詰まらない結末

『証拠は?証拠はあるんですか?』

 無感動に彼は言った。

 その言葉は俺の頭の中で、さながら壊れかけのアナログレコードみたいに、雑音だらけで俺の頭の中で響いた。

 俺は煙草を口から離し、足元の石畳に棄てて靴で踏み潰した。


 清浄な場所だのヘチマだのと綺麗ごとは言っちゃいられん。

 代わりに俺はズボンのポケットからUSBを掴みだした。

『・・・・こいつに全部入ってるよ。あのブログとやらにあった書込みがどこから書き込まれて、書き込んだ主が誰なのか・・・・IPアドレスってやらを解析すれば、その程度の事は分かるんだってな』


 ふいに、五十嵐睦夫は何かを懐から抜いた。

 ブローニング・ハイパワー。

 ベルギーで作られた名品のオートマチックだ。

 俺も迷うことなくM1917を抜く。


 すると、それを合図に、周囲の茂みから数人の男が飛び出してきた。

『馬淵睦夫、拳銃の不法使用で逮捕する!』 

 一人がそう叫んだ。

 俺の方を向いた奴の銃口は逸れかけたが、一発発射された。

 だが、次の瞬間、俺の.45ACP弾が奴の右肩を貫き、刑事達が覆いかぶさるように押さえつけた。


 そのまま奴を無理矢理立たせると、ブローニングを取り上げ、石畳の上を引きずるようにして連行していった。


『・・・・』

 俺は何も言わず、自分の拳銃を懐にしまう。

 後に残った刑事が何か言おうとしたが、いつの間にか現れたマリーが

『ご苦労様です。後は私に任せて』と言ったので、彼は渋々”吸い殻だけは片付けとけよ”と捨て台詞を残してそのまま去っていった。


『助かったわ。警視庁の恥が外に漏れなくて』

 マリーがそういうと、俺は彼女の手にUSBを渡してやる。

『惜しい事をしたわ。なかなかの切れ者だったんだけどね』

『・・・・切れ者だって感情に溺れりゃ、狂人にでもなるさ』

 俺は揉み潰した吸殻を拾い上げ、ティッシュで包んでポケットにしまう。

 畜生、まだ頭がくらくらしやがる。

 代わりにシナモンスティックを出し、口の端で齧った。


『ところで、今度の件のギャラはどうなる?依頼人は死んじまったし、やらずぶったくりってのは御免だぜ』

『心配しないで、私が身銭を切るわ』

 マリーはそう言って、肩から下げていたバッグから、銀行の封筒を出して、俺の手に握らせた。

『大して入ってないけど』

『構わんさ。どうせ今回は他人ひとの褌で相撲を取ったようなもんだからな。この程度で充分だ』

 俺は中身を確認せずにそいつをしまう。


 数日後のことだ。

 新聞の社会面の片隅に小さく、雑司ヶ谷の墓地で銃撃戦があり、男が一人逮捕されたことがベタ記事になって載っていた。


 俺はやっとワープロソフトで仕上げた報告書を所轄に出して事務所に戻ってくると、”本日休業”の札をぶら下げて屋上へと上がっていった。

”メールで送って貰ってもいいのよ。”マリーは電話でそう言ったが、ネットはやってないことを告げると”アナログ人間は困るわね”と、小さな声で笑った。


 俺はシャワーを浴び、Tシャツにスウェットパンツというラフな服装なりに着替え、テラスにデッキチェアを引っ張り出すと、冷蔵庫から持ってきたちりちりに冷えたハイネケンを抜き、一口やって大きくため息をついた。

 何がハイテクだ。

 俺は根っからのアナログ人間だ、文句があるか。


                               終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

復讐同盟 冷門 風之助  @yamato2673nippon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ