークスキルをいじってみてもいい?」
「……いいよ」
「じゃあ行くよ。【リバース】発動、御堂さんのユニークスキル【氷神の呪詛】のうち顔を醜くする効果を反転する!」
すると御堂さんの全身が光に包まれる。
光が収まった後、そこには絶世の美少女が佇んでいた。
真っ白い肌に大きな青色の瞳。まっすぐ伸びた鼻筋の下に薄く赤い唇。
小顔になり各パーツのバランスが完璧に取れていて、神が創造したと言っても過言ではない。
「御堂さん……」
「逆崎くん、どうしたの? 私突然光に包まれて……」
「御堂さん、鏡ある? 自分の顔を見てみて」
「うん」
そう言うと御堂さんは、自分の手のひらに綺麗な氷を生成して自分を映し出していた。
「……これが、私?」
「そうだよ、御堂さんだよ。うまくいってよかった。これで恩返しができたよ」
「うわあああああ……」
少しして、御堂さんは泣き出した。
そしてゆっくりと自分の顔についてのコンプレックスを話しだした。
この顔で小学校も中学校もいじめられていたこと。
父様も母様も愛してくれていたが、こんな顔に産んでしまったと気に病んだ母は病に倒れ死んでしまったこと。
外見ではなく実力で判断されるダンジョン警察の仕事を引き受けて自分の存在を認めてほしかったこと。
「御堂さん、つらかったんだね……」
「うん」
何となく御堂さんの目を見つめてしまう。
泣き腫らした顔も可愛い。
吸い込まれそうな綺麗で澄んだ目を見ていると……
「こらあ、玲を泣かせるとはいい度胸だなあ!!」
叫びながらJEAの理事がドアを乱暴に開けて入ってきた。
どうやら御堂さんの泣き声を聞かれたらしい。
「あ、いえ、これは違うんです……」
「何が違うんだ!」
なんと言ったらいいか迷う僕。
「父様、私の顔を見て」
理事に背を向けていた御堂さんが振り返り、その顔を父親に見せる。
「!!!」
理事は絶句していた。
「玲、その顔は…… もしや【リバース】で?」
「はい、【氷神の呪詛】の効果の一部の反転を試してみましたが、うまくいきました」
「父様、顔を醜くするという効果は顔を美しくするという効果になり、【氷神の呪詛】は【氷神の祝福】に変化した」
御堂さんが自分に起きた変化を父親に説明していた。
うーん、効果が変わるとスキルの名称が変わることもあるのか。
「おお、なんということだ…… 命を救うだけでなく顔も変化させるとは…… また借りができたな。恩を返す方法が思いつかぬ」
「僕は御堂さんにボス戦で助けてもらった恩を返したつもりだったのですが……」
「謙遜するでない。神のごとき御業だな。スキルのデメリットのみを反転させられるとは。やはり他に漏れては危険だ。重ねて気をつけるのだぞ」
……この日の夕食はめちゃくちゃ豪華だった。
◇◇◇
『まだ学校に来れないの?』
スマホのメッセージアプリにクラスメイトの石田一樹くんからのメッセージが表示されている。
今のところ僕はダンジョンの事故に御堂さんとともに巻き込まれて、療養中ということになっている。
実際は、御堂さんのお父さんが僕の足を再生できるヒーラー職の人を探すまで待っているのだけど。
やはり、今の日本にはそのようなヒーラーはいないらしい。
回復系統のジョブは、【ヒーラー】→【クレリック】→【ビショップ】→【ハイビショップ】と成長していき、【ハイビショップ】なら手足を再生できる回復魔法を修得できるらしい。
【ハイビショップ】になれるレベルの目安は1500。
ただし、レベルだけあげてもジョブが成長するわけではなく、実戦経験も必要らしい。
要は強いパーティに着いていってレベルを上げるパワーレベリングだとジョブは成長しにくいということが分かっている。
そして、ジョブが成長しないと新しいスキルも得られない。
ただステータスが高いだけのでくの坊の完成、というわけだ。
なので僕のジョブも【見習い戦士】から成長していない。
次のジョブ【下級戦士】のレベル目安は100以上で、今の僕はレベル171。
でも実戦経験がほとんどないからジョブは【見習い戦士】のままだ。
一応三崎のパーティに荷物持ちで参加するときに護身用として錆びた剣を持たされていたが、ほとんど使ったことはない。
『うん、まだ体の調子がよくなくてね。復帰の見込みがまだなんだ』
メッセージアプリで一樹くんに返信する。
『そうなんだ。あんまり来れないと退学になるんじゃないか?』
『ん~、どうなんだろ? 学校から特にそんな話は聞いていないけど』
言われてみると少し気になる。
ヒーラーが見つかるのがいつかわからないけどあんまり長期になると休学、退学とかになるんだろうか。
仮に退学になっても御堂さんが面倒を見てくれる、っていうから気にしなくてもいいかな。ヒモじゃん。
「失礼します」
「あ、はいどうぞ」
御堂さんがダン警に行っている間僕の面倒を見てくれているメイドさんが入ってきた。
「君雄さまがお呼びでございますので、来ていただいてもよろしいでしょうか」
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