第2話 ユニークスキル【リバース】が覚醒してボスを瞬殺。ついでに金持ちに拾われる。

 ダンジョンの250階。

 ボスのオルトロスが片方の首が炎弾を吐いてきた。


「フリーズシールド!」


 御堂さんが左手を突き出して氷の盾を展開する。

 御堂さんの右手には青い槍が握られている。


 炎の弾を防ぎきったあと、御堂さんは駆け出す。

 同時に足元に氷を発生させ移動速度を上げてオルトロスに槍を突き出す。


 オルトロスの前足の爪に弾かれる。

 もう片方の頭から氷のブレスが吐き出される。

 御堂さんは槍を前面に構えて防御する。

 ユニークスキル【氷神の呪詛】の効果か、氷のブレスはほとんど効いていないようだ。

 つまり、オルトロスの片方の頭の攻撃はほぼ無力化できる。

 もしかするとワンチャン生き残れるかも?



 しかしそんな甘い希望が叶うはずもなく、炎弾と氷のブレスがあまり効かないと判断したのか、オルトロスはいったんブレスを止めて、巨体でもって御堂さんに突進して体当たりをかました。


 すかさず槍で防ぐも吹っ飛ばされた御堂さんは僕を巻き込んで後ろに倒れこむ。

 4倍近くレベル差があり、体格も違う敵の物理攻撃を食らい、御堂さんは息も絶え絶えだが、それでも僕を守るようにすぐに起き上がって前に進む。


「大丈夫、守るから……」


 か細い声で、しかし僕を安心させるように宣言する御堂さん。

 レベル15でしかない僕は黙って頷くしかなかった。


 体当たりのあと、オルトロスは片方の頭からいくつもの炎弾を連射してきた。


「フリーズシールド!」


 やはり氷の盾を展開して炎弾を防ぐ御堂さん。

 しかしシールドの硬さが弱まっている。

 炎弾が着弾するたび爆発音が繰り返され、シールドも色が薄れつつある。


 やがて、シールドの隅を押しとおった炎弾が僕の足元に着弾する。


「逆崎くん!!」


 御堂さんがこちらをチラ見して叫ぶ。


 思わず目を瞑る僕。

 目を瞑っても視界が赤に染まる。

 とともに熱い激痛が走り、僕はお尻から後ろに倒れこむ。




 おそるおそる目を開けると、僕の両膝から下はなかった。

 炎弾が直撃したわけでもないのに、余波で膝から下が燃え尽きていたのだ。


「うわあああああああ!!!」


 僕は自分の惨状を目にして、あらためて激痛を認識しなおした。

 目を開けなければよかった。

 僕のレベル低すぎのせいか。

 余波を受けているはずの御堂さんの足はなんともないようだ。

 


 死。



 御堂さんは守ってくれると言っていたが、やはりこうなるのか。

 こんな半端に痛いくらいならいっそのこと一息に焼き尽くしてくれれば痛みはなかっただろうに。


 八つ当たりのような感情を抱き激痛でもだえる僕の頭に、不意に電撃が走る。



(生命の危機のため、ユニークスキルが覚醒します。ユニークスキル【リバース】取得。効果は任意の対象を反転させる。魔力100%消費)



 頭に浮かんだ内容は、直感でこの状況を打開できるものと確信できた。

 そして思うままに初めてのユニークスキルを行使する。


「……スキル【リバース】! する!」


 すると、連続で吐き出されていた炎弾が来なくなった。

 御堂さんの向こうでは、ゆっくりとオルトロスの巨体が横転していく。

 ややあって、魔石とドロップ品を残してオルトロスの巨体は消えていった。



 少しして御堂さんがこちらを向き、寝転がっている僕に向かってしゃがんでくる。


「今のは逆崎くん? ……それより、足が!! しっかりして! 早く病院へ!」


「お願いします、御堂さん。それと、魔石とドロップ品を忘れないで……」


 荷物持ち根性が染み込んでいる僕はそれを告げて意識を失った。



◇◇◇



「……しらない天井だ」


 次に目を開けたのは病院の個室。


 白いカーテンが風に吹かれてなびいている。


 両足には真っ白い包帯が巻かれていて、あるはずの膝から下はない。


 やはり夢じゃなかったか……


 頭の中で、『ステータス』と念じてみる。



ーーーーーーーーーーーーーー

逆崎 翔 レベル171

ジョブ【見習い戦士】

ユニークスキル【リバース】

ーーーーーーーーーーーーーー


 めっちゃレベルが上がってる!! 

 レベル100を超えたからDランクだ。

 そして、ユニークスキルが覚醒したことも夢ではなかった。

 これはまあ救いだ。

 ユニークスキルは生まれながらに持っていることもあるし、なにかのきっかけで後から目覚めることがあるらしい、というのは知っていた。

 僕の場合は、死を強く意識したことだろうか。



 ガチャ、とドアが開くと御堂さんが入ってきた。


「……よかった、逆崎くん」


「御堂さん、ありがとう。僕を助けてくれて」


「違う。逆崎くんは足を失った。しかもボスを倒した。これから私があなたの面倒を見る」


「面倒を見るって……」


「日本には体を再生できるようなヒーラー職がいない」


「……そうなんだ」


「両親の許可はとった」


「早すぎだろ」


「逆崎くんは3日寝ていた。私も傷を治してすぐにあなたの両親のところに行った」


「あの里親は何て言ったんだ?」


「車いすの逆崎くんの面倒を見る気はない。私が引き取るなら万々歳だと。でも養育費は出さないって」


「……まああの親ならそう言うだろうな」


「控えめに言って屑だった。私は『二度と逆崎くんに会わせない』と言ってやった」


「ありがとう。僕の両親は早くに亡くなってね、今の里親に引き取られたんだ。でもあまり面倒を見てくれなくて、酒やギャンブルばかり。僕は中学生の時からバイトをして自分の生活費を稼いでいたんだ。給食ってすばらしいね。タダで食べれるんだもの」


「逆崎くん…… これからは私が面倒をみる。あ……でもこんなブサイクな顔いやだよね…… メイドにでも何でも面倒を見させる」


「メイドって…… 御堂さんどこかのお嬢様なの?」


「私は日本探索者協会理事である御堂家の一人娘。父様は私に甘い。それくらい可能」


 日本探索者協会(JEA)の理事だと…… 

 世界にダンジョンが突如現れた後、ダンジョンの恩恵を受けて財を成した者たちが設立した民間の団体。

 当然その協会の理事たちはまごうことなき金持ち。

 JEAは政府と対等な権力を持つとすら言われる。


「父様に屑とのやりとりを話したら怒ってた。縁を切らせてうちで面倒みると。だから、逆崎くん、安心してね」


「お、おう」


「退院したら父様にあいさつに行こ」


「お、おう」


「じゃあ、ダン警があるからまた」



 御堂さんが病室から出て行ったあと、僕は先ほどのやり取りを思い出していた。

 いろんなことが一気に起きすぎだろ。



◇◇◇



 さらに3日経って、退院の日。

 御堂さんに車いすを押してもらいながら、御堂家にお邪魔する。

 お迎えは黒塗りの高級車でした。



「父様、命の恩人の逆崎くん」


 書斎に通された僕と御堂さんは、御堂さんの父でありJEAの理事、御堂君雄みどうきみおと対面した。


「おお、君が逆崎翔くんか。娘の命を救ってくれたそうだね。まずは感謝を」


 そういって短髪オールバックのダンディが僕に頭を下げる。


 僕は慌てて弁解する。


「いえ、そんな、僕のほうこそ、御堂さんの氷の盾がなければ一瞬で蒸発していましたから、御堂さんこそ僕の恩人です」


「オルトロスを倒したのは逆崎くん……」


「どうやって250階のボスを倒したか教えてくれまいか。もちろんここだけの秘密にする。なに、私も探索者の端くれでな。大いに興味をそそられるのだよ」


 そう僕に尋ねたJEAの理事の目は、少年のように輝いていた。




◆◆◆◆◆◆


 日本探索者協会……Japan Explorer's Association

 異世界ファンタジーでいうとギルドみたいなもの。

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