第5話:宇宙人が考えたさいきょうのおうちデートプラン【看病編②】


『うゆ~看病デートは楽しいですね~』


 というわけでおうちデートは〝看病〟パートの〝お口あーん〟フェーズに差し掛かっていた。

 ともかくエレクトがご機嫌で何よりだ。

 

『あやややや! こぼしちゃいました~』


 いや、明らかに自らスプーンを横に傾けただろうが。


『仕方ありませんねえ、ここは……ぺろぺろしてあげますね~』


 ふつうに拭けよ! そこに置いてあるタオルは何のためにあるんだ!


『それではいきますよ~ぺろ~ぺろろ~』


 一応は。

 実際に舐めているわけではなかった。

 口で言いながらも、その舌は俺の身体から浮かせている。


 ――っていうかよく見るとエレクトの頬も真っ赤に染まっていた。

 

 なんだよ、自分も恥ずかしいんじゃんかよ。


『うゆ~。なんだか汗をかいてしまいました……』


 汗。そして頬の上気。

 それはこの〝恋愛ごっこ〟を始めた頃のエレクトには無かった体の反応だった。


 ――残念ながら、私の種族には〝恋愛〟の概念がないんですよう……。


 彼女が以前そう言っていたことを思い出す。

 ということは、つまり。


 エレクトは――恋の〝ドキドキ〟を知らないということか。


 あの燃えたぎるような熱情を。

 胸が締め付けられるような劣情を。

 恋愛がもたらす情念の瞬きを。


 彼女は知らないということなのか。


 うん。奇遇だな。

 まったくもってじゃあないか!


 こちとら勤勉一心で恋なんてしてこなかった。

 筋金入りの恋愛童貞だ。


 だからつまり、これは。


 ――お互いにとっての恋愛だった。


 否。

 ハジメテだからこそ、これが正しい恋愛のカタチかどうかも我々には判断がつかない。


 あくまで初心者どうしの〝恋愛ごっこ〟だ。


『うゆ~、あついですね~』


 エレクトは手でぱたぱたと仰ぎながら嬉しそうに頬を朱に染めている。

 よかった。未経験の俺相手でも少しは情事に満足できたようだ。


 これで無事に例の〝猿でもわかる!〟シリーズのトンデモ理論参考書を――


『ジンさんっ!』


「うん?」

 

『もしかしたら――こそが、まさしく〝恋愛〟なんですかねえ~』


 うゆゆ~、とはにかむような笑顔を浮かべるエレクト。

 そんな無邪気な様子に。と思わず、心の底から楽しんでいる彼女の純真に。

 俺の心の端っこの方がきしむ音がした。


 ――って、危ない危ない。


 慌てて首を振って聞こえてきた音をかき消してやる。

 俺は参考書さえ手に入ればそれでいいのだ。を楽しんでいる暇はない。

 

 そもそも〝取引〟を持ち掛けてきたのはエレクトの方なのだ。その時にちょっと闇黒っぽい微笑も浮かべてたし。

 真摯さにおいてはこれでイーブンでチャラで50フィフティ50フィフティだ。

 

 よこしまな気持ちで恋愛ごっこに付き合って何が悪い。

 結果として俺は【トンデモ理論】を手に入れて大満足。

 エレクトは恋愛のもたらす【ドキドキ】を体験できて大満足。


 お互いの利益がこれでもかと一致したウィン=ウィンの関係だ。


 エレクトといえば『うゆ~、あついです~』と未だに頬を紅く染め頬を緩めている。

 胸元を開いてそこに風を送る様子がなんとまあ、という感じだ。なんとまあ。


『うゆ~そろそろ〝おうちデート〟もですね~』


 終盤戦、と彼女は言った。

 そうだ。実は最初から予想はできたハズなのだ。

 エレクトはここまで一応はに従って〝恋愛ごっこ〟を続けていたのだから。


『だから最後はやっぱり……をするしかないですう』


 さすれば〝おうちデート〟の最終盤に待ち受ける逢瀬の〆は。

 アレとボヤかす必要もないほど――アレであるということに。


 

『ジンさん――私と〝えっち〟をしましょう~』

 

 

 なんと。

 まあ。


 

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