05話.[仕方がないよね]
「明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「おう」
流石に夜中に来るということはなく、朝に彼女はやって来た。
相変わらず薄くて寒そうな格好をしているものの、彼女的には全く気にならないらしく今日も元気だった。
「みちるちゃんは起きているかな?」
「もう十時だからな、顔は見ていないが起きているだろ」
「それじゃあ行ってきます」
やたらと年下といようとする理由はこの前言っていたか。
嘘臭えとかそういう風に片付けた俺だが、同級生などが相手よりも本当に安心して一緒にいられるのかもしれない、女友達のことを意地でも認めないのもそういうところからきているのかもしれなかった。
「兄貴、晃ちゃんのお家に行ってくるわね」
「あれ、菜月は?」
「私がもうお家を出るという話をしたらしくしくと泣いていたわ」
気をつけて行ってこいと言ってから二階に移動してみると、この前の妹みたいに部屋の前で体操座りをしている菜月がいた。
なんか面倒くさそうだから触れずに部屋に入る、そうしたら当たり前のように入ってきた。
「まあ、私のために予定をずらしてもらうわけにもいかないから仕方がないよね」
「そうだな」
「だから加福君に相手をしてもらおうと思って」
「ゲームでもやっていろ」
こっちは後回しにしていた課題をやってしまうことにする。
今回は少しだらだらとしすぎた、まあ、ここにいる彼女が原因でもあるわけだが別に一方的というわけでもなかったから責めることはできない。
だからまあこうしてできた時間を使うことでさっさと終わらせてしまおうという作戦だった。
「よっ、ほっ、とりゃあ!」
女子といてもこうして緩い雰囲気だから警戒するだけ馬鹿だったのかもしれない。
自分ですぐに惚れる人間ではないとか言っておきながら変なことをしてきていて呆れた。
学校に友達がいてくれるというのは大きいな、だからこうやって本来なら暇になってしまうときもそうならずに済んでいる。
「これ、難しいね」
「ああ」
「でも、楽しいよ、加福君のお家に来てよかった」
こっちは課題を終わらせたから一階に戻ることにした。
テレビゲームというわけでもないし、じろじろ見ておくわけにもいかないから仕方がない。
あとは腹が減ったのもある、作れば食ってくれるだろという考えもあった。
「つか、両親もいるはずなのに静かな家だな」
でも、会話とかよりも沢山寝ることで疲れをなんとかしたいということは強く伝わってきた。
それなら邪魔をしても悪いから家を出てもいいかもしれない、静かな家だと普通の声量でも届いてしまうからだ。
まあ、両親が頑張ってくれているおかげでこうして家に住めたり学校に通えたりしているわけだから多少は動いてやらなければならないというやつだった。
「菜月、飯を食ったら外に――寝ているのかよ」
最近のゲームは電源を完全に落とさなければ続きからすぐに再開できるから片付けて彼女を起こした。
「ん……」
「行くぞ、飯を作ったから食ってくれ」
「んー……」
冬だとすぐに冷めるから腕を掴んで一階へ、……今日だけで何回往復することになるんだろうか。
ただ、食べてしまえば決めていた通り出るつもりだからすぐにちょっとあった不安も消えた。
「美味しい……」
「食べたらどこかに行こうぜ」
「なんで? 私はここでも十分楽しめているよ?」
よく言うぜ、妹が出て行ってしまったから仕方がなくここにいるんだろ。
別にそういうのはいらない、いま俺に必要なことは世辞とかではなくここから離れることだからな。
「両親を休ませてやりたいからさ」
「あ、そっか、じゃあ私のお家でいいね」
は、え、はぁ、それでも言うことを聞いてもらおうとしているわけだから仕方がないことか。
自分は聞いてもらっておきながら言うことを聞いたりはしないなんて屑にはなりたくないから従おう。
前にも言ったように金をなるべく使いたくないのもあるし、ありがたい提案だと今回も片付けておけばいい。
「まさかあの十分ぐらいで寝ているとは思わなかったがな、みちるが晃と過ごして拗ねているのか?」
「ううん、ま夜中に家族と初詣に行ってきたから眠たかったんだよ」
「なるほどな」
敢えて夜中に外に行くとか物好きかよ、こっちを誘ってこなくて本当によかった。
だってどうせ誘われたら負けて受け入れていただろうから、そういうところが簡単に想像できるから本当に安心した。
……なんでこういうときは誘わないんだよと言いたくなってしまっている俺もいるにはいたが、もう終わったことだから口にすることはしなかった。
「加福君ってすぐに櫻井君のことを出してくるよね」
「そりゃまあ、お前が露骨な態度を見せてきていたからな」
いまの俺なら協力してやりたいという考えになっているから彼女にとっても悪いことではないはずだった。
一人で無理なら誰かに頼む、イケメンとかだってどういう状態かによって頼ったりするだろうから恥ずかしいことではない。
まあ、一人で全部頑張ろうとするのもそれはそれで悪いことではないが、無理をしたところで基本的に上手くいかないようになっているから変えていくしかないんだ。
「それはこの前違うって否定したと思うけど」
「年下好きとも言っていただろ、だからなんにもおかしい思考じゃない」
「年下の子といると安心できるというだけで私の好みは違うよ?」
「じゃああの子の兄か?」
「もう、それだと加福君が知っている子が全員そういう対象みたいになっちゃうよ」
食べ終えたから洗い物をして強制的に終わらせる。
この目で直接見た相手ではないと適当に言うこともできないからこれまた仕方がないことだった。
「はは、真剣な顔でやりすぎだろ」
だが残念、そんなに必死でやったところで手に入れられる人間はごく一部だけだ。
残りはとにかく貢いで終わるだけ、終わった後に残るのはやらなければよかったという気持ちだけだった。
というか、家に行くんじゃなかったのかと内で聞いたが意味はなかった。
「だってこれが欲しいから」
「落とせる自信がないならやめておけ。というか、金を使いたくないはずなのにゲーセンを選ぶとかどうかしているぞ」
「気になってしまったんだから仕方がないんだよ」
新年早々行く場所でもないだろという話でもある。
仕方がないから晃でも呼んでやるか、今日の目的は妹と過ごすことだったんだから無駄にはならないだろう。
「今年もよろしく!」
「お、おう、このゲーセン内でもはっきり聞こえるってやばい声量だな」
「それじゃあ一緒に遊ぼう!」
「な、なんでそんなにハイテンションなのかは知らんが、菜月やみちるに付き合ってやってくれ」
野郎と遊ぶのなんていつでもできる……って、彼の場合だと異性と遊ぶことだっていつでもできてしまうから俺の相手をしようとしてくれているのか。
よく友達でいられたな俺らは、あと、一度もむかついたりすることもなかったからどれだけいい奴なんだよという感想になった。
「菜月さん、兄貴は借りていきますね」
「うん、いまは戦っているからね」
俺なんか借りてどうするんだ、出かけようとか自分から誘っておきながら大して金だって持ってきていないんだぞ。
「今日はコインゲームをやりたい気分かな」
「晃ちゃんに合わせるわ」
そして借りておきながら放置して二人で盛り上がるのがこの二人らしかった、客は全然いないから近くにあった椅子的な物に座って見ておくことができるのは幸いだったが。
二人だけで過ごしたかったところを無理やり呼んだのが俺だからな、今回もまた我慢しなければならないやつだ。
「そうだ晃、菜月から聞いたか?」
「うん、学校に来てくれるかもしれないんでしょ?」
「ああ、よかったな」
正直、怖がって家から出られないような存在には全く見えなかった。
なんならずばずば正論を吐いて相手を喋ることができなくしていそうだったのになにがあったんだか。
「本当によかったよ、これでまた仲良くすることができるからね」
「友達だったんだな」
「みちるちゃんともそうだけどね」
妹は手を止めて「これでまた晃ちゃんがあんまり相手をしてくれなくなるわ」と、彼はそれを聞いて「そんなことはないよ」と返していた。
「二人は……」
「「うん?」」
「俺も百円ぐらいは使って遊ぶわ」
こんなこと聞いたって意味がない、遊ぶことでどこかにやってしまおう。
なんとなく離れて一人で遊んでいると意外にもすぐになくなる、なんてことにはならなかった。
とはいえ、ずっとやりたいなんて気持ちもないから一定の感覚で投入、うんまあ、そう悪くはない。
こういうところに行くこと自体があんまりない自分にとっては新鮮で地味に楽しくて、今年はいいスタートを切れたななんて内で呟いたときのこと、
「加福先輩」
「え? あ、こんなこともあるんだな」
先輩の妹が声をかけてきた形となる。
どう考えても菜月、晃、みちるに話しかけてから来ただろうから三人もいるぞとか言うことはしなかった。
「ちょっと外に行きたいんですけど」
「おう、じゃあこれを晃達に渡してくるよ」
いやいや、渡してくるよじゃねえよ、俺なんか連れ出してどうするんだ。
ただまあ、やはり余裕であることはよく分かる子だった、だってそうでもなければゲーセンになんかは来られないだろ?
「それでどうした?」
「お久しぶりです」
「ん? ああ、誰かと勘違いしているんだな」
「いえ、私は加福先輩とお話したことがあります」
「だからそれはこの前のことだろ?」
彼女はゆっくりと首を振ったが、それは俺がしたいことだった。
幸いだったのは先輩も来てくれていたこと、格闘していたはずの菜月も連れてきてくれたから一対一で困るなんてことにはならないことが確定した。
「五年生のときに加福君と一緒に過ごしたみたいなんだ」
「昔から一緒にいるように見えるかもしれませんが晃とだって六年のときから関わり始めたんですよ?」
「夢望はそれよりも早かったってことじゃないかな」
友達はいても男子としか関われなかったとかそういうことはない、いまの菜月みたいに女子とだって普通に関われていた。
だが、俺は菜月と違って同級生とか先輩と過ごすことの方が多かったため、自分から近づいたとは考えられない。
年下の友達が晃しかいない時点で分かりやすい気がした。
「私のときみたいに夢望ちゃんを助けたんじゃないかな?」
「仮にそうだとしても一緒に過ごしたことにはならないだろ」
今回なんとかなっているのは菜月がこうして来てくれているからだ。
自分から一回も近づいていないことからそのときの俺もそうしたことだけはよく分かるというもの、というか、小学生のときだけ陽キャラだったら気持ちが悪いから一貫していてよかったとしか言いようがない。
「あ、そもそも夢望ちゃんは話したことがあるとしか言っていないよね」
「じゃあそうやって助けたとして、そのときに会話をしたってだけか。はぁ、先輩が変な言い方をするから……」
「ごめん、でも、一瞬でも関わったことには変わらないから『お久しぶりです』となってもおかしくはないんじゃない?」
「そうですね」
特に意味もないが久しぶりだなと返しておいた。
ただ、残念ながら俯かれてしまって逆効果にしかならなかったみたいだったが。
「夢望ちゃんのお兄さんっていいわよね」
「すまん」
「あ、そうじゃなくて、単純に男の人として格好いいなって」
格好いい兄でいられなくてすまない、ではなく、これはまた違うところから変わっていくみたいだった。
「って、晃は……」
「私と晃ちゃんはそういうのじゃないから」
す、すまない、だが、これまで我慢してきたのもあって気になって仕方がなかったんだ。
このまま聞かないままでいるといつか爆発することは確定だったから助かった、晃にはやはり申し訳ないが。
「一応聞いておくが、先輩と特別な関係になりたいのか?」
「いますぐにどうこうって感じではないけど、お兄さんみたいな人とお付き合いができたら楽しそうよね」
「そうか、教えてくれてありがとう」
飯作りも終えたから家を出た。
あの鈍感そうな少年にも聞いておく必要がある、聞けないと眠れなさそうだから諦めてもらうしかなかった。
「はい――おお、今年になって初めて一人でここに来てくれたね」
「晃」
「あ、もしかして崇英はみちるちゃんが夢望ちゃんのお兄さんに興味を抱いていたこと、知らなかったの?」
いちいち全部言わなくても分かってくれたのはいいが、まさか知っていたとは。
あと、相手が自分のことを好きだったらなどと妹は考えることをしなかったんだろうか? 自由とはいってももう少しぐらい気をつけておくべきだと思うが。
「し、知っていたのか」
「うん、よく言っているからね。ああ、心配して来てくれたんだ?」
そりゃあれだけ仲良くしている二人を見てきていたんであればこうするだろう。
菜月だって同じようにするだろう、しておかないと落ち着かないから駄目なんだ。
「ま、まあな、だってクリスマスに誘うぐらいだから」
「あれは前々からしていたからだったけど、崇英がちゃんとこっちのことも考えてくれているのは嬉しいなあ」
いや、嬉しいとか言っている場合ではなくてな? ……でも、こうして平気そうなら大丈夫と判断してもいいんだろうか。
「どうせならこのまま帰らないで寄っていてほしいな」
「あ、じゃあ少しだけ上がらせてもらうわ」
妹には先に食うよう言ってあるから待たせてしまうなんてことにはならない、仮に待っていたとしてもそう言って出てきているわけだから気にしなくていい。
このままの流れで「実は菜月先輩が好きなんだよね」などとならないだろうか。
そうしたら俺はちゃんと動く、あいつには確認がしやすいから両片思いということが分かればもっと動きやすくなるというもんだ。
「はいお茶、冬でもちゃんと飲まないと駄目だからね」
「おう、サンキュー」
「それでさ、崇英は菜月先輩が好きなの?」
きたと思ったら想像とは少し違う内容のものだったが、ここからでもやりようがあるからがっかりしたりはしない。
先程も言ったようにちゃんと知ることができないと今日気持ち良く寝ることができないから粘ってみせる。
「もしそうだと言ったら?」
「もしそうだったら応援させてもらうよ、ただ……」
「はっきり言っておけよ。いまここには俺しかいないし、自由に言いふらすような人間でもないぞ」
他の人間からどう思われようがどうでもいいが、妹や彼からそのような人間だと判断されるのは嫌だった。
「そうでなくても時間が減っているのに崇英との時間が減るのは嫌だなって」
「なんだ、菜月のことが好きだとかそういうことじゃないのか?」
「違うよ」
「そうか、じゃあ面倒くさいドロドロの三角関係にならなくてよかったよ」
先輩については知らないということにしておこう。
知らなかったままの方がいいということもある、あと、知りたいことは知ることができたからもう動きたくなかった。
結局冬休みは家にこもるということができていなかったため、学校が始まったいまは教室からなるべく出ないと決めたんだ。
なら無理だしな、俺は来てくれる菜月の相手だけをしておけばいいことになる。
「よし、そろそろ帰るよ」
「今週の日曜日に行ってもいい?」
「どんどん来い、どうせ俺は暇人だからな」
それに両片思いではないことが分かったいまとなっては前よりも自然にいられる。
ちゃんと聞いておいてよかった、我慢をすればいいことばかりではないんだ。
家に着いたら自作の飯を食べて風呂へ、風呂に入っているときもいつもよりテンションが上がっていた。
「電話? もしもし?」
「いま大丈夫だった?」
「おう、気分もいいから一時間ぐらいは付き合うぞ」
「そっか、それならよかった」
って、菜月からも聞いておかなければ駄目か。
メッセージでさり気なくはできなくなってしまったから直接聞いてしまう。
「お兄さんが好きだとか櫻井君が好きだとかそういうことはないよ」
「そうか、じゃあこっちでも三角関係とかにならなくてよかったよ」
「そうかな?」
「え、あ、やっぱり先輩は菜月のことが好きだってことなのか?」
黙るなよ、でも、相手の本当のところなんて妄想とかになってしまうから違うとか断言することはできないか。
今回も知りたいことは知ることができたため、約束通り彼女が飽きるまでは付き合うことにしたのだった。
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