03話.[諦めるしかない]
「おいなに不安になっているんだ、これで三日連続だぞ」
「だ、だって中間テストとは違うから……」
なんならもうあと一時間で終わるというところまできているのに大袈裟なやつだ。
どうすればテスト程度でここまで不安になれるのか、だって今後の人生に思い切り関わってくる受験とかではなくただのテストなんだぜ? 正直関われば関わる程、分からなくなる女子だった。
「俺のところに来たってこう言われるだけだと分かっているはずだろ? 朝とかに時間を調節して晃になにかしてもらえばよかったのに」
「迷惑をかけるわけにはいかないから、あと、中学生の男の子にそんな情けないところは見せられないよ」
「そうかい、大して仲良くもない男子のところに行くのも微妙だと思うがな」
都合が悪いときだけ利用するのはやめようや、なんかこう一貫してくれていないとこちらとしても困る。
晃のことを考えられるのはいいが、それで巻き込まれるのはごめんだ。
そういうことに関しては極端であれよ、仲良くしたい男子がいるならある程度の仲になれるまではその男子と過ごせよと言いたくなった。
「っと、もう教室に戻るわ、頑張れよ」
「うん……」
テストが終わったら半日で終わる毎日になるし、それが終われば冬休みとなるから付き合わなくて済むようになる。
そのままどこかに行ってしまえ、結局、一緒にいられて嬉しいとかよりも困ることの方が多くなるから大して嬉しくもないしな。
高校では一人でいいんだ、んで、たまにだけでも晃や妹と過ごせればそれでいい。
そのため、最高の時間を過ごすためにもこれをさっさと終わらせなければならないわけで、俺のやる気はMAX状態になっていた。
まあでも、空回りするのは避けたいから落ち着かせて問題に挑むことにした。
「お疲れ様」
「お前もな」
んー、終わったら終わったでこのなんとも言えない感じはなんなんだろうな。
半日同士をくっつけてその分、冬休みを長くしろよとかそういう文句はいつでも内側に存在しているが……。
「じゃ、気をつけて帰れよ」
「え、まだ残るつもりなの?」
「ああ、どうせ妹もまだ帰ってこないしな」
自分のためだけに飯を作るのは面倒くさいから完全下校時刻までゆっくりさせてもらうことにする。
なにをどう言おうが寒いままだし、時間をずらしてもやはり寒いから無駄な抵抗はやめた形となる。
「ねえ、どうすれば櫻井君ともっといられるのかな」
「中学生と高校生という時点であれなのに、部活があるから難しいな」
「連絡先を交換したらなんとか……ならないかな?」
「まあ、お前次第だな、お前が晃にとって魅力的なら時間を作ろうとするだろ」
でも、クリスマスはもう妹と過ごすと決めてあるから諦めるしかないな。
大人の対応というやつをしなければならない、それは晃についてもそうだ。
約束をしておいて結局他の女子と過ごすことにした、なんてことになったら流石に兄として黙っているわけにはいかないわけだ。
「分かったよ、今日連れて行ってやるからもう俺のところには来るな」
「え、それとこれとは――」
「終わりだ終わり、さ、ある程度の時間までは適当に自由にしていようぜ」
部活があっても冬に合わせて時間が短い、だからやたらと待つなんてことにはならないからあっという間にその時間はやってきた。
「はーい、あ、おお、珍しいね」
「こいつが晃に興味があるんだってよ」
世間話をしに来たわけではないからさっさと出してしまうことにした。
なるべく外にいたくもないから仕方がない、つか、なんで俺はこうなのか……。
「そうなの? だけどそれはまたなんで……」
「知らん、じゃ、後は任せたぞ」
もう本当にこんなことは最後にしてほしい、頼むぞおい。
で、家に帰るとソファの上で寝ている妹がいた。
なんにも掛けていないからとりあえず掛けておいたが、部屋があるのにわざわざここで休もうとするのはなんでだろうか。
「兄貴……?」
「俺しかいないだろ、今日はどうしたんだ?」
「お部屋に行くと一人になるからここで寝ていただけよ」
「そうか、晃が関係しているわけじゃないんだな」
「晃ちゃん? 全く関係ないけど……」
なら余計なことを言わなくていいか、というか、自分のために連れて行っておきながら心配そうにするのは違う。
突っ立っていたら座るよう誘われたから座ってみたが、何故か体重をこちらに預けてきた。
やはりなにかあったなこれは、普段の妹ならこんなことはしない。
「テストお疲れ様、これで私も相手をしてもらいやすくなったわ」
「ありがとな」
「私達もやっと部活の生活に戻れるわ」
「部活が好きなんだな、あ、冬でもちゃんと水を飲めよ?」
さあ、飯でも作るか。
今日は邪魔なテストも終わって気分がいいから頑張ることにしたのだった。
「なんか最近、晃ちゃんがあの人の話ばかりするのよ」
半日で終わるのをいいことに連日、家で幸せな時間を過ごしていたら妹が現実に戻してくれた。
連れて行った俺が言うのもなんだが、意外と影響を受けやすい人間なのは確かなようだった。
それは晃もあいつも同じこと、出会ったばかりなのにさも昔から一緒にいるみたいに聞こえる。
「そうか、興味を持ったのかもしれないな」
「少なくともそれでもクリスマスの約束は守ってほしいわね」
「守るだろ、約束をしているのに適当にする存在じゃない」
これはまあ願望みたいなものがあるのを認めるしかない。
あまりするべきではないが、こうであってほしい的な考えは誰にでもあるだろう。
家族が悲しんでいるところなんて見たくないから頼むと内で呟く。
「晃ちゃんがお付き合いを始めたらあまり一緒にいられなくなってしまうわね」
「そういう可能性はゼロではないな」
「そうしたら兄貴に相手をしてもらえばいいか」
妹は立ち上がると「部活で疲れたからお部屋で休んでくるわね」と言って消えた。
妹が帰ってきたからにはさあやるかと動こうとしていたのになんかそれでやる気が下がったものの、言い訳をするなとやる気のない俺を倒して飯作りを始めた。
やはりこの前から怪しいんだ、リビングで昼寝をしたりすぐに部屋に戻ったりするところが正にそうだ。
俺よりも長く一緒にいる存在だからなんにも影響を受けないというのは不可能……らしい。
「みちる、飯ができたぞ」
反応がないからそう何回も声をかけないで待っていたんだが、残念ながら出てきてくれることはなかった。
だからって部屋に突入なんてこともできないから諦めて一人で寂しく食べていく。
まあ、ちゃんと起こした結果だから怒られることはないだろう。
眠たいなら食欲なんかよりもそっちを優先するだろうしな、あと、食べたいタイミングでなければそういう気分にはならないってもんだ。
「ん? 俺の部屋の前に座ってなにをしているんだ?」
風呂から二階に戻ってきたら妹がそこにいて苦笑する。
一応四回ぐらいは声をかけた結果があれだったのに静かにしていたら出てくるってなんだよと言いたくなる。
「兄貴に意地悪をされたから仕返し」
「俺は起こしに行ったがな、でも、起きているなら丁度いい、飯を食ってこい」
「兄貴も来て」
「ふむ、残されるよりはいいか、行こう」
そうしない内に両親も帰ってくるし、両親と会話をしている妹を最近は見られていなかったからこちらとしても丁度いいのかもしれなかった。
それでも圧にならないようにソファに座ってのんびりとしておく、テレビはなんとなく点けずに過ごしていた。
「兄貴はさ、あの人が取られちゃってもいいの?」
「どんどん違う人間といてくれたらいいな」
「強いんだね、私は……」
はっきりとしてくれなくちゃ動いてやることもできない、こうして途中で止められたりしたらそうかとすら言ってやることができない。
ただの友達としてではなく恋愛感情を持ち込んできたなら晃だって一人でなんとかしようとするだろうから結局、俺は見ているだけしかできないんだ。
「ごちそうさまでした、今日も美味しかった」
「おう、食べてくれてありがとな」
「お風呂に入ってくる、それで出たら今日はもう寝るね」
待て、テストも終わってしまったからそれだと暇になってしまうぞ、……終わっても嬉しさというのがあまりなかったのはそういうことか。
「お、丁度いいところで電話をかけてきてくれたな」
「崇英、いまからお家に行ってもいい?」
「それなら迎えに行くよ、どうせみちるはもう寝てしまうしな」
ラッキー、あと優しすぎるだろ晃は。
あ、でも、変なことをするなよと言われる可能性はあるか。
相手のことをもっと考えて行動しないと、などと晃なら言ってきそうだった。
「崇英――うわ!?」
「大丈夫か?」
「支えてくれてありがとう」
残念だった点は俺の家でではなく彼の家に行くことになったことだ。
でも、妹が寝てしまえばこっちの家になんか興味はないだろうから、そもそもこっちは巻き込んだ身だから文句は言えない。
「菜月さんのことなんだけど」
「なつき……あ、そういうことか」
「あ、好きになったとかそういうことじゃないよ?」
でも、多分頼まれて名前で呼んでいるという面白い状態だった。
受け入れる気がないなら呼ばない方がいい、余計なことを言われないように気をつけて行動するべきだろう。
ただあれだ、かなり慣れている彼でも失敗をするということなら俺の選択は間違っていなかったことになるわけだ。
「できるのかどうかも、それがあの子のためになるのかどうかも分からないけど協力して頑張ろうという話になったんだ」
「ああ、そういう……」
とりあえず彼に任せているという話をあの女子はしていた、で、自分のしたいことを優先した結果がこれ、別に彼が悪いわけではないが……。
「ん? なんでそんな顔をするの?」
「多分、晃は鈍感とか言われるタイプなんだろうなって思ってな」
「え、そんなことみちるちゃんにだって言われたことはないけど……」
そんなの我慢しているだけだ。
何回も言うが彼が悪いわけではないが、これからも被害者的な存在が増えそうなのは確かだった。
「テストの結果、どうだった?」
「普通だな、お前は?」
友達みたいに聞いたのが間違いだったのか彼女は俯いてしまった。
もう解散になっているから放置して帰ることはできるが、今日はそうしようとは思えなかった。
いやほらこいつも苦労しているわけだし、まあ、こうして来てくれて助かっているわけでもあるからな。
終わりにしたはずなのに変な状態ではあるものの、いまそんな細かいことはどうでもよかった。
「ご飯っ」
「食いに行きたいのか? それなら夜に頼んでみるしかないな」
とはいえ、中学生を夜に連れ出すというのはそれなりにリスクがある。
男子でも変わらない、頼んだからってなんでも理想通りにはならないんだ。
せめて晃達が高校一年生であってくれたら、なんて考えることはある。
それだったら俺だってもう少しぐらいは協力……的なことをしていたかもしれないからだ。
「お昼ならご両親や妹さんに迷惑をかけなくて済むからいいでしょ? なにもお高いお店に行こうとしているわけではないんだから」
「いや、まだ終わっていないからな」
気になり始めるとそういうことすらも頭の中からなくなってしまうんだな、と。
これぐらい他人に対して一生懸命になれたことはないから羨ましいようなそうではないようなという感じだった。
「ん? え、終わっているからこそこうして違うクラスの私達はお話しできているんだよ?」
「は? あ、俺を誘っていたのか? 紛らわしい言い方をするなよ」
「えぇ、いきなり櫻井君のことを出すわけがないでしょ……」
いや、この前もどうすれば櫻井君云々と話に出してきたのが彼女だが。
忘れてしまうのは心配になるな、まだ若いのにどうしてこうなった。
一つのことに集中してしまうと他に意識が向かなくなってしまうんだろうか? もしそうなら危ないからそれこそ守ってくれるような異性がいてくれるといいな。
「でも、その徹底ぶりはいいのかもな、ま、俺の前でいちいち名字呼びをする必要なんかないが」
「まだ名前で呼んでいないけど」
「そうかい、まあ、じゃあ暇だから行くか」
前も言ったように自分のためだけに作るなんてことはしたくないから感謝しておけばいい。
「付き合ってもらっているわけだから加福君がお店を決めて」
「いやいいよ、お前――さっきからなんだよ?」
その直前まではこっちを見ているくせにお前と言った瞬間に顔を俯かせるんだ。
嫌なら去ればいい、そもそもいきなり変えたというわけでもないのに変な反応を見せてくる存在だった。
「……お前って言われたくない」
「仕方がないだろ、名字も名前も知らないんだから」
寒いのに外で延々平行線になるなんてこともなく、彼女は店を選んでくれたから助かった。
久しぶりのことだったから結構悩んだものの、これだという料理をすぐに決めることができた。
今度行くときは妹がいてくれるといい、と言うより、頑張っているから美味しい飯を食べさせてやりたいという気持ちが強かった。
「加福君」
「決まったのか?」
「菜月だよ」
だからなんだよ、そんなことどうでもいいから早く決めてくれ。
いい匂いを嗅いでいたら早く食べたい気持ちになったんだ、違うことで時間を無駄にしたくない。
「で、どれを頼むんだ?」
だが、いちいち感情的になるわけにもいかないからあくまでいつも通りを心がけることにした、なんとなくこうした方がこういうタイプは来なくなるんじゃないのかという考えがあった。
「あ、これ、かな」
「おう」
ささっと注文を済ませて目の前に座っている彼女に意識を戻す、彼女もこちらを見ていたが喋りかけてこなかったから変な時間が続いた。
「なあ、晃とそういうつもりで仲良くしたいのか?」
「私が櫻井君に近づいた理由はあの子のことで協力する必要があるからだよ、それははっきりと本人に言ってあるよ?」
「じゃあまあ、勘違いさせないように気をつけないとな」
「勘違い?」
「お前がそのつもりでも相手次第で変わることだから」
自由とは言っても身内が関わってくるとそれで片付けられなくなってしまう。
その気がないのに相手をその気にさせた結果、本当にその存在のことを好きな人間の気持ちはどうなるのかという話だ。
まあ、こんなのは勝手で、それこそ関係ないお前がなにを言っているんだと指摘されてしまうかもしれないが、気をつけておいた方がいいことには変わらないわけだ。
「菜月だって」
「はいはい、あ、料理がきたみたいだな」
自分の名前が大好きらしい。
それで運ばれてきた料理を食べていたわけだが、美味いとかそういうことよりも洗い物をしなくていいという点が俺の中で大きかった。
出てくるまで喋って待っているだけでいいし、食べ終わってからも金を払えばすぐに離れられるというのがなんとも言えない気持ちにさせてくれた。
しかし、これに慣れてしまうのは危険だとすぐに分かった。
金持ちというわけでもないからそもそも外食ばかりの毎日に、なんてことはできないと分かっていてもだ。
「美味しかった」
「だな」
「付き合ってくれてありがとう」
「別にいらないぞ」
こうして寄り道をしてもまだ十三時過ぎか、これから退屈だな。
掃除とかをする気分でもないし、テストも終わったのに勉強なんかしたくない、となると俺にできることはかなり限られたことになる。
ゲームもあるがなんか違うんだよな、いつから俺はこんなに贅沢思考をするようになってしまったんだ……。
「っと、いきなり止まってどうした?」
「菜月って呼んでくれるまで帰れないから」
もうこのまま延々平行線でいることの方が時間もつぶせていいんじゃないかなどという考えが出てきたものの、そうすると体が冷えるばかりだから諦めて名前を呼んで帰ることにした。
まあ、そう悪い時間ではなかったからやはり感謝をしておくしかなかった。
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