02話.[なんじゃそりゃ]
「もうすぐ初めての冬休みがくるね」
「ああ、寒いから冬休みは引きこもるよ」
買い物ぐらいには行く必要があるが、それ以外のことで出る必要は全くないからいまからわくわくしていた。
少なくても連休があるというだけで救われる、多分、冬休みを作った人間も寒さに弱かったんだろうと想像している。
「え、冬休みも加福君のお家に行こうと思ったんだけど」
「もう少しぐらい考えて行動をしろ」
晃も妹もそれなりに部活があって一緒にいられないからその場合は二人きりということになってしまうわけで、そういうことはなるべく避けたかった。
俺は彼女を、ではなく、弟を助けたんだ、だからこの件は弟が俺に礼を言ってしまえば終わってしまう話なんだ。
まあ、礼を言ってほしくて助けたわけではないから? 別にこのまま離れてくれればいいわけなんだが……。
「だって遊べないとつまらないよ」
「女子の友達と遊べばいいだろ? この前、一緒に楽しそうにしていただろ」
「あれは違うんだよ」
声のトーンだって分かりやすく変わっていたのに変なことを言う女子だった。
「
お、これがと期待したものの、弟ではなくて残念な気持ちになった。
というか、恐らく彼女の名前を呼んでいるのにどうして無視をしているのか。
「お、おい、呼んでいるが」
「……あ、あっちに行ってって言って」
「なんでだよ、自分で言えばいいだろ?」
ふーむ、この感じだと元彼とかそういうことだろうか。
もしそうなら気まずいわな、彼女が振った側なら尚更のことだと言える。
だが全くそんなことはなく、ただの幼馴染とかだったらどうしてこういう反応になるのか、というところで。
「加福君、ちょっと菜月を借りてもいいかな?」
「そりゃお前とこの女子次第だろ」
「そうだよね。というわけで菜月、ちょっと来てほしい」
って、そこは大人しく従うのか、本当によく分からない女子だ。
こちらにできることはないから適当に時間をつぶしていた。
「ありがとう、言いたいことも言えたから戻るよ」
「いちいち俺に言うなよ」
「ははは、最近の菜月は加福君と進んで一緒にいるからさ」
少しだけ歩いてから「許可を取る必要がありそうだったからね」と。
なんじゃそりゃ、それなら許可をどんどんしてやるからこのよく分からない女子をコントロールしてもらいたい。
「あの人はね、友達のお兄さんなんだ」
「あ、元彼とかではないのか」
「え? はは、ないよ、まだ一回も付き合ったことがないんだ」
う、嘘臭え、付き合うとなったタイミングで実はねと教えられそうだった。
別に隠す必要なんか微塵もないのにな、それでもと言ってくれる人間を探した方がよっぽど自分のためになるというもんだ。
「それで? それでも内容はどうせ付き合ってほしいとかそういうのだろ?」
「ううん、お兄さんの妹が――私の友達が学校に通えていなくて……」
「あ、そういうやつか、つまり協力してくれとかか」
「うん、でも、怖くて出られないらしいんだよ」
結局、無責任に大丈夫などと言ったところで安心できるのはそのときだけ、一人になれば不安になって振り出しに戻ってしまう。
俺達にできることはなにもないと言っても過言ではない、そういうのは家族に頑張ってもらうしかない。
「学年は?」
「えっと、中学二年生」
「は? 友達って言うから高校二年生とか一年生とかかと思ったが……」
しかも中学二年生ってもしかしたら晃や妹の友達だった可能性もゼロではない。
「結構年下の子とも関わりがあってね。……というか、同級生とか先輩とは仲良くできなかったから年下の子頼りだったというか……」
いやいや、彼女のそういう情報はどうでもいいが。
ちょっと帰ったら聞いてみるか、もちろん、聞いてみるだけで終わらせるつもりだから面倒くさいことにはならない。
「そうか、まあ、いつか出てきてくれるといいな」
「うん……」
終わりだ終わり、これ以上この話を続けても彼女の暗い顔を見ることになるだけでメリットがない。
ここはもう突っ伏すことでなんとかしてしまおう、で、その作戦は成功したことになる。
放課後になってしまえばこっちのもんだ、家を知られていることだけが気になることではあるが無理やり付いてくるような人間でもないからな。
「あれ、また部活が唐突に休みになったのか?」
「違うよ崇英、もうテスト週間になっているからだよ」
「ああ、そういえば俺らももうくるな」
学力については問題がないから冬休み前の邪魔なことの一つでしかなかった。
テストぐらい家で受けられるようにしてくれ――と言おうと思ったが、それだとカンニング仕放題だから無理か。
じゃあ少なくとも冬に学校に行かなければならないシステムを……って、自分の理想通りにはどう頑張ってもならないんだ。
「ん? あれ、いつの間に女の子のお友達ができたの?」
「え? あ、丁度いい、晃の学年に通えていない女子がいないか?」
「僕らの教室にいるよ、GWが終わってから来なくなっちゃったんだよね」
はあ、まさかそこまで近い存在だったとは、あと、やはり晃がいてくれてよかったというやつだった。
とりあえずそのことは晃に任せて一人家までの道を歩いて行く。
俺がしてやれることはしたから後は彼女達次第だと言えた。
「入るわよー」
「どうした?」
「勉強を一緒にやりましょ」
「おう」
実はこの数時間前に「晃ちゃんとやった方が間違いなく捗るわ」なんてことを言ってくれていたわけだが、もう忘れてしまったみたいだった。
まあ、相手が俺とか晃ならその場合その場合で意見を変えてもいいか。
だが、そういうのは癖になりやすいから気をつけてもらいたいところだった。
「ねえ、晃ちゃんから女の子といたって聞いたんだけど」
「一緒に帰っていたわけではなかったがな」
晃に言われて振り向いてみたら電柱の後ろに隠れていたんだ。
寒さにいつも意識を持っていかれているとはいえ、足音が聞こえてくるはずなのに全く分からなかった。
もし俺に聞こえないよう努力をしていたということなら時間の無駄だとしか言いようがない。
「クリスマス、兄貴はどうするの? あ、私は晃ちゃんと過ごす予定だけど」
「家にいるぞ、クリスマス=終業式だからな」
つまりそれは冬休みが始まったのと同じだから出ないように意識するよ。
行くのはいいがそのまま泊まってこいと言っておいた。
晃なら送りも迎えもしてくれるだろうが、なるべく夜に出ない方がいいのは確かなことだからだ。
武器とかを持ってこられたら男であろうと守ることはできなくなるからな。
「なんだ、テスト勉強じゃなくてお喋りがしたかったのか?」
「うん」
「はは、素直に認めるなよ」
というか、彼女と晃がどこまで進んでいるのかが気になり始めた。
でも、聞くのはどうなんだ? なんかお前は自分のことに一生懸命になれよと言われてしまいそうで……。
や、別にやることをやっていようがそれはいいんだ、醜く嫉妬とかもする人間ではないからよかったなと言ってやることはできる。
たださあ、全く関係ないのにどんな関係なんだと聞いてくる兄って嫌だよな……?
「兄貴、これから時間がいっぱい経過してもちゃんと相手をしてね」
「ど、どうしたんだよ」
「言いたいことも言えたからお部屋に戻るね」
離れて行くフラグだろこれもう、で、俺はじっと留まっているしかないんだ。
まあいいか、ずっといてくれるなんて考える方が傲慢ってもんだ。
こちらは勉強をしている最中だったから手が止まっていたから再開、寝るまで後一時間頑張ろうと向き合っていた。
「ふぅ」
「テスト勉強お疲れ様」
「おう、おう?」
あー、見間違いかな? 晃がソファに座っているように見えたんだ。
ちなみにそうではないことを「さっきお家に入らせてもらったんだ、たまには崇英とお喋りがしたくてね」と本人がすぐに教えてくれた。
自惚れでもなんでもなく彼は俺のことを気に入りすぎだ、俺なんかただそこら辺にいる暇人男子高校生だというのに。
「なんで今日先に帰っちゃったの?」
「あの女子と仲良くないんだよ」
「そうなの? でも、それならなんで崇英を追いかけていたんだろう」
俺の中ではもう終わったことなのにあの女子のせいで続いてしまっているからなんでは俺が聞きたいよ。
「それと不登校の子のことだけど」
「無理だよな、俺達になにかができるんであればもうとっくにやっている」
「うん、難しいのは確かだね」
俺達が引っ張り出そうとすればする程、多分その子は余計に怖くなって自分の狭い世界に留まろうとすると思う。
だから俺は動かない、今日のあれはあの女子から逃げたくてしていただけだ。
「でも、諦めたくないな」
「ふっ、晃は凄えよ」
その調子で俺の妹相手にも一生懸命になってほしいところだった。
内でただ言っているだけなら迷惑もかけないからありだろう。
「崇英、お布団で寝かせてもらうね」
「敷いてやるよ」
客間があるからそこで寝てもらうことにした。
終わったら夜更かしをしている意味なんかないからこちらも部屋に戻ってベッドに寝転ぶ、朝まではすぐだった。
「……家事でもするか」
「ん……」
「見なかった及び聞かなかったふりをしよう」
あれか、中学生でもまだまだ甘えたい年頃なのかもしれない、流石に異性である妹のところには行けなかったから俺のところに来たんだと片付けておこう。
「おはよう」
「こんなに早い時間からなにをしているんだ」
まだ暗いぐらいなのに彼女が玄関前に立っていた。
うわあとか情けなく叫ぶことはしないが、そうでなくても外ということで冷えているのに余計に冷える結果となった。
「一緒に登校したくて待っていたんだ……っくしゅ!」
「中に入っていろ」
「こうして見ておくからいいよ」
言うことも全く聞いてくれねえ、中学生の二人の方がしっかりしているのがはっきりと分かっていく。
とにかく洗濯物を干して中に戻ると「暖かいね」などと呟く彼女。
「おはよう……」
「おう」
「ん? あ、晃ちゃんの言っていた人ってその人?」
「友達ではないがな」
俺よりも得意な中学生二人に任せたい。
でも、そんなことを言おうものならださいから自然とそうなるように願っておくことしかできなかった。
「加福君、ある程度やったら付き合ってほしいんだけど」
「友達に頼め」
「お願い」
じゃ、邪魔臭え、あと、勉強をやる気がないんであればどこかに行ってほしい。
晃から「崇英はちょっと適当なところがあるよね」と言われている人間よりやる気がないのはどうなのかと言いたくなる。
あと、仮にこちらが受け入れたとしてもずっと真顔なことが気になっていた。
「つかさ、なんで友達の兄貴から逃げようとしたんだ?」
「私がなんとかしてみますって言ったのに結果が出ていないからだよ」
「別にお前が悪いわけじゃないだろ、頼んでいる身なのに兄貴が責めるわけがない」
もし責めるような人間ならそれこそ兄とか家族の態度のせいで引きこもっていると考えた方がいい。
まあ、実際はそうではないからこそ困っているわけで、ほとんど無理だと思っていても完全に諦めることができないでいるんだろうが。
家族で無理なら友達にとなるのはまあ分からなくもない、ただ、それでも家族でも無理なのにという考えは絶対にあるだろうな。
「で、今日の用事は?」
「とりあえず櫻井君にその件は任せてあるから別件かな」
「だからなんだよ?」
「一緒にお出かけしたい」
聞き間違いかと思ってじっと見ていたら「一緒にお出かけがしたいの」と再度言われてしまった。
「お前にとってのメリットは?」
「それは加福君といられることだよ」
「やめろやめろ、一緒にいるのはいいが出かけるのはなしだ」
怖えよ、まだ○○が狙いなどとはっきりと言われていた方がマシってもんだ。
やるために残っているのもあって途中からは無視して自分のことに集中していた、ただまあ焦る必要はないからとにかくゆっくりと、ではあるが。
苦手な教科もなければ得意な教科もないため、じわじわと攻略していく感じだ。
「あのとき、ちょっとお遊びで男の子の格好をしていたんだ」
「じゃああれは弟じゃなくてお前だったと?」
兄や弟がいないとなればあれは誰の学生服なんだろうか。
簡単に売ったり買ったりはできないだろうし、あ、それこそ友達の兄から借りたということか。
「絡まれてどうしようと焦っていたときに加福君が助けてくれたから……」
「『別に助けてくれなくてもよかったんだけど』と言ってくれたが」
「男の子とはあんまり一緒に過ごすことってなかったから焦っちゃって……」
彼女から放たれるこういう情報は全て嘘臭かった。
余程のやべーやつでもない限り女子なら男子と関わりぐらいあるだろう。
だからそこを隠しても意味はないのにな、はっきり言っておいた方が相手の本当のところを見ることができる。
それだというのにこいつは……。
「お前もテスト勉強をやれ」
「うん」
「で、まあ、ずっとは俺だってできないから空白の時間ってやつができるだろ」
「ん……?」
「いまはとにかく勉強だ」
もう今日はやりたくないという状態まで追い込まないと遊んでもいられないだろ。
だらだらするのはあくまで冬休みだ、それまではやらなければならないことをしておかなければならない。
大丈夫だ、他人のためではなく自分のためなら人間は頑張れる。
ゆっくりしたり楽しんだりしたりするためにもこれは必要なことだった。
「これぐらいだな」
「え、あれからまだ一時間ぐらいしか経過していないよ?」
「俺はお前がぺらぺら話す前からやっていたからな」
片付けて帰る、とはせずにまだ帰る気がなさそうな彼女を見る。
「なんで私はじっと見られているの?」
「おいおい、もうその歳で記憶力がやばいのか?」
うわ、しかも「え、あれ」などと分かっていないみたいだった。
ここで遊びに行くんじゃなかったのか的なことを言うとこちらが期待しているみたいになってしまうため、絶対にそんなことはできないわけで。
「俺はやらなければならないことをした、で、もう暗いがまだ家に帰らなければならない時間というわけでもない」
「えっと、うーん、あ! 遊んでくれるってこと?」
遊びに行くというか俺はただ付いて行くだけだ。
彼女が行きたいところに合わせて行って、喋りかけられたら反応をする程度だから違う。
「あ、櫻井君も誘っていい?」
「いいぞ、それなら呼ぶわ」
連絡をしてみたら来てくれるとのことだったため、校門前で待っていた。
晃と仲良くするしたいならそれがいい、異性耐性が高いから安心できる。
まあその、年上の異性というのはいいように見えるだろうから晃的にも悪くない相手だと思うんだ。
「ごめん、ちょっと時間がかかっちゃった」
「いいんだよ、さ、晃はこの女子の相手を頼む」
「うん、だって誘ってもらえたんだからね」
彼女はすぐに敬語をやめていいと言ったものの、彼が受け入れることはなかった。
ただ、それで雰囲気が微妙になるとかそういうこともなく、二人で楽しそうにやれていた。
空気を読んで帰ることは簡単だが、それだと晃に申し訳ないから我慢をして付き合っていた。
「とりあえず今日はこれぐらいですかね」
「あ、そっか、加福君は妹さんにご飯を作らなければならないんだよね」
「まあな、じゃあまた明日な」
晃と仲良くしたいということなら協力してやるよ。
もっとも、妹からも頼まれた場合は間違いなくそっちを優先するがと内で呟く。
「僕に興味がある……わけではないよね?」
「興味があるから誘ったんだろ? なにか用があるわけでもなく、興味もないのに誘う人間がいるか?」
「そっか、でも、こうして一緒に過ごしたからには仲良くしたいな」
彼のこういうところは絶対に真似をすることができないと分かった。
どうすればこういう風になるんだろうか、こう言ってはなんだが彼の両親はこういうタイプではないというのにどこから引き継いだのかという話だ。
いやまあ、たまに適当な両親からしっかり者が生まれるなんてこともあるが……。
「あと、もっと崇英と過ごしたいな」
「俺なんかよりもっとしっかりとした人間と過ごせよ」
「なんで?」
なんでと言われてもいい影響は与えられないからだろ。
なんて、情けなさすぎるからこんなことはやはり言えなかったが。
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