第5話 思い出のマフィン

くそう。一葉の野郎め。

何と言うか気が狂いそうになる。

明日は学校だから平常心で居たいのにそれを.....妨害する様な。

そんな感じで誘惑というか.....そんな感じの事をしてくる。

俺は赤くならざるを得なかった。


「お兄ちゃん。何か思い出したら言ってね。一葉は部屋に居るから」


「.....あ、ああ」


「何時までも付き纏っていたらお兄ちゃんの邪魔になるだろうし。じゃあね」


「お、おう。分かった」


それから俺は一応、一葉と別れてから。

自室でラノベを見つめる。

ラノベの背表紙を、だ。


そして顎に手を添えてみる。

ここにあるラノベは.....有名なラブコメばかりだ。

というか俺自身が何故か知らないがラブコメしか読めない感じなのである。


それは変態だから、という訳ではない。

何故か知らないがラブコメしか読めないのだ。

なので恋に飢えている訳でも無いのにラブコメがいっぱいある。


「しかし記憶が無くならなくて良かったもんだ。趣味であるオタク文化も吹っ飛んじまったら悲しいもんな」


俺は考えながら目の前のラブコメを適当に散策して選択してから。

そのまま読み始めた。

因みに宿題とかあったが.....それはしなくて良い事になった。

学校が配慮したものだ。

一葉が連絡とかしたみたいだな。


「全くアイツは.....極端すぎる」


俺は考えながらそのままラノベを読み始める。

そして30分ぐらいが経過した時。

ノックがした。

それからハッとして顔を上げてからそのままドアに近付く。

するとドアが開いた。


「お兄ちゃん♪」


「.....どうしたんだ?一葉」


「15時のおやつだよ。私が作った」


「.....!?」


お前.....、というか。

本当に甘々になってないかコイツ。

だってお前.....15時のおやつとか作るタイプじゃない。

俺は!?と思いながら聞く。

コイツが料理している姿なんぞ見た事が無い。


「.....な、何を作ったんだ?というか何か作れるのか?」


「まあマフィンぐらいなら」


「.....それは結構作れる方じゃないか?凄いな」


「.....内緒で練習したからね」


何の為の?誰の練習なんだ、と聞いてみると。

俺は一葉に聞いてみると。

一葉は赤くなりながら、誰でも良いでしょ、と言う。

俺は?を浮かべながらマフィンを見る。

確かに美味しそうに焼けているではないか。


「.....入るか?」


「.....あ、うん。あ、それからお兄ちゃん」


「.....何だ?」


「ラノベ貸してくれる?」


俺はその姿を顎が落ちそうな感じで見る。

何故.....コイツがラノベを所望する。

いや割とマジに。

何かドッキリなんじゃないの?

俺は青ざめながらも隠しつつ、わ、分かった、と返事をする。


「やった。お兄ちゃん有難う」


「.....聞いても良いか。何故ラノベを読もうとする?エッチだったんだろ俺」


「.....確かにそうだね。.....でも私.....は.....」


赤くなりつつモジモジしながら俺を見てくる一葉。

何なんだこの変わりようは.....不気味って言ったら駄目だけど不気味だ。

俺は思いながら目の前の一葉に溜息を一つ。

そして、分かった、と言いながら、面白そうなラノベがあったら貸すから、と言う。

するとその言葉を聞いてから目を輝かせた。


「約束だよ!」


「.....ま、まあそうだな。分かった」


それから鼻歌を交えながら部屋の中に押し掛けてくる一葉。

そして笑みを浮かべながらマフィンと紅茶らしき物を置いた。

俺はその姿を見ながら苦笑する。

だけど不思議と悪い気はしなかった。


「お兄ちゃん。早く早く!」


「お、おう。分かった分かった」


そして俺も腰掛ける。

すると対面に一葉が座った。

俺はその姿を.....何だその。

あくまでお見合いの様に感じてしまい。

赤面をせざるを得なかった。


「何故15時のおやつになったんだ」


「何故ってそれは.....お兄ちゃんの為に.....作りたかったから」


「.....?」


「お兄ちゃんがマフィン.....好きだったから」


「.....」


確かにな。

俺の父親がよく作っていたんだ。

マフィンを。


男だからおかしいって思うだろ?

でも案外.....美味しかったんだそれが。

俺は思い出しながら涙が浮かぶ。

何というか.....事故にさえ遭わなかったら。


「.....お兄ちゃん.....!」


「.....ゴメン。情けないよな。兄なのに」


「そんなの関係無いから。そこまで思い出すなんて思ってなかった。御免なさい.....!」


一葉は俺の元にやって来る。

それから俺を思いっきり抱き締める。

そして俺の頭を撫でた。

俺はその胸の感触を受けながらも。

赤くならずに涙を流していた。


「.....お前は悪くないから。一葉。.....有難うな」


「.....思い出そうとさせただけだから.....悪かったと思う。御免なさい」


「.....でも良い刺激になった。.....有難う。一葉」


「.....うん」


涙声になっている。

俺はその言葉に安らぎを得ながら笑みを浮かべる。

そして一葉を引き剥がしてから。

俺は一葉を見る。


「一葉。悲しくなっても仕方が無い。マフィン食べようか」


「.....うん。お兄ちゃん!」


そして俺達はマフィンを食べ始める。

その味は.....相当に美味かった。

親父の作ったものとは違ったけど。

味は俺好みに調節されていた。

一葉め.....こんなに上手だなんて。

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