第24話 熊とシフターズ

 「……やばい、また敵から情報を引き出すのを忘れていた!」


 牛車の中、太郎が気づきたくない事に気付く。


 「大丈夫だよボス~♪ 旅をして、悪者やっつけてればいつかぶつかるよ♪」


 キジーは能天気に太郎を慰めた。


 「そうですよ大将♪ これから行く隣国で、調べれば良いんですって♪」


 ウコンもお気楽だった。


 「悩む時もあるけれど、まっすぐ前を向きましょう♪」


 チグサが拳を握り慰める。


 「我らが知恵と力と勇気を持って事に当たれば、問題なしです♪」


 アカネが豪快に笑った。


 「坊や、あんたは気を回し過ぎる所があるねえ? まあ、色々気と頭を回さない頭よりは良いけれどさ♪」


 お園さんも太郎を慰める。


 港町の国で帽子屋の事件を解決したブレイブシフターズ、ウーラ王子とトヨの結婚を祝った彼らは隣国である岩山の国を目指していた。


 「そうだよな、お姫様がアヒルの妖魔だったけど偽者だったって事かな?」


 地球の歴史なら、嫁ぎに行ったお姫様が嫁ぎ先で死んだとかなれば最悪戦争もあり得る話である。


 「そう言えば、岩山の国ってガンテツさんを思い出しますね」


 チグサがロボシフトの術を授けてくれた神を思い出す。


 「あ~? あのおっさん、確かここいらで崇めれてたはずですよ?」


 ウコンが嫌な顔をしながら語り出す、過去に何かあったようだ。


 「もしかしたらあのおっちゃんとまた会うかもね、ボス♪」


 キジーもおっちゃん呼びであった。


 「まあ、その時はきちんと応対するんだよ神様と谷町とお客とお金は大事だから」


 お園さんは商売人の顔で語る。


 そんな中、牛車が急に止まった。


 「やや! こんな林道で止まるとは、敵襲ですか?」


 ウコンが警戒する。


 「良し、俺が見て来る!」


 太郎が牛車を出て見ると、熊の耳を生やした非武装で金髪の小さな美少年が三匹ほどの野犬に狙われて腰を抜かしていた。


 「た、助けてっ!」


 「助けるぞっ! グンバイトルネード!」


 太郎がシフトチェンジャーを振るい、大風を巻き起こして野犬達を空の彼方まで吹き飛ばした。


 「う、うわ~~ん!」


 太郎に助けられた少年は、助かった開放感から泣き出した。


 「運が良いな♪ こいつをお食べ、美味しいよ♪」


 太郎が身を屈めて少年と目線を合わせ、桃饅頭を差し出す。


 少年は、甘い臭いに惹かれて受け取ると一気に食った。


 「う、美味い~~~っ♪ ありがとう、太郎兄ちゃん♪ 僕はキンタです、宜しくお願いします♪」


 「おう、宜しくなキンタ君♪」


 桃饅頭の力か、太郎はキンタに出会ってすぐに懐かれた。


 「殿、どうされました? やや、熊の子っ!」


 太郎を追い、牛車から出て来たアカネがキンタを発見する。


 「お、鬼だ~~~~っ! 助けて、太郎兄ちゃ~~~んっ!」


 アカネを見たキンタは、泣きながら太郎の後ろに隠れた。


 アカネは落ち込んだ。


 「大将? やや、その少年は一体? ま、まさか大将の隠し子ですか!」


 ウコンも出て来てとんでもない勘違いをする。


 「ウコンさん、あの子はご主人様とは完全に無関係ですよ♪ 桃饅頭の臭いがしますが?」


 チグサも出て来て即座に鑑定した。


 「……おい? お前誰に断って、ボスの右足にくっ付いてるんだよ!」


 キジーはキンタがいる場所を見て機嫌が悪くなった。


 キンタは顔は涙に、ズボンは漏らして気絶していた。


 「あ~あ? こりゃ洗濯しねえとな? アカネ達のフォローもしねえと?」


 キンタと自分の足を見て太郎は溜息を吐いた。


 洗濯と着替えとキンタへの事情聴取の為、牛車を止めた一行。


 キンタはお園さんに任せて、太郎はアカネのケアをしていた。


 「太郎様~~っ! 私は悍ましいのですか? 醜女なのですか?」


 「そんなわけないだろう? アカネは綺麗だよ♪」


 太郎を殿呼びではなく本名呼びで泣き出す、アカネを太郎は抱きしめて慰めた。


 「アカネ、良い臭いがする♪ アカネは強くて優しくて素敵な人だよ♪」


 「た、太郎様~♪」


 「よしよし、アカネは良い子♪」


 抱きしめたアカネの背中を撫でる太郎、何とかアカネのメンタルがおちついたのであった。


 「お母さんが調子が悪くなったから、薬を買いに山を下りたら野犬に」


 お園さんに膝の上に乗せられたキンタが語り出す。


 「そうか、ならば急いで向かうから案内を頼む!」


 「……え? 薬はまだ買ってないよ!」


 「心配するな、薬ならある♪」


 「流石、大将♪ 素敵です♪」


 「ご主人様、好き♪」


 「ボス、優しい♪ お前、運が良いぞ♪」


 「あ、ありがとう太郎兄ちゃん♪」


 「しかし、キンタ殿は何故殿の名を?」


 「俺が桃饅頭を食わせたからだ♪」


 「……え、それってもしかして私らと同じでは?」


 キンタとの僅かな会話から彼の母を救うと決めた太郎。


 ウコンは、太郎の言葉からキンタと言う熊獣人の少年に自分達と同じく変身勇者の素質が生えたと感じた。


 「あんた達、お代は無しだが行って来な♪」


 お園さんが牛車で留守を守り、太郎達を送り出した。


 「なるほど、キンタ君は獣人じゅうじんと言う人族ひとぞくか」


 「……太郎兄ちゃんは、人間なの?」


 「我が殿は、我らがオーガの神の血を引く神人しんじんぞ♪」


 「凄い、神人って本当にいたんだ♪」


 「お前、そんな凄い人におんぶされてるんだぞ? キジーだってまだなのに!」


 「キジー、帰りは抱っこで運ぶから許せ♪」


 「オッケ~、ボス♪」


 「私達も、ご主人様のご褒美が欲しいです」


 「私も欲しいです♪」


 「ああ、お前達にも必ず報いる♪」


 「……太郎兄ちゃん、大変だね」


 太郎がキンタを背負い仲間達と山道を行く。


 その中で、オーガシマの人類は人間とオーガの他に、獣人にエルフにドワーフがいると知った。


 「他には妖魔との混血のブリード、大将みたいな神人は上位種って別枠です♪」


 ウコンがオーガシマの種族を解説してくれた。


 「里だ、一番奥の家が僕の家だよ♪」


 山の中の開けた土地、簡素な木の家に畑が並ぶ中石造りのそこそこ立派な家に太郎達はやって来た。


 「お母さん、ただいま♪ お薬をくれる人達を連れて来たよ♪」


 太郎から降りたキンタがドアを開けて入って行く。


 「失礼します」


 太郎達もキンタの家に入る。


 「……キンタ、お帰りなさい♪ お客様ですか?」


 家の居間では、美人ではあるがキンタに似た疲れた感じの黄色いローブ姿の熊耳の女性が食卓の椅子に座りコップで水を飲んでいた。


 「初めまして、太郎と言います♪ 薬の前に、こちらの弁当をどうぞお召し上がり下さい♪」


 太郎が弁当の入った重箱とモモ饅頭を、食卓に置いて差し出す。


 「……そ、そんな見ず知らずの方からいただくなんて?」


 「お母さん、太郎兄ちゃんは僕を助けてくれたいい人だよ?」


 「どうかお召し上がり下い、キンタ君の苦労に報いると思って」


 「……そ、それではいただきます」


 太郎達に促されて重箱の蓋を開けたキンタの母を、黄金の光が照らす。


 重箱の中のご馳走を一心不乱に食べるキンタの母。


 「キンタ君も食べな♪」


 「ありがとう、太郎兄ちゃん♪ ま、眩しいっ!」


 キンタの分も重箱と桃饅頭を出して食べさせる太郎。


 「「う、美味い~~っ♪」」


 キンタ母子が同時に叫び声を上ゲて、全身から金色のオーラを発する。


 「ち、力が! 体に力が漲りますっ! あ、頭に知識が入って来た!」


 「僕も、力が湧いて来たよお母さんっ♪」


 「た、大将っ! キンタ君のお母さんの体が、筋肉モリモリになって来てます!」


 ウコンが驚く、キンタの母親の体がみるみる内に肌艶が良くなり全身に筋肉がついてビルドアップしていった。


 キンタの体も背が伸びて筋肉が付きと、肉体がレベルアップした。


 「おおっ♪ キンタ殿もご母堂も、見違えるようになりましたな♪」


 「神のご飯と桃饅頭、凄すぎます!」


 「いや、これは元気になり過ぎでしょう! ヤチヨは自重しろっ!」


 「すっご~い♪ 流石、ボスのグランマだよ~♪」


 「あっはっは♪ 良かった、良かった♪ 二人とも元気になって良かった♪」


 太郎は元気になり過ぎたキンタ母子を見て、心の底から喜んだ。


 「ありがとう、太郎兄ちゃん♪」


 「太郎様、この度はお助けいただき誠にありがとうございました♪」


 力に目覚めたキンタと、弱っていた状態から一気にビルドアップしたキンタの母が太郎に礼を言う。


 「いやいや、キンタ君が間に合って良かった♪ 達者で暮らして下さい♪」


 太郎が二人に答える、自分の母を救えなかった太郎はキンタ母子を救えたことが嬉しかった。


 「良かったですな、殿♪」


 アカネが太郎に寄り添う。


 「いやあ、神の力ってヤバいですね」


 ウコンが冷や汗を流す。


 「キンタ君、良かったね♪」


 チグサは感動で泣いた。


 「ヘイ♪ もう漏らすなよ♪」


 キジーが笑い、キンタと拳を突き合わせる。


 「このご恩は、この子を立派な戦士に育ててお返しいたします♪」


 キンタの母が太郎に告げる。


 「僕、太郎兄ちゃんみたいな変身勇者になる♪」


 キンタが太郎に告げる。


 「ああ、なれるさ♪ 見込みがある♪ 強く優しく元気に育てよ♪」


 太郎がキンタの頭を撫でた。


 太郎達はキンタを母子を救い、山里を出て行った。


 「ボス~♪ あいつ立派に育つかな?」


 太郎に抱っこされながらキジーが呟く。


 「まあ、大丈夫だろう♪ 祖母ちゃんの飯を食った奴が悪くなる理由がない♪」


 太郎は妙な自信があった。


 「しかし、今回は奇妙な縁でしたな♪」


 アカネが太郎に語りかける。


 「きっと、獣人の神様が私達を導いたんですよ♪」


 チグサが微笑む。


 「会う事があったら、お話合いした方が良いと思いますよその神様?」


 ウコンがぼやく、久しぶりのただ働きであった。


 「まあ、その時はその時だ♪」


 太郎が元気に笑う。


 「皆お帰り、誰がくれたか知らないけれど今のちゃぶ台に金色の芋が一杯出て来たんだよ♪」


 太郎緒達が牛車へと戻ると、お園さんが不思議な事を言う。


 「……綺麗に光るお芋ですね♪」


 「では、この芋で私達もおやつにしましょう♪」


 「きっと、獣人の神様からの報酬だよ♪」


 「ほ、報酬が芋ですか! こうなったら、皆で焼き芋ですよ♪」


 「金色の薩摩芋、レアすぎるアイテムだな食って見るか♪」


 太郎達は金色の薩摩芋を焼き芋にして、堪能した。


 太郎達が助けたキンタ、後に彼は新たな変身勇者キンシフターとして太郎の息子を導く事となるがそれはまた別のお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る