白いオアシスに向かう日

ももいくれあ

第1話

わたしは、そのコトバを。

咀嚼していた。

見境がなかった。

とめどなく、ただひたすらに、

赴くままに、果てしなく、その日のワタシは留まるコトをしらなかった。

ああ、なんてことだろう。

なんてところまできたのだろうか。

周りにある、たいていのものは、カノジョの中に入って入った。

残念。無念。切ない。苦しい。悔しい。悲しい。しんどい。辛い。

狂おしい。甚だしい。掻きむしりたくなるような喉の渇き。

なんでなのか。

どこまでなのか。

いつまでなのか。

いつからなのか。

いったい、これは、何なのか。

果たして誰にわかるものなのか。

この一面に広がった、広くて狭い空間に。

夥しい匂いが立ち込めた部屋一片の片隅に。

カノジョはただ怯えているだけだった。

それは、それは、酷く怯えていて、

リーゼ、コントミン、リスペリドン、トレドミン、ミオナール、ロラメット

レキソタン、炭酸リチウム、レキサルティ、デエビゴ、トランキライザー

辺り一面に広がった食べた後の様子を見ると、相当のことが伺え知れた。

あのね。

あのね。

ワタシはひと文字ずつ丁寧に言葉を置いていった。

飲み込んだはずのモノたちと、

飲み込みたくなかったはずのモノたちの、

そういうやりとりを、一つずつ丁寧に進めていくことにした。

一通りのやりとりがすんで、

カノジョは階段を降りて下の部屋で小さくうずくまり、

勿論、いつもの毛布にくるまって、あったかいハーブティーを待っているところだった。

救急車が一台来ていたが、カノジョの意識が戻り、判断をしている最中だった。

だが、飲み込なくていいはずのモノたちを大量に飲み込んでいたワタシはカノジョの横でぐったりとしていて、結局2人とも運ばれることになった。

慌ただしい朝の、慌ただしい日常が、毎日が、繰り返される日々が、これでは、

ワタシもカノジョもちょっと疲れてしまう。

 時には、海にでもドライブに出かけたくなるものだった。

昼間のワタシは穏やかで、大人しくて、静かで、緩やかで、柔らかで、素っ気なくて、

はにかんでいて、にこやかで、柔和で、たおやかかで、しなやかで、所在無げだった。

どこか、不安を抱えたココロの隙間にスーッと風が入ってきては、通り抜けてく。

寒いっ。って感じるちょっと前のあの感覚にどこか似ていた。

今日は、雨。ドライブにはちょうど良いんじゃない。

オープンカーは閉めたままだし、そのホロから伝わる雨の感覚は優しくて、冷んやりしていて、シトシトしていて、独特のリズムでワタシの鼓動を動かしていた。

程よい硬さのホロから、適度な冷たさの雨の雫。じんわり広がる音と感覚。

一定の規則的、不規則的な、雨のリズムに踊り出しそうになりながら、

じっとココロを沈めていた。

また、いつ、あの高波が襲ってくるのかと思うと、恐ろしくて、

運転中も集中できなくなりそうで、ワタシは雨に身を委ねた。

帰り道、またしても大きな大きな過ちを、重大な出来事を起こす前の出来事を起こしてしまった。

大量に買い物をできるショッピングセンターがあると知っていて、カノジョは今日の目的地を選んでいたのだった。そんなことは夢にも思わない。でも現実ではわかっていたワタシはやっぱりね。と笑みを浮かべた。2人はまたしても始めてしまうつもりなのか。とカレが後ろで囁いた。だって、いいじゃない。私たちは、別に悪いことしていないんだから。

カレがカジョを止める前にワタシがカレを止めていた。

結局、大量の飲み込みたくないと予測されるモノたちは帰路についた。

いつの間にか、カレは、夕食の準備をすると言ってキッチンにへばりついていた。

やれやれ。。

いつものことだが、沢山の美味しいお料理を作ってくれるのは、カレ。

一口もいただかず、ワイン片手にナッツだらけ。

ナッツ以外からも栄養を補給した方が良いと思うけれど、カレがそれで良いのなら、

まぁそれはそれでよしとしましょう。今のところワタシとカノジョに特に有害なコトは一つもないので。

いい香りがしてきているキッチンの横で。

カノジョは、くるまっていた。

勿論、いつものように裸のまま、いつもの毛布に、大量の飲み込みたくなかったはずのモノたちを両脇に抱えて。

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