第22話 一葉の母親

「それにしてもビックリだよね。隣にいきなり引っ越して来るなんて」


「それは確かにな。.....俺も想像してなかった」


「まあでも遠矢さんを取る目的なら私の勝ちだけどね」


「何で勝ちって思うんだ?」


それはやっぱり遠矢さんとずっと一緒だからじゃない?、と言ってくる一葉。

俺はその言葉に少しだけ赤面しながらそっぽを見る。

キスをされた時を思い出してしまったのだ。

あれあれ?何を思い出して恥ずかしいのかなぁ?、と俺を見てくる一葉。

こらこら。茶化すな、と言いながら俺は一葉の頭に手を添える。


「.....それにしてもお前が花梨と仲良くなって良かったよ」


「それはどういう意味?」


「アイツってあんな感じだろ?だから友人とか雪子以外出来なかったしな」


「.....ああ。そういう.....」


「容姿もそうだけど頭の良さで妬まれていたらしい」


「そうなんだね」


顎に手を添える一葉。

それから、良く知ってるねそんな事、と聞いてくる一葉。

俺はその言葉に、まあな、と答える。

そして、結構色々教えてもらったしな、と言う。

その言葉に一葉は、やっぱりお兄ちゃんは信頼されているんだね、と言ってくる。


「.....そんな事.....普通は話さないと思う。だって.....自分の身が危なくなるかもしれないしね」


「やっぱそんなもんかな」


「そうだね。私でも話さないと思う。お父さんとか以外には」


「.....そうか」


一葉は漫画を読みながら俺の部屋のベッドで横になる。

俺はその姿を見ながら苦笑しつつ勉強をする。

因みに花梨だが.....今は雪子の家に遊びに行った。

その為に2人きりの時間であるのだが。

困惑するかと思ったがそうでも無かった。


「.....なあ。一葉」


「何?遠矢さん」


「お前は俺を好きになって良かったのか?それで正解だったのか?こんな過去が忘れられない難儀な男と」


「.....正解だったとか正解じゃないとかよく分からない。.....だけど私にとってはこれは人生で一番の良い出来事だったと思う」


「.....一葉.....」


「私は遠矢さんを好きになって良かった」


本を置きながら俺を見てくる一葉。

俺はその姿を見ながら、それにあの女と違って希望が持てるしね、と言ってくる。

あの女。

つまり一葉の母親だ。

確か咲枝さんという名前だったな。


「.....ずっと話さなかったな。それ」


「そうだね。思い出したくはないかな。反吐が出る」


「.....」


俺はシャーペンを置きながら一葉を見る。

一葉の顔は苦笑しながらも。

溜息交えている感じだ。

咲枝さん。


一葉の母親に当たるその人物は。

あまり聞いた事が無い。

それはどういう意味かというと。

一葉との過去をあまり聞いた事がない、と言える。


そして唯一言えるとするならば。

その咲枝さんがどれほど最悪だったかという点だ。

これは簡単。

実は咲枝さんは他に愛人を作って出て行ってしまった。


「まあそんな暗い話をしても仕方が無いからね。でも唯一言えるのはあの女を越えたいって点かな。幸せで」


「.....そうだな。その点は一緒だ。お前の幸せを願っているよ。お前にとって何が幸せなのか分からないけどな」


「私にとっての幸せは遠矢さんと一緒に居る事だね」


「それは嬉しいお言葉だな」


そんな感じで会話しながら一葉を見る。

一葉は本棚を見ていた。

そして指差す。

ねえねえお兄ちゃん。もし良かったらアルバム見ない?また、と言ってくる。

また違った新鮮さがあるかも、とも。


「.....そうだな。それも良いかもな。気分転換に」


俺はそう考えながら立ち上がる。

それからアルバムを取り出してみる。

アルバムは1年前の.....いや。


よく見ればそれ以上前の写真があるではないか。

1枚だけだが。

小学校時代に誰かと撮った写真だ。


「ああ.....これは.....お前と撮ったんだな。唯一の写真.....」


「.....そうだね。あの日の水溜まりの時に転んだ時に.....遠矢さんと一緒に感謝の気持ちで撮った唯一の写真だね」


「これがあったとはな」


「.....そだね。私も.....こんな場所に遠矢さんと一緒に撮った写真があるなんて驚き」


それ以外だと成長した時の一葉の写真しか無い。

俺は一葉を見る。

一葉は悲しげな顔でアルバムを見ていた。

失くした物は戻らない。

そんな感じの顔で、であるが。


「.....アルバムを捨てられたのもあったよな」


「一部ね。.....産まれた頃の写真とかは捨てられたかもね」


「.....そうか」


俺はその姿に複雑な顔を浮かべる俺。

それから一葉を見る。

何でだろう、と言いながら目尻に涙を浮かべる。

俺はその姿に思わず抱き締めてしまった。


「ちょ!?」


「大丈夫。.....俺が居るから。昔の事は.....仕方がないけど」


「.....そうだね。遠矢さん。.....そうだよね」


今がとても楽しいから。

と言いながら俺に笑顔を浮かべた。

そして寄り添って来る。

俺はその姿に少しだけ赤くなりながら、だろ、と寄り添う。

そして暫く俺達はそんな感じでアルバムを見ていた。


「.....あ。そうだ。ゲームしよう。遠矢さん」


「.....ゲーム?いきなりだな」


「物事はいきなり進めないとね。アハハ」


笑顔を浮かべる一葉。

少しだけ元気が無いが。

でもそれでも.....そこそこに気力はある様だ。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべてから頷いた。

そしてテレビゲームを出す。

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