第25話 卵男対シフターズ 前編

 「……時計兎、笑い猫、帽子屋、皆死んじゃった」


 何処かの次元の闇の城、庭の広間で女王アリスが一人で自らの影を切り分けてメイドの形にして操れば影のメイドが丸いテーブルの上にお茶と茶菓子の準備をする。


 「まあ、彼らは皆好きに生きたからそれで良しではなかろうかね?」


 紳士服を着た卵男がカップを片手に語る。


 「……わからないわ? 私はちょっとつまらない、あなたはどうなの卵男?」


 アリスがクッキーをかじりながら聞いてみる。


 「さて、私にもわからんよ♪ それでも私達は好きに生きるさ♪」


 卵男は微笑んだ。


 「そうね、私がかき集めた彼らもそうだったね♪ 変身勇者、あの子達とはお友達になれるかしら?」


 「なれるかも知れないし、なれないかも知れない?」


 「うん、やっぱりあなたの言う事はわからないけれど音がないよりは楽しい♪」


 アリスと卵男の狂ったお茶会は、会話にならない会話で終わった。


 卵男は地面に沈むように消えて行き、オーガシマへと向かった。


 「ねえジャヴァウォック♪ 卵男はどんな物語を見せてくれるのかしら♪」


 アリスの呟きに、彼女の影が巨大な獣の形に変化して笑った。


 「残る幹部は二人ですな、卵男と女王アリス」


 牛車の中でアカネが呟く。


 「卵男ってのは、何だか名前からして不気味だねえ?」


 お園さんがお茶をすすりながら答える。


 「割れば殺せるのか? はたまた自分を割って変身するのか?」


 ウコンも頭を捻て、敵について考えてみる。


 「食べられる妖魔ではなさそうですね」


 チグサが呟く。


 「キジー、そんな変な奴は食べたくない! 帽子屋が、足が臭いって言ってた!」


 キジーが気持ち悪そうな顔をして叫ぶ。


 「まあ、食いたくないのは同感だ♪ どんな輩かわからんが粉砕しよう♪」


 太郎が話をまとめる。


 「あれ~? ボス~? 何か周りにでっかい卵がゴロゴロしてない?」


 「感知の術っ! 大将大変です、人間も家畜も卵に閉じ込められてます!」


 キジーが周囲の異変に気付き、ウコンが両手を眼鏡のようにして感知の術で探る。


 「お園さんは、中で待機していて下さいね」


 チグサがお園さん五告げる。


 「あいよ、荒事はあんた達に任せた♪ 牛車の操作は任せな♪」


 お園さんも従う。


 「よし皆、まずは調査だ!」


 牛車を止めて、まずは道の近くの畑に向かう。


 「畑の上に巨大な卵、殿も目に力を入れてご覧下され」


 アカネが漫画のように瞳に炎を灯す、太郎も同じように瞳に炎を灯して卵を見た。


 「卵の中身は、農夫のお爺さんか? どんな術だろう?」


 太郎が確認をして訝しむ。


 「これ、何となくわかるけど割ったら駄目だし放っとくのも駄目だ!」


 キジーが何かを感じ取った。


 「ご主人様、卵の中から妖気を感じます!」


 チグサが妖気を感知した。


 「ヤバいです、これは人間を妖魔に生まれ変わらせる術かと!」


 ウコンがとんでもない結論に至った。


 「如何為されますか殿?」


 アカネが太郎にどうするかを尋ねる。


 「俺達が発見できたのは運が良い、風呂の用意にかかれ!」


 太郎が仲間達に命じた。


 「ウキ? お風呂ですか? そいつは一体?」


 ウコンは太郎の考えがわからなかった。


 「ボス? もしかして茹で卵にして食べちゃうの!」


 キジーが何かに気付いて恐れおののく。


 「キジーは半分正解だが食わない、こいつも一緒に茹でるのさ♪」


 太郎が桃饅頭を取り出して微笑んだ。


 「なるほど♪ 桃饅頭の煮汁で卵の中の邪気を滅するのですね♪」


 アカネが太郎の言いたい事に気が付いた。


 「流石、大将♪ 合点です、風呂釜を取ってきます~♪」


 ウコンは雲に乗って空を飛び、ステルスモードで空から牛車を自動追尾している大桃号に向かった。


 「ボス、頭良い~♪ それなら行ける気がするよ~♪」


 キジーが太郎の考えに喜ぶ。


 「キジーがいたから思いついた、鳥の妖魔は産んだ卵を温めて孵すんだよな?」


 「そうそう、キジーのパパとママもそうしていたんだあの狸達に殺されるまでは」


 太郎がキジーと語る、どうやら宿を乗っ取っていた狸共はキジ―の義理の弟妹をも殺していたようだった。


 「わかりました、私は竈用の穴を掘ります♪」


 チグサは大きな犬に変化して、何もない土地を掘り出した。


 「じゃあ、キジーは薪を取って来るよ~♪」


 キジーも鳥形態に変化して空へと飛んで行った。


 「それじゃあアカネと俺は火の係だな♪」


 「お任せあれ、夫婦の共同作業ですなあ♪」


 アカネは太郎の言葉に頬を染めた。


 「えっと、アカネさん? 所で俺はもしや熊鍋を食った時にまさか?」


 太郎がアカネと二人きりになったので、勇気を出して聞いてみた。


 「……はい♪ 我ら全員太郎様に純血を奉げて、妻となりました♪」


 「……やっぱりか、皆の態度からもしやと思っていたが」


 太郎はついに、記憶が抜けていた時に自分がしでかしていた事を知ってしまった。


 「我らが永遠に離しませぬし、他の女子も近づけさせませぬ♪」


 「わかった、本当に責任を取って皆とこっちで生きて行く!」


 「ヤチヨ村に帰ったら、盛大に祝言を挙げましょうね♪ 旦那様♪」


 太郎は、アカネ達仲間からの愛に対して自分には外堀も退路もない事を自覚した。


 「……責任取りつつ、幸せになるぜ♪」


 太郎は呟く。


 「勿論です、我らはこれから幸せに暮らす為にもブラックテイルは討たねば♪」


 太郎の呟きはアカネに聞かれていた。


 「……いや、そこは聞いても聞き流してくれよ!」


 「愛する殿のお言葉を聞き漏らすなどありえませぬ♪ ささ、私めともっと♪」


 照れる太郎に抱き着こうと近寄るアカネ。


 「「ちょっと待った~~~っ!」」


 仲間達が戻って来てアカネにツッコんだ。


 「ずるいですよアカネ先輩! 大将、私は熱い接吻を♪」


 風呂釜を持って来たウコンが、太郎に褒美を要求する。


 「ご主人様、頑張ったので私と一緒にお散歩して下さい♪」


 チグサも息を荒くして太郎に詰め寄った。


 「ボス~♪ キジーはボスのお膝の上で抱っこ♪」


 キジーは太郎の背中におぶさった。


 「むむ、皆さん素早いお帰りですね?」


 アカネは残念がった。


 「わかった! まずはゆで卵作戦の後でそれぞれの要求を果たす!」


 太郎は仲間達の要求を呑むと言い、作戦の実行に入った。


 ウコンが用意した風呂釜を、キジ―が薪を用意しチグサが穴を掘って作った竈に設置する。


 「水はお任せを♪ 雨よ降れ~♪」


 ウコンがシフトチェンジャーを頭上に掲げて回し、雨雲を呼び釜を水で満たす。


 「桃饅頭を~♪ ポイポイポ~イ♪」


 キジーが空から桃饅頭を釜へと投下。


 「卵を静かに入れます」


 チグサが卵を釜の中に丁寧に入れた。


 「では、私が火を付けます♪」


 アカネが口から火を吐いて薪に火を付けた。


 「そして俺が軍配で火力調整だ♪」


 太郎がタイミングを計って軍配で仰ぐ、日本の時代劇の風呂沸かしの要領だ。


 「桃饅頭が食べた人間をガッツリ強化するのは、この間のキンタ君で証明済み♪」


 桃饅頭と共に茹でられる卵を見て、ウコンがニヤリとする。


 「つまり、中の人は怪我をするどころか健康になって助かるんですね♪」


 チグサが中の人間に害がない事を知り安堵する。


 「では、他の卵にされた人々も連れて参りましょう♪」


 アカネが他の卵も取りに行く。


 「キジーも取って来るよ~♪」


 キジーも元気に取りに行く。


 「キンタ君の家ではやり過ぎだと思いましたが、こういう事態には最適ですね♪」


 ウコンが太郎に語りかける。


 「ああ、流石は祖母ちゃんだぜ♪ 助け終わったらお賽銭入れないと♪」


 太郎は祖母であるヤチヨに感謝した。


 しばらくすると、茹で過ぎたゆで卵が爆発するように卵から元気になったお爺さんが飛び出してきた。


 「ヒャッハ~♪ 助かりましたぞ、太郎様~♪」


 元気になったお爺さんが太郎に礼を言って去って行く。


 「あっはっは♪ やはり人助けは気分が良い、あのお爺さんの笑顔を見ろ♪」


 助かった人を見た太郎が笑い出す。


 「大将、私達は良い事をしているはずなんですけど何か違う気が?」


 太郎とは違いウコンは何処かズレている気がした。


 こうして、太郎が考えたゆで卵作戦は効果を発揮し卵に閉じ込められた人達は全員助かった。


 「やったねボス♪ みんな元気になって助かったよ♪」


 キジーが作戦の成功を喜んだ。


 「良かったです、放っていたら皆が悪い妖魔に生まれ変わていたかもと思うと」


 自身が悪の手で妖魔に変えられたチグサが安堵する。


 「そうですけど、やっぱり元気になり過ぎじゃありませんか?」


 ウコンは段々と、普通の人間のような感性が芽生えて来ていた。


 「ウコン殿、こういう時は素直に喜べばいいのです♪」


 アカネは太郎のように元気に笑った、助けられた人々も元気に笑った。


 「こうして皆で笑い合える、素晴らしいじゃないか♪」


 「ウキ~! 大将がこっちの世界に染まり過ぎて私が人間みたいになってる!」


 ウコンは自分の感性が変化した事で混乱した。


 そんな中、助けた村人の中からローブ姿の長老風の格好をした筋骨隆々のお爺さんが太郎達に近づいて来た。


 「あなたが太郎様ですな、我ら村の者をお救いいただきありがとうございました」


 桃饅頭により、太郎の情報を知った長老が語り掛ける。


 「はい、俺達は岩山の国へ向かう途中だったんですがこの村に一体何があったんですか?」


 太郎が長老に尋ねる。


 「実は、その岩山の国の大臣を名乗る卵のように太った男が犯人なのです!」


 長老が叫ぶ、ある日ふらりと岩山の国の大臣を名乗る男が現れて村を岩山の国の参加に入らないかと提案して来たと言う。


 「ふむ、それを断ったから術を掛けられて村の人達が卵にされたと?」


 太郎が長老の話を聞いて返事をした。


 「はい、おそらくは男の正体は妖魔ですじゃ! 太郎様、世の為に妖魔を討って下され!」


 長老が太郎に頼む。


 「心得た、その妖魔は俺達が倒そうと探していた奴だろうからな♪」


 太郎はがそう答えると、長老は彼に頭を下げた。


 「それと、我らを助けていただいた報酬を現物で差し上げますお納め下され♪」


 長老はそういうと村人に命じて、何か円錐形の金属の容器を持って来させた。


 「これは、もしや牛乳ですか?」


 太郎がその容器を見て牧場のミルク缶を思い出した。


 「ご存じでしたか♪ 村の特産品の牛乳でございます♪」


 長老が太郎が分かった事が嬉しいのか喜んで差し出す。


 「確かにいただきました、それでは岩山の国の件もお任せ下さい♪」


 太郎は受取り長老に返事をした。


 「いやあ♪ 報酬があるとやって良かったですよ♪」


 報酬が発生した途端に笑顔になるウコン。


 「牛乳、どんな飲み物か気になります♪」


 チグサは牛乳が珍しいのか興味津々だった。


 「わ~い♪ 報酬、報酬♪」


 キジーも報酬を得て喜ぶ。


 「殿、人助けもできて敵の居場所も掴めましたし運が良いですな♪」


 アカネが太郎に微笑む。


 「ああ、皆牛車に戻るぞ! 岩山の国に殴り込みだ♪」


 太郎が叫ぶと、仲間達が応とレスポンスする。


 卵男の成敗へのカウントが始まった。

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