04話.[出るわけがない]
「本当に一人でいいの?」
「気にするな、晃と楽しんでこい」
「うん、じゃあ行ってくるわね」
やっと行ってくれたから余計なことを言われずにゆっくりとすることができる。
まさかこの歳にもなって一人でいいのかなんて言われるとは思っていなかった。
情けない兄ですまない、はぁ、そのことで余計なダメージを受けた俺は家でのんびりとではなく、結局自分が決めたことを破って出てきていた。
「あ、来てくれたんだ」
「そりゃあな」
出るつもりもなかったのにこうして出てきているのは彼女が関係している。
そりゃそうだろう、そうでもなければ敢えて寒い外に一人で出るわけがない。
クリスマスにそんなことをしたところで虚しくなるだけだし、デメリットしかないから虚しくなっていただろうな。
「みちるちゃんは櫻井君と過ごしているんだよね? クリスマスに一緒に過ごすってすごいね」
「おいおい、そんなことを言ったら俺らはどうなるんだよ」
「私達のこれはあくまでお友達としてだから違うよ」
いや、あの二人だってどうせ友達として過ごしているだけだろ。
俺もそうだが彼女も結構恋愛脳みたいだ、男女で一緒にいるからって別にみんながみんな思い合っているというわけでもないのにさ。
「そうかい、で、どうするんだ?」
「なにか食べに行こうと思ったんだけど今日は混んでいるかもしれないし、なにか買ってどっちかのお家で食べたいなって一人で考えていたんだ」
「え、お前――菜月の家に行くのは無理だぞ、絶対に警戒されるからな」
「何回も行っているから緊張することもないし、じゃあ加福君のお家でいいね」
え、おい、これって家に食材があるのにいちいち金を出してなにかを買わなければならないということなのか? 彼女が頑固なせいで俺は無駄な出費をしていくことになるのかと内でため息をついた。
ただ、受け入れてしまったのはこちらだから今回もわがままは言えない、だから買う物なんかは全部任せることにして一人こうして内側をごちゃごちゃすることでなんとか抑えているという状態なんだ。
「二人きりでも問題は全くないしね」
「余計なことを言わずに食いたい物を買ってくれ、後で食った分は払うから」
「うん、分かった」
どうせ冬休み中か冬休みが終わったら晃のところに戻るだろうからそれまでは相手をしておけばいい。
すぐに勘違いをして惚れるような人間でもないから去られたとしても特別なにかが変わったりはしないだろう。
俺なんてそんなもんだ、そういうことに関してはよく妹に呆れられるぐらいには適当だった。
「あ、持つのに」
「早く行こうぜ」
だが彼女は意地が悪いんだ、余計なことを言うなとぶつけても数分後にはこうして忘れてしまっている。
晃が鈍感だなんだと考えた俺だが、彼女にも原因がある気がした。
思わせぶりなことをしておいてちょっと時間が経過したら「そうだっけ?」などと平気で言ってしまいそうな怖いモンスター。
「そういえば男の子の格好をしているときの私って少しも女には見えなかったことになるのかな」
「俺は人の顔をなるべく見ないようにしているから男子の制服だから男と考えた、だが、他の人間なら分からないぞ」
日常で女子がコスプレをしているなどという考えにはならない、そういうのもあって俺に問題があるわけではない。
「可愛いとか奇麗とかとは遠い存在だということだよね」
「知らん、ただ、お前のことが好きな人間だってどこかにはいるだろ」
見た目だけに惚れる人間ばかりではないからちゃんと誰かと交流しているんなら、ではあるが。
まあ、女子なら余程のことがない限り真面目にやっていたら多少は興味を持たれるはず……だろ。
前も同じようなことを考えたような気がするが、悪口を言うような人間でもないから影響を受ける奴だって……なあ?
「無駄に悪く考えて自滅するなよ」
家に着いたから鍵を開けて中に入る、……玄関で待っていても何故かすぐに彼女が入ってこなくてまた開けることになった……。
「やっぱり帰りたくなったのか?」
「……いまさらになって恥ずかしくなっただけだよ」
「恥ずかしい? 別になにもしないぞ」
「は、入るよ、加福君は寒い場所が苦手なんだからね」
そうか、晃と二人で過ごしたことでその違いなんかに気づいてしまった可能性があるのか。
こちらがなにもしなくてもただ一緒にいるだけでそのために動けるというのはいいが、あくまでそれは妹と晃に恋愛感情がなかった場合の話だ。
妹があの優しい少年を好きではないんなら、あの少年がこのよく分からない女子を好きでいてくれたんならいちいち考える必要もないんだが。
「あ、軽いと思ったら飲み物を買ってこなかったんだな」
「あ!」
「はは、そんな大声久しぶりに聞いたぞ」
「ごめん……」
「まあいいだろ、食べ物は十分あるから物足りないということもない」
温めた方が美味い食べ物をどんどん温めて並べていく。
何気に毎年あの二人は二人で過ごしているからこうして二十五日に色々買ってくるのは久しぶりのことだ。
「お前が沢山食べろよ」
「ちゃんと加福君も食べてね」
「ああ、払うつもりでいるから食わないと損だしな」
結局、こいつは無自覚に俺のために動いてくれているようなもので……。
だが、今度は情けなさとか恥ずかしさなどから言うことはできなかった。
「送ってくれてありがとう」
「おう、それじゃあ風邪を引かないようにな」
「あ、連絡先を交換してほしいんだけど」
「急に来られるよりもいいか」
それだけで終わったから一人で歩いていると晃及び妹のカップルと遭遇した。
「あれ、なんで兄貴が一人で外にいるの?」
「あー」
「なるほどね、別にみちるちゃんに隠さなくたっていいのに」
「そういうことか、兄貴がちゃんと合わせるなんて珍しいわね」
おいおい、なんか協調性がないみたいに聞こえるからやめてほしい。
迷惑をかけたい人間ではないから合わせなければならないときはちゃんとする、近くで見ていて知っているはずなのにここにも意地が悪い存在がいた。
「で、どうだったんだ?」
「みちるちゃんと一緒だったから今年も楽しかった」
「よかったな、これまでそうしてきたんなら続けたくなるもんだよな」
「うん、ただ、来年はどうなるのか……」
「そんなに先のことを気にしたって仕方がないだろ」
受験とかでもないんだからいまだけを見ておけばいいんだ。
そのことで怒る人間は多分いない、いちいち言ってくる人間がいたら面倒くさいことだけはよく分かる。
「ここまででいいよ」
「え、どうせならお家まで送るよ」
「な、なんか兄貴がいると恥ずかしいから……」
そうか、それなら高校生は空気を読んで先に帰ることにするか。
痛いクリスマスプレゼントだった、単純に身内がいるから恥ずかしかっただけなんだろうが我慢していたいつものなにかが出てしまったような気がする。
直前まで幸せな時間を過ごしていたからこそなんだろうな、はぁ、気づかなかったふりをして逃げておくべきだったと後悔してももう遅い。
「か、勘違いしないでよ?」
「ん? なんの話だ?」
面倒くさい存在にはなりたくないからちゃんと電気を点けた状態でベッドに寝転んでいたものの、何故か慌てた感じの妹が来てしまった形になる。
「兄貴といるのが嫌とかそういうのじゃないから……」
「なんで急にそんな話になるんだ? 最近、みちるはちょっとおかしいな」
「だ、だって先に帰っちゃったから……」
「それは違う、菜月と過ごしたことでやらなければならないことが残っていたからだよ。ほら、流石に手伝ってもらうわけにはいかないからさ」
正直、家に着いて片付けをしていたらどうでもよくなってしまったのもあるんだ。
だってどうせずっと仲良くとはできないだろ? いままでが奇跡のようなものだったんだから我慢するしかない。
「あ……」
「今年も楽しく過ごせてよかったな、これからも晃とは仲良くできるといいな」
「あ、兄貴とだって仲がいいままでいたい」
「ありがとな、みちるがいてくれてよかったぜ」
だからまあ三角関係みたいにならないことを願っている。
とりあえず満足できたみたいで風呂に入ってくるみたいだったから妹はここから消えた、別になにかいけないことをしているというわけではないがこのタイミングでスマホの電源を点ける。
「はぁ、なんで何回もありがとうなんて言ってくるんだこいつは」
寧ろ礼を言わなければならないのはこちらの方で、相手から言われる度にお前も言えよと囁かれているような気分になるんだ。
あれか、顔を見ないで済んでいるいまなら言える……か? 別にどんなに怖い人間だろうと感謝ぐらいはするだろうから俺が言ってもなんにもおかなしなことではない……はずだ。
『いまさっきまで楽しく過ごせていたから寂しい』
『親はいないのか?』
『両親のことは大好きだけどそれとこれとは違うんだよ』
『ま、明日から冬休みなんだからゆっくり休めばいい、おやすみ』
あー、なんかこういう普通のやり取りをするのも久しぶりだな。
両親とも妹もしないから打ち込むのにも時間はかかるが、若者らしくいられている気がする。
ただ、彼女と仲良くしすぎるのは危険だと思うため、ある程度のところで止めておかなければならなかった。
つか、結局礼を言えていないままだった……。
「ただいま」
「ん? なんだ、晃だけじゃなくて俺の相手もしてくれるのか?」
「うん、単純に私がいたいだけだけど」
「はは、そうか、なら頼むよ」
中学生をいつまでも寝させないわけにはいかないから二十二時までと決めて楽しんでいた。
やはり妹というだけで全く違う、妹とまではいかなくても菜月と昔から一緒にいられているんであればもう少しぐらいは変わったことだろう。
「兄貴、あの人とはどうだったの?」
「普通だったな、悪い雰囲気になることはなかった」
「兄貴に興味があるから今日はお誘いしたんだよね?」
「んー、どうだろうな、俺みたいに一人で暇だったからなのかもしれないぞ?」
「それなら女の子のお友達をお誘いすると思う」
俺だって何回もそう言ったが今回も躱されてしまった形になる。
なんで意地でも認めないんだろうな、普通に楽しそうに過ごせていたのに毎回見せるあの反応は正直女友達達が可哀想だ。
不仲になって一緒にいられなくなったとかそういうことには流石になってほしくないため、俺ならいつでも暇人だから優先できるときはちゃんと女友達を優先してやれと内で呟いたのだった。
「早く干して――早く干して戻るか」
寒さも酷くなってきているし、なにより見えてはいけない者が見えてしまっていたから休む必要があった。
まあ、そろそろいい加減自分が言ったことぐらいは守らなければならないからなにかおかしい行動をしようとしているわけではない。
「おはよう、今日も偉いね」
「俺の友達的存在は朝から馬鹿なことをしているみたいだがな」
「連絡をしても断られそうだったからこうして来たんだ」
「昨日受け入れたんだぞ? ただの休みに来るぐらいでいちいち拒むわけがない」
見られているのも気になるから中に入ってもらうことにした。
いつもならすぐに終わらせるところだが、なんかすぐに戻る気にはなれなくてゆっくりと干していたら妹と彼女に怒られてしまったが。
「そっか、みちるちゃんは今日も部活動があるんだね」
「はい、でも、好きだからなんにも辛くはないです」
「偉いね、よしよし」
「ありがとうございます」
敵視しないでとりあえずは普通に対応をしてみるということができるというのも偉いところだった。
妹には俺みたいになってほしくない、来てくれて嬉しいのに疑って距離を作るような人間にはなってくれるなよ。
「あ、菜月さんに頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」
「私にできることならするよ」
大して関わりもない妹が彼女に頼みたいこととはなんだろうか? 「晃ちゃんから離れてください」とかだろうか。
そういうことをなるべく言わないようにするのが妹とはいえ、本当に相手のことが好きなら取られたくないだろうからゼロではない。
なにが一番嫌って、中途半端に近づかれることだろうしな。
「兄貴をお家から連れ出してください、そういう理由でもないと冬休み中はずっとお家にいてしまいますからね」
「分かった、私に任せてよ」
「はい、これでやっと部活に集中できます」
妹に無駄に心配をされている兄がここにいた。
いやでもさ、部活に入っているわけでもなく連休に入ったんであればなるべく家から出ないようにするのが正解だと思うんだ。
遊びたい人間にだけ遊ばせておけばいい、あと、誰にだって連休中に遊びに誘える人間がいるわけではないんだぞと言いたくなる。
とにかく部活に行かなければならない時間までは彼女と楽しそうに会話をしていた妹だったが、時間がきて家から出て行った。
「菜月、俺は金を使いたくないんだ」
名前が好きみたいだから名前で呼べば言うことを聞いてくれる。
頼まれて受け入れたからってしたくもないことをするべきではない、彼女だって休んでおくべきだろう。
「私もそうだよ、なにかがあったときのために貯めておかなければならないから」
「だったら出かけることはできないだろ? 寒い中、ただ歩くだけなのはお互いにとってメリットがない」
「でも、みちるちゃんから頼まれちゃったから」
不登校女子生徒の件があるせいでただ大人しく存在しているということはできないことになるのか。
「よし、それなら友達の兄の家に行こう」
「え、なんで急に?」
「まあいいだろ、それなら家から連れ出したことになるからお前だって約束を守ることができるだろ」
あのときは敬語を使わなかったが、何気にあの人は先輩だったんだよなあと呟く。
だからこそだ、生意気な人間とかそういう風に判断されないように上書きをしておく必要がある。
もっとも、たまたま俺が菜月といたから来ただけでそれ以外ではどうでもいいだろうがこれは俺のためにするんだ。
「はい――あ、加福君」
真横に彼女がいるのに敢えてこちらの名字を出すというのも面白いところだった。
本当なら迷いなく彼女の名前を呼びたいところだが、本人に勘違いをされたくないとかだろうか。
先輩は先輩で苦労していそうだ、だってこいつって鈍感そうだしな。
「先輩、この前はすみませんでした」
「え? ああ、いいんだよ」
「というわけで上がらせてもらってもいいですか?」
「大丈夫だよ」
休日だから、家族しかいないから、そういう理由でも出てきているわけではなさそうだった。
いや、もしかしたら隠れているだけの可能性はあるものの、まあ、やはり家族でも無理なのに他所の人間に連れ出すことなんて不可能に近いわけで。
「あ、
これは事故……だよな、いや、そうでないと逆に困ってしまう。
なにより俺が過ごしづらい、だが、上がらせてもらっておきながらすぐに帰ろうとするのは不自然だからできない。
だから自分が他所の人間なのに戻ってくれと願っていたんだが、慌てて戻ったりはせずに兄の横に静かに座っただけだった。
「久しぶりだね、夢望ちゃん」
「うん」
「あ、今日はいきなりごめんね」
「大丈夫、それよりこの人」
「うん? あ、私と同級生の加福崇英君だよ」
名前を覚えていたらしい、結構細かいことを忘れがちなのになんかおおとそちらに意識が向いた。
別に悪いことをしようとしているわけではないから気にする必要はないよな、先輩と彼女に任せておけばなんにも問題もなく終わるだけだ。
「そろそろ学校に行こうと思う」
「そうなの? そっか」
こういう顔は初めて見た、って、なんで俺はさっきから……。
「こうして全く知らない先輩といられているのに同級生のことを怖がっていても仕方がないから」
「うん」
「……やっとこれで晃君にもお礼ができる」
あちゃあ、結局ごちゃごちゃすることは確定しているみたいだった。
頑張れみちる、ライバルは多いが晃のことだけ考えてやっていってくれ。
やはり兄ができるのはこうして内で応援しておくことだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます